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番外編②・魔王一家視察旅行【西都編】22

「まさかと思いますけど、いつもそうしてますの?」 「いつもではありませんけど、ハウストもイスラも手をあげて応えてくれますね。二人ともステキです」 「……想像できるのが嫌ですわ」 「ゼロスはとっても喜んで、大きく手を振ってくれますよ。そこまで喜んでくれると私も応援のしがいがあるというものです」  そう言ってちらりとメルディナを見ると心底嫌そうな顔をされました。 「三歳児と一緒にしないで」 「ふふふ。たしかに」  たしかにそうですね、ゼロスはまだ三歳ですからね。  こうして私たちはちょっとしたおしゃべりをしながら坑道の出口を目指して歩きます。  坑道に潜んでいた強盗団はすべて倒したようで、もう人の気配はしていません。あとはここから出るだけです。  しばらく歩くと暗い通路の先に小さな光が見えました。小さいながらも眩い光。坑道の出口です。 「あ、見えました! 出口ですよ! あと少しです!」 「ばぶっ! あーあー!」  クロードも大興奮で手足をバタバタさせます。  メルディナもほっとしたように口元を綻ばせました。 「さあ行きますわよ」 「はい」 「あいっ」  私たちは光を目指して歩きます。  坑道の出口まであと少し。あと少しで、――――ピカリッ!  ふいにメルディナの足元が光り、坑道一面に魔法陣が浮かびました。それは特殊工作魔法陣!  そう、強盗団はあろうことか坑道の出口に罠を仕掛けていたのです。 「メルディナ、こっちへ!!」  咄嗟にメルディナの腕を掴んで引き寄せ、クロードごと庇うように覆い被さりました。  私の腕の中でメルディナが驚愕に目を見開きます。 「王妃っ、なにしてますの!?」 「衝撃波がきますっ、黙って! 」  ……ドンッ ドドンッ、ドンドンッ!!  坑道の奥で爆発がしたかと思うと、ぶわりっ! 突風のような衝撃波に襲われます。 「ぅッ……」  なんとか衝撃波をやり過ごしました。  良かった、クロードとメルディナは怪我をしていませんね。  しかしまだ終わったわけではありません。  坑道の奥から凄まじい勢いで爆発が迫ってきます。この爆発に巻き込まれればただではすみません。 「出口に向かって走るんですっ。早く!!」  私はクロードを抱きしめ、メルディナとともに走りだしました。  徐々に出口の光が大きくなっていきます。でも背後の爆発音も大きくなってきて、全身の血の気が引いていく。爆発が迫ってくる方が速いのです。  私とメルディナは全力で走りましたが、出口に辿りつく前に爆発音がすぐ後ろまで迫ってっ。ダメです、間に合いません……!! 「王妃!!」  ガシリッ! メルディナに腕を掴まれました。  素早くメルディナの後ろに隠されてしまう。でもそれじゃあメルディナがっ。 「メルディナ、バカなことをしてはいけません!」 「王妃に言われたくありませんわ! むしろこれが正解なのよ!!」 「メルディナっ……」  当然のことのようにメルディナが私とクロードを庇って身構えたのです。  そして特殊工作魔法陣の爆発が私たちを飲み込もうとする、刹那。  ドドドドドドドドドドドオオオオオオン!!!! 「わああああっ!」 「ば、ばぶ~っ!」  突如、特殊工作魔法陣の爆発を飲み込むほどの爆発が起きました。  私は咄嗟にクロードをきつく抱きしめる。  凄まじい爆風が私たちに襲いかかりましたが、でも寸前で私の指輪が輝きました。環の指輪です。巨大な爆発に環の指輪が発動し、指輪の光が盾になって守ってくれたのです。  そして爆風が過ぎ去って、 「ブレイラ、迎えに来たぞ」  聞き慣れた声。ハウストの声です。  その声に安堵で全身から力が抜けてしまいそう。でも振り向いて小さく笑いかけました。 「ずいぶん派手な登場で驚きました」 「小賢しい魔法陣だったからな。発動した魔法陣は一気に始末してしまう方が手っ取り早い」 「だからって、あなたという人は」 「でもすぐに会えただろ」  そう言ってニヤリと笑うとハウストが側に来てくれます。  そう、最後の爆発はハウストが魔力を発動したものでした。特殊工作魔法陣を力尽くで全解除したのです。 「お前が無事で良かった」 「あなたに守っていただきました。ありがとうございます」  私はお辞儀すると側に来てくれたハウストにそっと身を寄せます。  するとハウストはやんわりと抱き寄せてくれる。彼の肩口に額を乗せて擦り寄ると、私の耳元に唇を寄せてくれました。  ハウストの存在と温もりにほっとため息が漏れます。強張っていた体から力が抜けていくようでした。  それは抱っこしているクロードも同じのようです。  抱っこ紐で固定しているクロードがじたばたと小さな体をよじってハウストを指差しています。きっと『ちちうえきた』と教えてくれているのですね。 「あうあー、あー」 「そうですよ、父上です。ハウストが来てくれました」 「あいっ」 「ハウスト、クロードを抱っこしてあげてください」 「クロード、来い」 「あーあー! ばぶぶっ!」  抱っこ紐を解いてクロードをハウストに渡しましたが、ハウストが眉間に皺を刻んでしまう。  ハウストは抱っこしてくれましたがクロードが興奮して手足を弾ませているので、その度にクロードの小さな拳が顔に当たっているのです。 「……おい、やめろ」 「あうあー! あー! あー!」 「分かったからやめろ」 「ふふふ、嬉しいんですね。赤ちゃんなのによく耐えてくれました。クロードもとっても頑張っていたんですよ、褒めてあげてください」  私がそう言うとハウストが改めてクロードに声を掛けてくれます。 「お前もよく頑張ったな。えらかったぞ」 「あいっ。ばぶぶ~っ」  クロードが小さな鼻をぴくぴくさせています。誇らしい気分になってますね。  ハウストはクロードを褒めると次にメルディナに向き直りました。  メルディナが畏まってお辞儀します。それはお詫びを伝えるお辞儀。二人は兄妹ですが魔王と臣下という関係なのです。

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