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番外編③・神話から半年後、クロードがよちよち歩きできるようになりました。2

「不思議なものですね、以前の私はイスラやゼロスが勇者や冥王になることに抵抗があったのに、今はイスラとゼロスとクロードが立派な四界の王になることを望んでいるんです」 「そう言えばそうだな」 「はい。こうして望むことができるようになったのは、三人の子ども達が孤独ではないと知っているからです」  私はそう言ってクロードを見つめます。  クロードは絵本を読んでもらいながら興味を引かれるイラストを見つけると指差していました。ときおり「あい、あい」と相槌を打って可愛らしい。 「ハウスト、ゆっくり待ちましょう。クロードにはイスラとゼロスがいます。あなたと私もいます。だから大丈夫ですよ」 「そうか」 「はい」  そう、大丈夫なんです。クロードには私たちがいます。  こうして話していると絵本を読むゼロスとクロードの声が聞こえてきます。 「おひめさまはおしろをでると、いっしょうけんめいさがします」 「あうー……」  クロードが小さな拳を握って真剣な顔で絵本を見ています。  どうやら絵本の内容はお姫さまが魔法にかかったお兄さんを探している感動系絵本のようでした。クロードは感動系が大好きですからね。 「おひめさまはネコさんとさがします。ニャー、ニャー」 「……なー」 「なーじゃないの、ニャー」 「なー」 「じょうずにいえるでしょ、もういっかい。ニャー」 「……にゃ」 「じょうずじょうず。ニャー」 「にゃ」  上手に鳴き真似をしたクロードにゼロスはうんうん頷くと、また絵本を読みます。 「おにいさまはどこにいったのでしょうか」 「にー、にー」  知っている言葉に反応して指差すクロード。  絵本には魔法をかけられた王子様が描かれていました。どうやらお姫さまのお兄さんのようですね。 「そうだよ、これあにうえ。まほうにかかってるんだって」 「あい、あう~。……にー。うー、にーたま」  そう言ってクロードがイスラを指差しました。  どうやら絵本の『おにいさま』を覚えたようです。  イスラの次はゼロスを指差して「にーたま」と繰り返します。  完璧に覚えたと誇らしげなクロード。小鼻をぴくぴくさせています。  でもゼロスは小さく唇を尖らせました。  ゼロスは『あにうえ』の方がいいようです。慣れていますからね。 「うん、そうだけど~。あにうえ、あ・に・う・え、いってみて?」 「……。にーたま」 「あにうえ」 「にーたま」 「あにうえ」 「にーたま」 「もう~、クロードは~~っ」  頑として譲らないクロードとプンプンするゼロス。  でも私は二人の言い合いに思わず笑ってしまいました。  クロードは新しく覚えた『にーたま』が嬉しいのです。いつもなにか新しいことを覚えると得意気に私に教えてくれますからね。 「ゼロス、許してあげてください。クロードは初めて覚えた呼び名が嬉しいのですよ」 「ええー、あにうえのほうがかっこいいのに」 「ふふふ、『にーたま』も素敵ですよ」 「…………そお?」 「そうです、ステキです。優しい感じがします」 「……かっこいいかんじもする?」 「もちろん」 「うーん、それならいいよ」 「ふふふ、ありがとうございます」  ゼロスが納得してくれて良かったです。  せっかく赤ちゃんのクロードが覚えた言葉ですからね、大事にしてあげたいです。  私はゼロスとクロードの幼い二人に目を細め、次にイスラに目を向けました。  先ほどからイスラは古い書物を読んでいるのです。 「イスラ、熱心に読んでいますね。なんの本ですか?」 「人間界の廃墟の神殿で見つけたんだ。古い時代の薬草や製造工程について書いてある」 「それは興味深いですね」 「ああ、結構面白いんだ。でも俺が持ってる植物図鑑には載ってない薬草もある。今度フェリクトールの書庫に行ってみようと思って」 「それなら私もぜひご一緒させてください」 「ぼくもフェリクトールのとこいく~!」  聞こえていたゼロスも立候補しました。  遊びに行く気満々で、イスラが呆れた顔をします。 「遊びに行くんじゃないぞ」 「あそばないもん。ぼくもえほんみにいくの」  ゼロスは言い返しましたが、これは絶対遊びますね……。  そんなイスラとゼロスの会話を聞いていたクロードが絵本を持って立ち上がります。  よちよち歩いてイスラのところへ。 「にーたま、あいっ、あいっ」  ぐいぐい絵本を押し付けています。  どうやらイスラが絵本を探していると思ったようです。 「にーたま、こえ、あいっ」 「……俺は絵本が見たかったわけじゃないぞ」 「にーたま、こえっ、こえっ」  これ、これ、と絵本をイスラに見せています。  もしかしたらクロードはイスラに構ってほしいのかもしれません。どうしても受け取ってほしいようですね。 「クロード、そういう時は『どうぞ』と言うといいですよ」 「あう?」 「どうぞ、です。できますか?」  クロードは絵本を持ってなにやら考え込んでしまう。  クロードは絵本とイスラを交互に見たあと、私をちらりと振り返ります。  少し不安そうなクロード。初めての言葉に困惑しているのです。  そんなクロードに私は頷いてそっと笑いかけました。大丈夫ですよ、クロードなら上手に言えます。  クロードは小さな口をもごもごさせたと思ったら。 「……。……どぞー」  小さな声で一言。  クロードが確認するように私を見る。だから私は大きく頷きました。とても上手でしたよ。  するとクロードは小鼻をぴくぴくさせて、またイスラに絵本をぐいぐいします。 「にーたま、どぞー! どぞー!」  今度は自信満々にどぞーと繰り返しだしました。  新しく覚えた言葉が嬉しいのですね。完璧に覚えたと誇らしげ。  こうした末っ子の姿にイスラも根負けしてくれます。

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