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番外編②・魔王一家視察旅行【西都編】11

「わああああ~っ! すごいっ、おっきい! おっきい~~!!」  ゼロスが歓声をあげながらぴょんぴょんしました。  ハウストが抱っこしているクロードも興奮してパチパチ拍手します。 「きゃああっ、あーあー!」 「ふふふ、ゼロスとクロードは初めてですからびっくりしますよね。でも何度見ても感動する景色です」  私は広場からの絶景を楽しんでいました。  本当はもっと近づくこともできるのですが、広場からでも充分大自然を感じることができます。  私はここからの景色で充分。大瀑布は壮大すぎて、あまり近くで見ていると目の前がくらくらするほどなのです。  しかし、――――ガシリッ! ふいにゼロスに手を掴まれました。そして。 「もっとちかくでみたい! ブレイラ、いっしょにいこうよ!」 「えっ?」 「ほらあっち! あそこにもっとちかづけるばしょがあるみたい! ね、いっしょにみにいこ!?」 「…………」  ゼロスの無邪気なお誘い。  そう、この大瀑布は西都でも有数の観光名所なだけあって、大瀑布が目の前で楽しめるようにわざわざ対面の絶壁まで行けるようになっているのです。わざわざ! 「ゼ、ゼロス、私と行きたいんですか……?」 「うん、ぼくブレイラといきたいの! ここすごいから、ブレイラといっしょにみたいの!」 「……ふ、ふふふ。そうですか、嬉しいことを」  頑張っていつもの笑顔を浮かべてみせました。  親の私が『怖い』なんて言える筈がありません。  思い起こせば、イスラも初めて来たときにわざわざ絶壁に行きたがったのです。その時も一緒に行こうと誘われました。  まだ幼かったイスラと一緒に行った場所へ、今度は幼いゼロスと一緒に行くというのも悪くないかもしれません……。……いいでしょう、今回も行ってあげようじゃないですか。 「ハウスト、私はゼロスともうちょっと近くで見てきますね」 「大丈夫なのか?」  ハウストが聞いてくれました。  でも……ニヤニヤしてます。  ハウストが意地悪な顔でニヤニヤ。私が苦手なのを知っているのです。 「…………いじわるですね」 「心配する気持ちが隠し切れないんだ。苦手なんだろ?」 「ニヤニヤしながら言うことではありませんよ」  ムッとして言い返しました。  心配と言いながらニヤニヤが隠しきれていませんよ。 「それに苦手と言いますが私の反応は普通です。私が特別に臆病なわけではありませんよ。あなたやイスラやゼロスが規格外なんです」  そう、私が普通なのです。  でもこれはハウストにしか言えない本音。私にも守りたい親の威厳というものがありますからね。 「ハウストはそこで見ていてください。私の雄姿を」 「雄姿……」 「雄姿です」  私は気合いを入れるとお待たせしていたゼロスのところへ行きました。  ゼロスがワクワクしながら待っていてくれます。 「ブレイラ、はやくいこうよ!」 「はい、行きましょうか。でも私と手を繋いでくださいね。一人で走ってはいけませんよ?」 「わかった!」  私はゼロスと手を繋いで断崖へ。  平静を装いながらも、一歩一歩近づくにつれて緊張が高まっていく。  滝の爆音が鼓膜を震わせ、水飛沫に空気がしっとり濡れています。  こうして崖っぷちへ来たわけですが。 「うっ……」  足が竦んでしまう。  絶壁には柵が設置されていますが、これになんの意味があるのです。観光客が大瀑布を間近で楽しめるように設置されたといいますが、こんなの大きなお世話というもの。楽しめるわけが。 「わああ~っ、たのしい~~!!」  いました。  ここに楽しんでいる子がいました。  大興奮でおおはしゃぎしています。 「ブレイラみて! ゴオオオオッていってる! みずいっぱいおちてる!」 「ゼ、ゼロス、そんな前に出てはいけませんっ。ああっ、そんな前のめりになってっ……」  最初は手を繋いでいましたが、たまらずに背後から羽交い絞めしました。  とっても元気なこの子は今にも断崖絶壁でぴょんぴょんしそうなのです。 「ここからぴょんってして、くるくるしたい!」 「ダメですっ。絶対ダメです! ここから飛び込みなんてしてはいけません!」 「ぼく、じょうずにできるのに?」 「上手に出来てもダメです」  冥王なので大丈夫だと分かっていますがダメなものはダメです。  私はゼロスを後ろから抱き締めながら一緒に大瀑布を見学します。  はからずとも後ろから抱っこする形になっていて、ゼロスが嬉しそうに凭れかかってきました。まるで甘えるようなそれ。  顔を覗き込むと目が合って、ゼロスが私を見つめてはにかんだ笑顔になりました。 「えへへ、ブレイラ~」 「どうしました?」 「ブレイラ、だいすき!」 「私もあなたが大好きですよ」  そう答えるとゼロスはますます嬉しそう。  後ろから抱きしめる私の腕にぎゅっと抱きついて、前を見つめて口を開きます。 「あのときといっしょだね」 「あの時?」 「うん。クロードがぼくたちのとこにきたばっかのとき。クロードのせいでぼくがさびしくなっちゃって、プンプンしちゃって、ブレイラにバカっていっちゃった」 「ふふふ。そうですね、そんなこともありましたね」  もちろん覚えています。  あれはクロードが私たちのところに来たばかりの頃。ゼロスがクロードに嫉妬して城から飛び出してしまったのです。その時、私はゼロスと星空を見ながらたくさんお話ししました。あの時もこうして後ろから抱っこしていたので思いだしたようですね。 「ゼロス、今もあなたに寂しい思いをさせていますか?」 「ぼく?」 「はい、寂しいのを我慢したりしていませんか?」 「うーん、うーん」  あ、考え込んでしまいました。  なにか思うところがあるのでしょうか。クロードはまだ赤ちゃんなのでゼロスには我慢してもらうこともありますが、それでも寂しい思いをさせないように努めてきたつもりです。でも私の気が付かないところでゼロスはたくさんの我慢を……。  堪らなくなって私はぎゅっとゼロスを抱きしめる。安心して打ち明けられるように優しく話しかけます。

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