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番外編②・魔王一家視察旅行【西都編】23
「西都の地で王妃様とクロード様がこのような危険に晒されてしまったこと、まことに申し訳ありませんでした。この西都の不手際をどうかお許しください」
「ハウスト、私からもお願いします」
私もハウストにお願いしました。
今回の一件は私の不注意でもあります。それを西都だけの責任にしたくありません。
「メルディナが来てくれたので私とクロードは大丈夫でした。メルディナが守ってくれたんです」
ですからハウスト……と彼の腕にそっと触れました。
ハウストがそんな私の顔と手を順に見て、ぅっ……と眉間に皺を刻みます。
「……ブレイラ、お前まで」
「お願いします」
顎を引いて見つめられたので私もじっと見つめ返します。
じーっと見つめると、少ししてハウストがふっと表情を和らげました。
「……降参だ。王妃に免じて不問にしよう」
「ハウスト、ありがとうございます!」
良かったです。これで西都が厳しい咎めを受けることはないでしょう。
私は嬉しくなってメルディナを振り返ります。
「メルディナ、ハウストが不問だと言ってくれましたよ! ……って、なんでそんな顔してるんですか」
振り返ったメルディナはとっても呆れた顔をしていました。
そんなメルディナの反応にハウストも苦笑しています。
クロードだけはパチパチ拍手してくれていました。
「……呆れたのよ。なにが『不問だと言ってくれましたよ』よ。お兄様が魔王だって分かってますの?」
「い、いいのですっ。その魔王が不問だと言ってくれたんですから」
そう言い返しながらもなんとなく顔を逸らしました。……分かっていないわけではないのです。フェリクトールにもよく注意されますから。
それに不問になったとしても、建前上なんらかの処罰は必要になります。きっとハウストと西の大公爵ランディとでなんらかの政治的取引が行なわれることでしょう。
しかし魔王であるハウスト自身が不問に思ってくれることに意味がありますからね。
こうして私たちは無事に坑道から出ることが出来ました。
「ぅっ、眩しいですっ……」
薄暗い坑道から出た途端、陽射しの眩しさで視界がくらくらします。
ハウストに抱っこされているクロードも「あう~~っ」と小さな両手で目を覆っていました。
「お~い、ブレイラ~!」
ふとゼロスの声が聞こえました。
振り返るとゼロスとイスラがこちらに向かって走ってきます。
嬉しくなって手を振ると、走ってきたゼロスが私にぎゅっと抱きつきました。
「ブレイラ、だいじょうぶだった!?」
「心配かけました。私は大丈夫でしたよ?」
「よかった~! ブレイラさらわれちゃって、ぼくずっとしんぱいしてたの!」
「ありがとうございます」
いい子いい子とゼロスの頭を撫でると、次はイスラを振り返りました。
「心配をかけてしまいましたね」
「ああ、心配したぞ。ブレイラとクロードが無事で良かった」
「ありがとうございます」
イスラとゼロスは私とクロードの無事を確認すると安心した顔になりました。
しかもイスラとゼロスには役目があったようですね。私に抱きついていたゼロスが今度はハウストに向かって胸を張ります。
「ちちうえ、ぼくじょうずにかいじょできたよ! えーっと、ひとつふたつみっつ……」
小さな指を立てて数をかぞえだします。どうやら鉱山に張り巡らされていた特殊工作魔法陣の解除作業を手伝っていたようです。
「さんじゅうにこ! ぼく、さんじゅうにこかいじょできた! ちちうえどう? すごい? ぼくがんばっちゃったでしょ?」
「ああ、よくやったな」
「まあね!」
ゼロスはとっても誇らしげ。
ハウストに魔法陣解除を頼まれたことが嬉しかったようですね。報告して褒められて誇らしい気持ちになったのでしょう。
でも。
「ねえねえ、あにうえは? あにうえはどれくらいかいじょした?」
「三百六十五個だ」
「え?」
あ、ゼロスがショックを受けてしまいました。
大変です、さっきまであんなに誇らしげだったのに……。
しかしイスラの方は気にすることはありません。何ごともなかったようにハウストに現在の鉱山の状況を伝えています。
「ハウスト、鉱山全域に仕掛けられていた特殊工作魔法陣の解除は完了したぞ。ついでに外にも潜んでいた強盗団の仲間を捕獲しておいた」
「そうか、ご苦労だった」
ハウストとイスラが話しあっています。
いつもならゼロスも無理やり参加しに行くのですが……。
「あにうえ、ぼくとちがってた……」
よろよろと後ずさるゼロス。
自分も兄上と同じ役目を与えられていたのに結果が違い過ぎてショックなのです。
私からすればゼロスの三十二個も充分な成果だと思うのですが、冥王ゼロスはそれではダメなよう。
「うっ、うぅ、ブレイラ~~!」
ゼロスが私の足にぎゅ~っとしがみ付きました。
私の衣装に顔を埋めて嘆きます。
「ぼくいっしょうけんめいしたのに、あにうえとちがってたの。ぼくさんじゅうにこ、あにうえはさん、さん、さんびゃく……なんだっけ?」
「三百六十五個ですよ」
「そう、さんびゃくろくじゅうご~~! ぜんぜんちがったの、うええええええええん!!」
「ああ泣かないでください。ゼロスもよく頑張りました」
「でもでも、ぼくもちちうえにたのまれたのに、あにうえみたいにできなかったからっ。うええええええん!!」
「父上に頼まれたんですね」
「そうなの。ちちうえが、ゼロスたのんだぞってぼくをたんとうさんにしたの。うっうっ……」
ゼロスは父上に任命されたと言います。しかも頼んだぞとお願いされたのに、出来なかったと嘆きますが……。
ちらり、ハウストを見る。すると彼はゆっくり首を横に振って……。
……分かりました。きっとイスラが頼まれたのを見てゼロスも立候補したのでしょう。ハウストは渋ったでしょうが、ゼロスはイスラと一緒に魔法陣解除を頑張ったというわけですね。
ハウストは頼んだ覚えはないといわんばかりですが……、でも今はハウストが任命したということにしておきましょう。
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