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番外編②・魔王一家視察旅行【西都編】17

◆◆◆◆◆◆  王妃ブレイラに不審な男が接触したことはすぐにハウストに報告された。  同時に精鋭部隊によってすぐに男たちが現在指名手配中の盗賊団であることが判明したのだ。  盗賊団がブレイラを攫うために人質にしていた露店商の女性はすぐに救出されたが、肝心のブレイラとクロードは連れ去られたままだ。  ハウストは報告に目を据わらせる。 「……報告ご苦労だった。ブレイラの居場所はどこだ」 「現在密かに追っている精鋭部隊の報告によると、閉鎖坑道の方角に向かっております」 「なるほど、そこが盗賊団のアジトか」  盗賊団の目的は身代金か逃亡か。  どのみちブレイラを人質にした時点で盗賊団が無事でいることはない。代償は払ってもらう。  報告を聞いていたイスラの足元からも凄まじい闘気が立ち昇っている。殺気に似たそれは周囲の空気を一変させるものだ。  だが。 「ねえねえ、さっきからなんのおはなし? ブレイラがどうしたの?」  だが三歳の冥王はいまいち事態を理解していなかった。  しかし自分も事態を把握したいステキな冥王は「ねえねえ、ねえねえ」と父上のシャツを引っ張る。 「……引っ張るな」 「おしえてよ~~」 「また今度な」 「またこんどね。…………ん? ああっ! こんどじゃダメでしょー!」  誤魔化される寸前でゼロスは気付いた。  今度じゃ意味がないのだ。 「ぼくもおしえて! ぼくだっておうさまなのに!」 「まだ三歳だろ」 「いつもがんばってるもん!」 「なにを頑張ってるんだ?」  ハウストが首を傾げてイスラを見ると、イスラも「さあ」と肩を竦めた。  ここにブレイラがいれば『ゼロスもいろいろ頑張ってますからね』などと言ってもらえただろうが、残念ながらここにブレイラはいない。 「もう~っ、ちちうえとあにうえは~~! ぼくにもはやくおしえて!」  ゼロスはプンプンだ。  ハウストは諦めたようなため息をつくと三歳でも分かるように説明する。 「ブレイラとクロードが強盗団に攫われた」 「えっ、……さらわれた? ブレイラとクロードが?」  ゼロスの顔がみるみる強張っていく。  意味を理解した途端がらりと表情が変わり、即座に駆けだした。 「た、たいへん!! ブレイラまっててね! ぼくがたすけてあげるからね!!」 「待てっ、勝手に行くな!」 「わああっ! ちちうえ、どうしてダメっていうの! ブレイラとクロードはまもってあげなきゃダメでしょ!!」  ゼロスがもがきながら言い返す。  今すぐ助けに行きたいのに首根っこを掴まれて助けに行けない。 「ブレイラなら無事だ」 「どうしてわかるの! ブレイラはブレイラだし、クロードはあかちゃんだし、まもってあげないと」 「ブレイラはブレイラってなんだ……。だいたい忘れたのか、ブレイラは俺の指輪を嵌めている。たかが盗賊団にブレイラをどうこうすることは出来ない」 「ん? あっ、そうだった!」  ブレイラの左手薬指には環の指輪。それはハウストの力の一部を宿した婚礼の指輪である。  対峙したのが規格外の相手なら話しは別だが今回は強盗団である。ブレイラが最悪の事態に陥ることはほぼ無いだろう。ブレイラに攻撃能力はないが防御能力は充分なのだから。  納得したゼロスも少し落ち着きを取り戻す。だが。 「ぼくがおっきくなったら、ブレイラはぼくのゆびわもほしいっていうかもしれないね!」 「それはどうだろうな」  ハウストは即答した。  冥王が普段通りに戻ったのはいいが余計な部分まで戻ってしまった。  こうして殺気を放つ長男と自分がかっこよく助け出すつもりの次男。  ハウストもこのまま放っておくはずもなく今すぐ救出に動きたいが。 「坑道か……」  閉鎖坑道。潜伏先としては厄介な場所だった。  古い時代、鉱山の地下に縦横無尽に掘られた坑道は複雑に入り組み、幾つもの出入口がある。坑道の管理者すらすべての出入口や通路を把握することは出来ていないだろう。  実力行使……という手もあるが、一緒に誘拐されたクロードはまだ赤ん坊だ。万が一崩落に巻き込まれれば、環の指輪で守られているブレイラはともかくクロードは無傷ではいられない。  ならば正確な位置情報のもとに確実な救出が必要になるが、果たしてこの坑道のどこにブレイラとクロードが囚われているのか……。  ハウストは坑道の地図を前に腕を組んで思案したが。 「お兄様、提案がありますわ」  ふとメルディナとランディが前に出てきた。  まず二人は深々とハウストに頭を下げて謝罪する。 「この事態を招いたことは西都の責任者である私の責任です。まず深く謝罪いたします」 「お兄様、申し訳ありませんでした」 「それについての処分は後だ。まずその提案とはなんだ」  ハウストが問うとメルディナが説明する。 「鉱山を取り囲んだ精鋭部隊の報告によると強盗団は坑道に入ったまま出てくる様子はありません。おそらく夜を待って闇夜に紛れて鉱山から逃げるつもりですわ。かといって、こちらから侵入しても迷路のような坑道では不利、盗賊団もそれを承知のはず」 「ならば鉱山全域を制圧して夜を待つか」 「はい、坑道内部の構造や順路が不明ならその方法がもっとも確実だと思います。でも逆を考えれば坑道内部の構造を誰よりも知っている者がここにいれば、夜を待たずとも現状を打破することができますわ」  そう言ってメルディナがニヤリと口元に笑みを刻んだのだった。 ◆◆◆◆◆◆

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