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番外編②・魔王一家視察旅行【西都編】13

「私と交替です。いいですか?」 「いいよ! ちちうえとあにうえ、いいよ! クロードもきたいっていうかなあ」 「ふふふ、きっと来たいって言うかもしれませんね。では呼びに行きましょうか」 「うん!」  私たちは広場のハウストたちのところに戻ります。  崖っぷちから離れることができてほっとひと安心ですね。 「ただいま戻りました」 「とってもおもしろかった! つぎはちちうえとあにうえ、いっしょにいこ!」 「俺たちも行くのか?」 「ちちうえとあにうえもいきたいんでしょ?」  ゼロスが無邪気に言いました。  ハウストが私を見ましたが、目が合う前に反らします。  でも反らした先にはイスラがいました。 「ブレイラ?」 「ぅっ、イスラ……」  イスラに顔を覗き込まれて顎を引く。  じーっと見られて焦ってしまうけれど、イスラがふっと笑いました。 「ブレイラ、よく分かったな。ちょうど行きたいと思ってたんだ」 「イスラっ……」  なんて優しいっ。  さすがイスラです。私の親の威厳まで守ってくれました。  ゼロスも嬉しそうにイスラの足に抱きつきます。 「あにうえ、ちょうどよかったの!?」 「ああ、ちょうど良かったぞ」 「えへへ。ぼくもあにうえといきたいっておもってたの。ちょうどいいね! あにうえ、おててつなご!」 「ほら」 「おてて、ぎゅっぎゅ~っ!」  ゼロスが嬉しそうにイスラと手を繋ぎました。  ゼロスがイスラを引っ張って崖っぷちへ連れていきます。でも私とすれ違う間際、イスラがさり気なく私の背中に手を当てます。 「ブレイラは苦手な場所だっただろ? 広場で休んでろ」  ゼロスに聞こえないように小声で囁かれました。  そしてゼロスに連れられて崖っぷちへと歩いていく後ろ姿……!  さ、さらりとそんなかっこいいことをっ……! 「見ましたかハウストっ、イスラが素敵ですっ……! ああ、立派な勇者になってっ」 「あれは立派な勇者の条件なのか?」 「せっかくなら素敵な方がいいじゃないですか」 「イスラの奴、お前の扱いに年季が入ってきたな」 「どういう意味です」  じろりと見るとハウストは面白そうに笑いました。  でも私たちが話していると、ハウストに抱っこされたクロードが「あうー、あー」と怒った声をあげます。先に行ったイスラとゼロスが気になるようで、ハウストに早く行けと訴えているのですね。 「ハウスト、お願いします」 「ああ、行ってくる」  ハウストは苦笑しながらもクロードを抱っこして崖っぷちへ行きました。  私は広場からハウストとイスラとゼロスとクロードを眺めます。  なんの話しをしているか聞こえませんが、ゼロスとクロードがはしゃいでとっても楽しそうですね。  ゼロスは父上と兄上はもっと自分を甘やかすべきと思っているようですが、どう見ても充分ですよね。ゼロスは根っからの甘えん坊で困ったものです。  こうして眺めているとメルディナが側に来てくれました。 「西都の名所はいかがかしら」 「何度来ても素晴らしいですね。雄大な自然を感じられます」 「当然ですわ。ここは昔から変わりませんもの」  メルディナが懐かしげに目を細めました。  メルディナとランディは幼馴染だったのです。きっと子どもの頃にも何度かここに遊びに来ているのでしょうね。 「ところでランディはどうしました? 姿が見えないようですが」 「ランディならすぐ戻ってくると思いますわ」  そう言ったメルディナは少し険しい顔をしました。  その様子に首を傾げます。 「なにかあったんですか?」  私が聞くとメルディナが黙り込んでしまう。  彼女にしては珍しい反応です。  私がじっと見つめると、メルディナがため息をついて話してくれます。 「……実は、西都の各地で妙なことが起きているのよ」 「妙なこと?」 「ええ、井戸が枯れたり逆に枯渇した水源から湧水が噴きだしたり。他にも今まで見たことがない新種の植物や動物が発見されたり。異変というには小さなことだけど、そういうことが少しずつ増えてきたの」 「そんなことが……。それは気になりますね」 「公式の報告をあげるほど大きな事象が起こっているわけじゃありませんけど、お兄様に内々に伝えることにしましたわ」 「そういう事でしたか。それがいいですね」  この場でランディとメルディナはハウストに報告することを考えていたのですね。  魔王に非公式の報告をするならこういう場所は打ってつけですから。  こうして私とメルディナは広場から崖っぷちの魔王と勇者と冥王と次代の魔王を眺めていました。 ◆◆◆◆◆◆ 「おっきいね~! ヤッホー! ヤッホー!」 「お~、お~」  崖っぷちではゼロスとクロードがはしゃいだ声をあげていた。  クロードは先ほどから「お~」と吠えているが、これはヤッホ~と言っているつもりなのだろう。ゼロスが大瀑布に向かって「ヤッホ~!」と言えばクロードもすかさず大瀑布に向かって「お~」と吠えているのだから。  こうしてはしゃぐゼロスとクロード。  だが崖っぷちに立ったイスラの胸中は複雑だ。  またこの場所に来てしまったか……。  そう、イスラがこの場所に立つのは二度目だった。  一度目の時はブレイラがハウストと婚約していた時で、イスラもまだ五歳の子どもだった。その時のイスラは二人が結婚することでハウストも自分の親になることに大いに悩んでいたのである。  今思うと幼い子どもの他愛ない悩みだった。でも当時は重大な悩みだったのだ。  そして今だから分かるのは、当時のハウストも柄にもなく真剣に悩んでいたであろうということ。  今でこそハウストは当たり前のように三人の息子をもった父親をしているが、当時は子どもの扱いにも不慣れでイスラに対してどう接していいか分からずにいたはずだ。  そしてイスラ自身もハウストにどう接していいか分からなかった。ブレイラの前では喜んでみせていたが胸中は複雑だったのだ。だってイスラはブレイラと二人が良かったのだから。  イスラはなんとなく隣のハウストに目を向けたが。 「…………」 「…………」  目が……合ってしまった。  しかもハウストもなんとも気まずそうな顔になっている。これはもしかしなくてもハウストも同じことを思い出しているということだ。  気まずい、気まずすぎる……。  目が合ったまま反らすことも出来ず、二人の間に不自然な沈黙が落ちる。  そんな中、ハウストが覚悟を決めたように表情を引き締めた。どうやら父上としてこの不自然な空気をなんとかせねばと思ったようだ。  奇妙な緊張感の中でハウストが口を開く。

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