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番外編②・魔王一家視察旅行【西都編】10

「いよいよ到着しましたね」 「ああ、疲れなかったか?」 「問題ありません」  気遣われて笑顔で返しました。  疲れなかったといえば嘘になりますが平気です。  西都から大瀑布まで馬を走らせても一時間ほどかかるところを、観衆に見守られながら進んでいたのでいつもより緊張していました。でもたくさんの方々が集まってくれていたことが嬉しいのです。  それにこうして大瀑布に向かって街道を進んだのは二度目でした。 「なんだか懐かしい気持ちになりました」 「俺もだ。あの時とはだいぶ状況が変わっているが」 「ふふふ、そうですね。ゼロスとクロードが増えました」  あの時はハウストと私とイスラの三人だけで、しかも私は婚約者という立場でした。  懐かしいあの時も楽しかったけれど、こうして五人で大瀑布への山道を歩けることも嬉しいです。  私たちは今から歩いて大瀑布に向かうことになりますが。 「ゼロス~、なにしてるんですか? はやくきてくださ~い!」 「まって~! ちょっとまって~!」  ゼロスがまだ馬車から降りてきません。馬車の荷台をごそごそ漁っています。  しばらく待っていると、なにやら見つけたようでゼロスの顔がパッと輝きました。 「あった~! ぼくのリュック!!」  どうやらゼロスは自分のリュックサックを持ってきていたようです。しかもクロードの赤ちゃん用リュックサックも用意してくれていたようでした。  ゼロスがリュックサックを背負って嬉しそうに駆けてきます。 「みんな、おまたせ~!」 「お待たせじゃないだろ。遅いぞ」  イスラに額を小突かれてゼロスが「ツンツンしないで~」と私の後ろに隠れてしまう。  でもお気に入りのリュックサックを背負ったゼロスはニコニコです。 「持ってきていたんですね」 「うん、きょうはみんなでおでかけだから」 「にー、あーあー! ばぶぶっ!」  抱っこしているクロードがゼロスに向かって手を伸ばします。自分の赤ちゃん用リュックを見てとっても嬉しそう。 「はい、クロードのもどうぞ」 「あいっ」  クロードにもリュックを背負わせてあげます。  クロードは背中の重みに小鼻をぴくぴくさせて、肩ベルトを両手でぎゅっと握りしめました。リュックを背負って気分が高まったようですね。 「では出発しましょうか」 「ブレイラ、クロードを貸せ」 「お願いします」  抱っこしていたクロードをハウストに預けました。  大瀑布までは緩やかな傾斜の散策歩道ですが山道であることに変わりはありませんからね。  ハウストは片腕にクロードを抱っこして山道を歩いてくれます。  私はハウストの隣を歩いて、イスラとゼロスは私たちの後ろを歩きました。  そんな私たち家族を護衛兵団が警備し、女官や侍女も隊列で続きます。  本当なら粛々とした視察道中になるはずですが、後ろから聞こえてくるのはゼロスの賑やかな声。 「あにうえ、たのしみだね!」 「ああ、そうだな」 「ついたらなにする? およぐ?」 「泳ぐわけないだろ」 「ええ~っ、ぼくじょうずにおよげるのに~。……あっ! あにうえみて! あっちにウサギさんがいる! お~い!」 「……騒がしい奴だな。今は追いかけるなよ?」  駆けだしていきそうなゼロスにイスラが釘を刺します。  ゼロスはぎくりっと固まってしまう。今にもぴゅーっと駆けだそうとする体勢でした。 「…………。……そんなことしないもん」 「本当だろうな」 「ほんと!」  ゼロスが焦って言い返しました。  明らかに追いかける気満々でしたが我慢できたので良しとしましょう。 「あうあーっ、あーあー!」  クロードはハウストの肩越しに後ろのイスラとゼロスに声をあげています。  聞こえてくる兄上たちの会話に自分も参加している気分なのでしょう。  でも肩越しで身を乗り出しているので、抱っこしているハウストは眉間の皺を深くします。  クロードが動くたびにリュックがハウストの顔にぐいぐいと押し付けられて大変そうなのです。 「おい動くな。俺の顔にぶつかってるだろ」 「あうーっ。あーあー!」 「なんでお前が怒るんだ……」 「ばぶっ」  ハウストの肩をバンバンするクロード。  家族でお出掛けなのでいつもよりはしゃいでいるようですね。 「ふふふ、クロードは兄上たちが気になるんですね」 「あい~、ばぶっ、あーあー」 「そうですか。一緒にお出掛けで嬉しいんですね」 「分かるのか?」  ハウストが眉をあげて聞いてきます。  そんなのもちろん。 「分かりません。でもきっとクロードはそう言ってます」 「……お前そういうとこあるよな」  ハウストが苦笑して言いました。  少し呆れた口調ですが楽しそうに目を細めています。  どういう意味ですかと言いたいけれど、今は視察中なので我慢してあげますよ。  私たちはおしゃべりを楽しみながら山道を登っていきます。  大瀑布が臨める広場に出ると、そこには西の大公爵ランディと大公爵夫人メルディナが待っていました。ここから先はランディの案内を受けるのです。 「お~いっ、おまたせ~!」  すっかりピクニック気分のゼロスがランディたちに向かって駆けだしていきます。  ランディとメルディナがお辞儀して出迎えてくれました。 「道中もお楽しみいただけたでしょうか。ここから先は私どもが案内いたします」  そう言ってランディとメルディナが深々と頭を下げました。 「待たせたな。案内を頼む」 「とても楽しみにしていたんです。よろしくお願いします」  ハウストと私がそう言うと、今度は二人の先導で大瀑布を案内されます。  広場の入口から少し歩くと、そこから臨めるのは一面の壁のような巨大大瀑布。  辺り一帯にはドドドドドドドッ!! と凄まじい滝の音が響いて、水飛沫の霧が離れた広場まで立ち込めているほどでした。  この見事なまでの壮大な絶景にゼロスが驚愕で目を丸めます。

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