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番外編②・魔王一家視察旅行【西都編】15
「ハウスト、クロードをこちらへ」
私はそう言ってクロードの抱っこを交替しました。
そしてメルディナに目配せします。丁度ランディも戻ってきたところでした。
それにハウストも察してくれたようです。
「ブレイラ、悪いが少し離れる」
「はい、行ってきてください」
「イスラ、お前も来い。人間界の話しを聞いておきたい」
「分かった」
ハウストはイスラを連れたってランディとメルディナとともに歩いていきます。
私はクロードとゼロスと一緒に待つつもりでしたが。
「ぼくもいく! ちちうえとあにうえがいくなら、ぼくもいっしょにいってくる!」
「えっ、ゼロスもですか!?」
ゼロスの立候補に驚きました。
しかしゼロスは父上や兄上と一緒のことをする気満々です。
「ぼくはめいおうさまだから、いっしょにいったほうがいいでしょ? クロードはあかちゃんだからここでまってなさい」
どうやら自分も冥王として魔王と勇者と同じことがしたいようです。
ハウストとイスラが四界の王としての仕事をすることを察知したのですね。
ゼロスは張り切ってハウストとイスラのところへ。
「ちちうえ、あにうえ、いっしょにいこっか。ぼくもめいおうさまだから、ちゃんとおしごとできるよ! めいかいのおいすにすわれるし!」
「本気か……」
ハウストが面倒くさそうに言いましたが、「ほんき!」とゼロスが即答で吹き飛ばします。
「ふふふ、お邪魔でないようなら一緒に連れていってあげてください」
「ぼくもよろしくね! なかよくしてね! はい、おてて!」
ゼロスはそう言うと右手にハウスト、左手にイスラと手を繋ぎます。
一人前の冥王のような口振りでお仕事をしたがりますが、魔王と勇者に手を繋いでもらってお仕事に行く冥王なんてきっと前代未聞でしょうね。
ハウストは諦めたようなため息をつくと私を見ました。
「ブレイラ、すぐに戻る」
「はい、いってらっしゃい」
私はハウストたちを見送りました。
ランディとメルディナも三人の王とともに歩いていきました。
「あうあー。あー」
抱っこしているクロードが歩いていったハウストたちを指差します。
私の顔をペチペチしながら自分も行きたいと訴えているのですね。
「あなたはまだ赤ちゃんじゃないですか」
「にー。あぶぅ、あー! にー、にー!」
「生意気ですね。イスラやゼロスは勇者と冥王なんです。たしかにゼロスはまだ三歳ですが素敵な冥王様なんですよ?」
「あうー」
「そんな声をだしてもダメです。クロードはここで私と留守番です」
「うー」
「あ、こら、人をバンバンしてはいけませんっ」
バンバンバン。バンバンバン。
この子、私の腕を両手でバンバンしてきました。猛烈な抗議ですね。
でもダメなものはダメなのです。
「あなたは今からミルクですよ。そろそろお腹空いてるんじゃないですか?」
「あう?」
「ふふふ、とっても楽しくてお腹が空いていることに気付いてないんですね」
私はクロードを抱っこして広場の東屋に入りました。女官や兵士が東屋を囲んで警備してくれます。東屋のベンチに座ると世話役の女官がミルクの入った哺乳瓶を持ってきてくれました。
クロードも哺乳瓶を見ると自分がお腹を空かせていたことを思い出したようです。
「あーあー! ばぶぶっ」
「はい、ミルクですよね。どうぞ」
哺乳瓶を手渡すとクロードは両手で持って上手に飲み始めます。
私の膝にちょこんと座って、ちゅちゅちゅ。仰け反るほどの飲みっぷりにこてんっと後ろに転がるけれど大丈夫、私が受け止めますからね。
「お腹空いてたんですね。おいしいですか?」
「ちゅちゅちゅ。あいっ。ちゅちゅちゅ」
仰け反って私をじーっと見上げてちゅちゅちゅ。
私もクロードを見つめ返して笑いかけました。いつも一人で飲むときは自分で寝転がってミルクを飲みますが、今は私が背後にいるので仰け反って凭れかかってきます。これって甘えているんですよね。私にだけ見せてくれる姿。
可愛いですね。クロードはいつも赤ちゃんながら兄上たちと対等だと主張したり、小さな体でプンプン怒ってみたりしてますが、誰もいない時に私にだけ甘えにくることがあります。今もそう、私に凭れかかってごろごろ甘えています。いい子いい子と頭を撫でてあげるとミルクを飲みながら気持ち良さそうに目を細めました。
「ちゅちゅちゅ。ちゅちゅ……。あいっ」
「はい、よく飲めましたね」
空になった哺乳瓶を渡されました。
私に凭れたまま「あうあ~」とおしゃべり。この間延びしたしゃべり方の時はお腹いっぱいでとても気分が良くなっている時ですね。
「ハンカチ使います?」
「あい」
「ちょっと待ってくださいね。ふふふ、あなたのリュックは便利ですね」
クロードの小さなリュックからハンカチをだして渡してあげました。
リュックにはオムツやハンカチや哺乳瓶が入っています。私が用意してあげた赤ちゃんのお出かけセット。……あ、一番奥に赤ちゃんのお菓子も入っていました。これはゼロスですね。ゼロスが勝手にお菓子を追加していたようでした。自分のリュックを持っているゼロスはクロードのリュックも気にしてくれているのです。
「クロード、ゼロスがあなたの荷物におまけを入れてくれていましたよ。良かったですね」
「あう?」
「あとのお楽しみです」
クロードは小さく首を傾げながらもハンカチをコネコネしています。広げたり丸めたり、ハンカチで遊ぶの好きですよね。
私はクロードと一緒に東屋から広場を眺めます。
観光地でもある大瀑布の広場には土産物を扱った露店が幾つも並んでいました。
視察中は一般魔族の立ち入りが制限されていますが、露店商の商売は許可されていました。普段の景観のまま視察できるようにとのことです。
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