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番外編③・神話から半年後、クロードがよちよち歩きできるようになりました。5

「俺は髪結いが出来ないわけじゃない。お前の髪が短いんだ」 「ブレイラは、ゼロスのおでこはかわいいですねっていってるもん~~!」 「それは良かったなっ」  ぎりぎり力を込めるハウスト。ゼロスが悶絶しています。 「ああああああ~~、あたまが~!!」 「ハウスト、もうそろそろ。ね?」  私が言うとハウストが渋々ながらもゼロスを解放しました。  ゼロスは自分で頭をなでなでしながら私に泣きついてきます。 「わああああんっ、ちちうえがぼくにいじわるした~! ぼくはとってもやさしくしたのに、ちちうえが~!!」 「ああ泣かないでください。もう大丈夫ですから。自分でなでなでしてるんですね」 「うん。じぶんでなでなでしてるの。グスッ」 「自分で立ち直れるなんてすごいです。えらいですよ」  私がそう言うとゼロスがピクリッと反応しました。  ゼロスはクロードの服の小さなポケットから赤ちゃん用の小さなハンカチを取り出します。 「クロード、これかりるね」 「あい」 「どうもありがとう」  そう言ってクロードのハンカチで涙をふきふき。  泣くのをおしまいにしたゼロスは改めて私に向き直りました。 「まあね。ブレイラいそがしそうだし、じぶんでしたほうがいいかとおもって。えらい?」  ゼロスが胸を張って言いました。  誇らしげな様子に笑ってしまう。私の手が塞がっているので自分で自分を慰めたのですね。自分で自分をなでなでする姿は可愛いものでした。  しかも前髪を結んで額にハチマキを巻いているのです。可愛いやら可笑しいやらで大変です。もちろん笑ったりしませんが。 「はい、えらいですよ。さすがステキな冥王様です」 「うん。ぼくはステキなめいおうさまだから!」  もう大丈夫ですね、ゼロスは完全に復活したようです。  しかも「ちちうえ、じょうずじゃなくてもだいじょうぶだからね」と誤解したまま……。  ハウストは眉間に皺を刻んで指を鳴らしましたが、……ダメです。がまんです。がまんですよハウスト。私が目で訴えるとハウストは渋々ながらも我慢してくれました。  こうして騒がしくしながらも私はイスラの黒髪を編み込みます。  前髪と横髪を編み込んで、こうしてこうして、こう。ああして、そっちの髪も編み込んで、こう! 「できました! 完成です!」  とっても上手にできました。  私はワクワクしながらイスラに手鏡を渡します。  イスラは手鏡に自分を映すと少し驚いた顔で目を瞬きました。  大成功ですね。その反応に心がワクワクします。 「イスラ、どうですか。私とお揃いなんですよ?」  私はイスラの肩に手を置いて一緒に鏡を覗きこむ。そう、お揃いです。  手鏡に映ったイスラと私。  私は髪飾りで片側の前髪と横髪をアップにしています。髪飾りはハウストにプレゼントしてもらったお気に入りです。  イスラも片側の前髪と横髪をアップにしてあげました。旅をするイスラに髪飾りは邪魔になるといけないので編み込みです。私は器用なのですよ、とても上手にできました。 「ブレイラとお揃い……」  イスラが鏡を見つめてぽつりと零しました。  その反応に少し不安になってしまう。私は楽しい気持ちになってイスラの髪を編み込みしましたが、イスラには不快だったのかもしれません……。 「……ごめんなさい。迷惑でしたか?」 「違う、そうじゃないんだっ」  即座に否定してくれました。  イスラは照れ臭そうに鏡に映った私を見ます。私も鏡に映ったイスラを見つめて、鏡を通して見つめあう。 「良かった。それじゃあ迷惑じゃなかったんですね?」 「当たり前だろ? ブレイラが俺にしてくれることで迷惑なことがあるわけない」 「イスラ、なんて嬉しいことをっ」  胸がきゅんっとしましたよ。  鏡に映った私の顔がパッと輝くと、鏡に映るイスラが優しく目を細めます。  そんな私たちにハウストが若干引いているようですが、それは気のせいということにしておきましょう。  だってイスラが喜んでくれていますから。 「ブレイラ、ありがとう。俺によく似合ってる」 「はい、とても似合ってます。あなたのキリッとした目元がよく見えます」  前髪と横髪を編み込みしたのでイスラの端正な目鼻立ちがよく映えるのです。  力強い意志を宿す紫の瞳はキリッとして魅力的。幼い頃は愛らしい形の瞳をしていましたが、大きくなりましたね。鋭さと精悍さが増して大人の魅力を感じさせます。 「とても素敵ですよ」  ツンツンツン。イスラの頬を指で押しました。  イスラがくすぐったそうに目を細めて私を振り返ります。 「お揃いだな」 「はい。お揃いです」  ツンツンしながら笑いかけました。  私のイタズラにイスラは「いたいだろ?」と言いながらも笑ってくれます。  そうしていると視線が。  ゼロスです。ゼロスが小さな人差し指を立ててじーっと私たちを見ていました。どうやら真似したいようですね。 「ぼくも」 「ぼくも、なんだ」  ギロリッ、とイスラがゼロスを振り返りました。眼光だけで冥王の言葉を遮ります。勇者とは思えぬ形相です。  ゼロスは青褪めて首を横に振る。ぼくはなにもたくらんでません、と無実を訴えるように。  でもどうしてもツンツンしたいようでクロードを振り返ってニヤリ。そして。 「えいっ」 「あう」  クロードのほっぺがつっつかれました。  赤ちゃんのほっぺはお饅頭のように柔らかくてゼロスの瞳がキラキラ輝きます。 「わああっ、おもしろい~。ツンツンツン」 「あうあうあう」 「ツンツンツン、ツンツンツン」 「あうあうあう、あうあうあう」  ツンツンされまくるクロード。  クロードは怒って抗議しようとしますが、その前にツンツンされてなにも出来ません。  プンプンしたいのに出来なくて……、ああいけません。ツンツンされながらプルプルし始めました。唇を噛みしめてプルプルです。

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