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番外編②・魔王一家視察旅行【西都編】21
「そろそろ行きましょうか。これ以上は強盗団にメルディナが侵入したことを知られてしまいます」
「そうね、そろそろ頃合いかしら。わたくしに付いてきてくださいませ」
「お願いします」
私はクロードにリュックをおんぶさせて、そのクロードを抱っこ紐で前に固定します。よし、これで大丈夫ですね。
私はメルディナが現われた外壁の穴の前に立ちましたが。
「どこに行くつもりよ。そっちは使わないわ」
「え、違うんですか?」
「当たり前じゃない。その通路は王妃と赤ん坊が通るのは危険すぎるのよ。途中で崖登りや壁伝いの道があるのよね……」
「あなた、そんな道を」
感心してしまいます。
でもメルディナにとっては当たり前のことのよう。子どもの頃によく遊んでいたと言っていましたが、あなたここでどんな遊びをしてたんですか……。
「それじゃあどこから脱出するんですか? 転移魔法とか使うんですか?」
「いいえ、強盗団がすぐ近くにいるのに捕縛しないなんてあり得ませんわ。ここからよ」
メルディナが立っていたのは鉄格子の前。
次の瞬間、――――ガシャアアン!!
鉄格子が吹っ飛びました。メルディナの華麗な後ろ蹴りが炸裂したのです。
「え、えええええ!?」
「ばぶっ!?」
「さあ行きますわよ」
「行きますわよじゃないですよ! そっちには強盗団がいるじゃないですか!」
「さっきの音はなんだ!?」
「牢だ! 牢の方からだぞ!!」
「急げっ、王妃になにかあれば面倒だ!!」
「ほら気付かれました!! このままじゃここに来ます!!」
「あうあ~っ!?」
焦りました。とっても焦りました。
クロードもびっくりして目を丸めていますよ。
だって強盗団の怒声がこっちに近付いてきます。
それなのにメルディナが動揺した様子はありません。それどころか。
「そうね、手間がはぶけて丁度いいわ」
などと言っています。
そうしている間にもとうとう強盗団が姿を見せました。
「だ、誰だ貴様ッ!」
「なんだこの女は!?」
「この女、見たことがあるっ。大公爵夫人だ!」
「なんだと!? どうしてここに大公爵夫人がっ……!」
強盗団が驚愕しました。
そうですよね、王妃の救出に来たのが大公爵夫人なんて思いませんよね。私も思いませんでした。
なにより坑道の奥深くまで侵入してくるなんて想像もしていなかったでしょう。
混乱する強盗団をメルディナが鼻で笑います。
「この女とは失礼ね。礼儀がなってないのよ」
「なんだとっ。もう許さねぇ、捕まえろ! 王妃と大公爵夫人と赤ん坊を人質にできれば俺たちはどこへでも逃げられるぞ!!」
強盗団がカッと逆上して私たちを取り囲みました。
メルディナはそれを流し見ると、口元に薄い笑みを刻みます。
「出来るものならやってみてくださいませ」
「舐めやがって、捕まえろ!!」
「ここに来たことを後悔させてやれ!!」
強盗団がいっせいに襲い掛かってきましたが、――――ドカッ!! バキッ!! ドゴオォォッ!!
「ぐああああッ!!」
「グホッ!」
「ガハッ……!」
一瞬で強盗団が吹っ飛びました。
メルディナの強烈な右拳、左肘、右膝が強盗団に炸裂したのです。
一撃で昏倒した強盗団たち。メルディナの動作はとても華麗なのに威力と破壊力は激烈です。
残った強盗団がメルディナの戦闘力に戦慄きました。
愕然とする強盗団の気持ち、痛いほど分かりますよ。
メルディナの外見はアンティークのお人形のようなので、その拳から炸裂する破壊力を初めて目の当たりにした時は私もとっても驚きました。
それにしても容赦なさすぎです。細腕で強盗団を吹っ飛ばす姿は頼もしいですが、……若干引いてます。
飛び散る返り血を気にもせず、足元に倒れた盗賊を一瞥もせず……。
私はせめてという気持ちで聞いてみます。
「メ、メルディナ、魔力は使わないんですか? 風とか水でえいって」
「使わないわ。もし衝撃で鉱山が崩れたら王妃とクロード様は無傷ではいられなくてよ?」
メルディナはそこで言葉を切ると私に向かってニヤリとします。そして。
「私は魔力が強いだけの魔王の妹ではありませんわ」
「畜生おおっ、グハアアッ!」
バキイイィィ!!
男が襲いかかりましたが顔に拳がめりこんで吹っ飛んでいきました。
しかしメルディナは男を一瞥もせず、私に向かって優雅にお辞儀します。
「拳にも自信があってよ。王妃、知りませんでしたの?」
「…………」
……知ってます。知ってるに決まってます。
やはり兄妹ですね。この子、ハウストと同じこと言ってますよ。
ハウストも危機に陥って腕力勝負になった時、いつも拳一つで危機的状況を打破するのです。どんな危機的状況の時もハウストは溌剌と拳を振るって……。
「さあ全員まとめてかかってきなさい! わたくしが一人残らず相手して差し上げますわ!」
ドカッ! ガッ! バキッ! ドゴッ! ゴッ!!
そう、まるで今のメルディナのように溌剌と容赦なく……。
でもね、こうして開かれていく坑道の通路。
足元の死屍累々を乗り越えた先に出口があるのです。
「クロード、メルディナが頑張ってくれています。もうすぐここから出られますよ」
「あいっ」
「メルディナは強いですね。さすがハウストの妹です」
「あうあ~!」
パチパチパチ。クロードが拍手しました。
クロードは興奮したような顔でメルディナを見て、「あぶぶっ、あー!」と指差してなにやらおしゃべり。パチパチ拍手しておしゃべりして、どうやら応援しているようですね。
「はい、一緒に応援しましょう。メルディナ、頑張ってくださ~い!」
「あうあー! あー! あー!」
私とクロードは一緒に応援します。
この応援でメルディナもたくさん元気がでるはず。
「メルディナ~! こうでっ、こうでっ、こうです! ほら右右っ、右からもきてますよ!」
気分が高まって私も「えいっ」「えいっ」と戦う真似をします。
抱っこしているクロードも「しゅっ」「しゅっ」と言いながら小さな拳で戦っている気分。
私とクロードの応援はきっとメルディナに届いているはずで。
「うるっさい!! 気が散りますわ!!!!」
「わあっ!」
「ばぶぅ!?」
怒られてしまいました。
メルディナが男の胸ぐらを掴んで殴りながら私たちに怒鳴ります。
「なにが『右右』よ! そんなの分かってますわ!」
「も、もしかしたら気付いてないと思って……」
「誰に向かって言ってんのよ!」
「クロードがたくさん応援していたので、私もと思いまして……」
「ただイライラするだけでしたわ!」
ああメルディナがプンプンです。とってもイライラです。
どうやら声援はいらなかったようです。
「……分かりました。残念ですが仕方ないので心の中だけで応援しますね」
「そうしてちょうだい」
メルディナが両側から殴り掛かってきた男たちを回転蹴りで撃退しました。
私を振り返ると腰に手を当てて呆れた顔をします。
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