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番外編③・神話から半年後、クロードがよちよち歩きできるようになりました。3
「分かったから押してくるな。まったく」
イスラは絵本を受け取ると、クロードを抱き上げて膝に乗せてくれました。
静かに読書していたイスラですが諦めたようですね。
膝抱っこされたクロードは嬉しそうに絵本を開いて、覚えた絵本の内容をイスラに説明しています。
「あうあ~、あ~、にーたま、あぶぶっ。こえっ、あいっ」
「なるほどな、そういうことか」
「あいっ、あーあー。あいっ、あいって」
クロードが身振り手振りで一生懸命説明しています。
もちろん意味は通じていませんが、それでもなにか伝えようとしているのは分かります。
「これが好きなのか?」
「こえ」
「ぼくもおしえてあげる!」
ゼロスも駆け寄って一緒に絵本を覗き込む。
「クロードはいつもここのページでぷるぷるしてえーんってしそうになるの」
「こういうシーンに弱いのか」
「よわい。とってもよわい。いつもプンプンしてるのに、こういうのでぷるぷるしてる」
「ややこしいな」
「うん。クロードややこしい」
「あう~っ。にーたま!」
バンバンバンッ。クロードが絵本をバンバンしました。
これは抗議のバンバンですね。
こうして騒がしくしながらもイスラとゼロスとクロードが絵本を読んでいます。
微笑ましい光景に和みましたが。
「あ」
イスラを見てあることに気付きました。
些細なことだけれど一度気付いてしまうと気になって、女官を呼んでとある物を取りにいってもらいます。
そして私はイスラの背後に立ちました。
「イスラ、失礼しますね」
後ろから声を掛けてイスラの髪に触れました。
指で横髪を耳にかけて、前髪をそっとかきあげてあげます。
「ブレイラ?」
イスラが不思議そうに私を振り返りました。突然のことにきょとんとして可愛いですね。
そうしている間にも女官が櫛箱を持ってきてくれました。宝箱のような装飾の櫛箱を開けてヘアブラシを取り出します。
「前髪が目に掛かっていました。読書の時に気になってしまうでしょう」
「ああ、そういえば」
そう言ってイスラが前髪をひと摘まみ。
じっと前髪を見つめるイスラに笑いかけます。
「ふふふ、じっとしていてください」
そう言ってイスラの髪にヘアブラシを通します。
イスラはムムッ……と少し硬い表情になってしまう。これは照れていますね、分かりますよ。
髪を撫でるように解いていると、少しして気持ち良さそうに目を細めてくれます。肩から力を抜いて私にされるがままになってくれる。
イスラの外跳ねの癖は赤ちゃんの頃から変わらなくて、触れていると胸がじわりと温かくなりました。
こうしてイスラの髪を解いて弄っていると、それを見ていたゼロスも櫛箱からヘアブラシを取り出していました。
「クロード、こっちおいで~」
「あう?」
「あうじゃないの。こっちきなさい」
ゼロスはイスラに膝抱っこされていたクロードをずるずる引きずってくると自分の前に座らせました。
クロードは迷惑そうに小さな眉間に皺を刻んでいますが、ゼロスはフンフン鼻歌を歌いながらクロードの髪を解き始めます。
「かゆいところはありませんか~?」
「ばぶっ」
「はいありませんね~。こっちもかゆいところはありませんか~?」
「あいあ~」
声掛けはまるで洗髪ですが、角度を変えて上手に髪を解いています。
続いてなにやら櫛箱をごそごそ漁ったと思ったら小さなリボンを取り出しました。
「かわいいのみつけた。これつかってあげるね」
「あう?」
「ぼくじょうずにできるからだいじょうぶ」
そう言ってゼロスはクロードの髪を弄ります。クロードの髪はまだ赤ちゃん特有の細くて柔らかいものなので悪戦苦闘しているようですが、なにやら一生懸命な様子。そして。
「できた~! じょうずにできた~!」
「見せてくだ、プッ、……」
笑いそうになって咄嗟に口を覆いました。
だってクロードの頭が大変です!
クロードの頭にリボンが五つ。短く細い髪を束ねられてピンッと立っています。まるでリボン付きの小さなツノが五つも生えたようでっ。
でもゼロスは誇らしげに胸を張ります。
「クロード、かわいくなったでしょ?」
「は、はいっ。かわいくっ、……フフッ、かわいくなってますっ」
ダメです。気を抜いたら声を出して笑ってしまいそう。
見るとハウストとイスラも顔を逸らして肩を震わせていました。
そんな私たちの反応にクロードが「う?」と首を傾げている。ダメです。そんなリボンのツノで首を傾げないで。
「ハ、ハウスト、イスラ、がまんです、がまんですよっ。せっかくゼロスが可愛くしてくれたのに、笑ったらクロードがっ」
「うー?」
クロードは首を傾げていましたが、ふいに窓ガラスに反射した自分を見てしまう。
「ッ!? にーたま! にーたま!!」
「わああっ、クロード、どうしてバンバンするの!」
クロードが猛烈にゼロスをバンバンします。
これは怒りのバンバンです。
「クロード、やめてやれ」
私に髪を弄られているイスラが笑うのを我慢しながらクロードを捕まえてくれました。
膝に抱っこされたクロードがイスラに訴えます。
「にーたま、あうあー! あーあー!」
「ああ、分かった分かった。大丈夫だ、似合ってるぞ」
「あう? あいあ~」
「ほんとだ。……おい、あんまり動くなよ。髪があたってるだろ」
ピンッと上に立った髪が顔に当たってくすぐったいのです。
でもイスラに宥められてクロードも落ち着いてくれました。
そしてゼロスの次のターゲットはハウストへ。
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