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番外編②・魔王一家視察旅行【西都編】24

「ハウストに頼まれるなんてすごいですね」 「でも、ぼくじょうずにできなかったから……。ぐすっ」 「いいえゼロス、そんなことありません。あなたが三十二個も解除してくれたから、誰かが誤まって踏まずに済みました。解除の担当さんを任されて、一つでも解除したのならゼロスは頑張ったのです」 「……そお?」 「そうですよ」 「それって、ちちうえもあにうえも、ぼくをすごいっておもってるってゆうこと?」 「もちろんですよ」 「ちちうえとあにうえ、ぼくがおたよりになるってことわかってるかなあ」 「はい、とても頼りに思っていますよ」 「またぼくをたんとうさんにしてくれるかなあ」 「担当さんにしてくれますよ」 「ゼロスたのむぞっていうかなあ」 「言いますとも。これからも頼みますね」 「はい!」  良かった。ゼロスにいつもの元気が出てきました。  あなたには笑顔がよく似合いますね。  元気が出たゼロスはハウストとイスラの話し合いに参加するべく戻っていきます。 「ちちうえとあにうえ、おまたせ~!」 「……もう復活したのか」 「げんきいっぱいでた!」  ゼロスはハウストの足に飛びついてそう言うと、イスラを振り返って目をキリッとさせます。 「あにうえ、こんどはまけないぞ~!」 「ああ、もっと強くなれ」  そう言ってイスラがゼロスの額を小突きます。  ゼロスはくしゃりと笑って「うん!」と大きく頷きました。  こうして私とクロードの誘拐騒動は無事に解決したのでした。  翌日。  今日は王都へ帰る日。西都の視察最終日でした。 「ゼロス、忘れ物はありませんか?」  部屋を出る前にゼロスに確認しました。  荷物は女官が管理してくれていますが、ゼロスはお気に入りのおもちゃやお菓子をリュックに詰めて自分で持ち運んでいるのです。 「だいじょうぶ~。クロード、わすれものは?」 「あうあ~。ばぶぶっ」 「クロードもだいじょうぶって」 「ふふふ、ありがとうございます」  そうですね、クロードも自分のリュックを持っていますからね。二人で荷物確認していました。  ゼロスとクロードの帰る準備を見守り、次はハウストとイスラを見ます。  二人は紅茶を飲んで出発の時間を待っていました。いつでも大丈夫ですね。  少しして士官が出発を伝えにきます。出発の準備が整ったのです。 「行くぞ」 「はい」  私はクロードを抱っこし、ハウストと並んで部屋を出ました。私たちの後ろにはイスラとゼロスが続きます。  廊下には士官や女官がずらりと整列していました。  部屋の中はゆったりした家族の時間ですが、こうして外に出れば公務となるのです。  迎賓館の長い廊下を進み、玄関を出ると王旗を掲げた馬車を中心に隊列が整列していました。その前には西の大公爵ランディと大公爵夫人メルディナ、他にも西都の高官たちがずらりと整列しています。私たちの見送りでした。  ランディが私たちの前に進み出ます。 「魔王様、王妃様、ありがとうございました。この度の視察では」 「あぶっ。あいあ~、あ~」  挨拶中の大事な時に赤ちゃんの声。クロードです。  私は焦ってしまう。突然おしゃべりを始めた赤ちゃんに挨拶が中断されてしまったのですから。 「クロード、しーっです。今はしーっですよ」 「ばぶぶっ。あーあー」 「しーっです。しーっ」  こそこそ静かにするように伝えますがクロードはなにやらおしゃべり。  しかも誇らしげに小鼻をぴくぴくさせて、メルディナを指差していました。  その様子にはっと気付いてしまう。 「……もしかしてクロード。ふふふ、そうですか。そうですね、教えてくれてありがとうございます」  赤ちゃんに指を差されたメルディナは微妙な顔になっていますが、私は意味が分かってしまいました。  小さく笑ってしまう私に、ランディが聞いてきます。 「お、王妃様、どうされました?」 「ごめんなさい。クロードは自分の好きな人が来ると教えてくれるんです。きっと今、『メルディナがきた』と教えてくれているんですよ」 「それはっ……」  ランディが目を丸めて息を飲みました。  ランディはメルディナを振り返って二人が言葉もなく見つめ合う。そして二人はゆっくりとクロードを見つめました。  二人はクロードの臣下です。でも今、瞳に溢れる万感の思い。 「そうでしたか、どうぞお健やかに」  ランディはそれだけを言いました。  後ろではメルディナも深々とお辞儀しています。  公の場において、今これ以上の愛情はありません。  私は二人をじっと見つめて静かに頷きます。 「お世話になりました。ありがとうございました」  私もまたこれ以上の言葉を返すことはできません。  でも不思議ですね、伝わっていると信じられるのです。  きっと、この気持ちはクロードが成長しても変わらないものでしょう。  こうして私たち家族五人の西都視察は終わったのでした。 終わり 次は新作前の小話的な話しです。 タイトルは『神話から半年後、クロードがよちよち歩きできるようになりました。』です。このまま続けて連載します。 それと今夜Twitterに新作で成長するイスラ(23歳)とゼロス(15)とクロード(5歳)の画像をあげられそうです。興味のある方はどうぞ。 こちらでも更新しますがTwitterの方が早いです。

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