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第9話◇

「なんで、男同士でディープキスなんてしないといけないんだよ! 男と女でなかった時点で無効にしろよ!」 「んだ、樹ー? 王様に逆らうのかー?」 「うるさい、絶対無効!」 「残念でした、無効なんかしねえよー♪ んな事してたらつまんねえじゃん。オレらだって、キスした事あるよなっ?」  現在の「王様」の橋本は、隣りに居た佐藤に、呼びかける。すると佐藤もまた、思い出したように嫌そうな顔を浮かべる。 「あるある! 樹もゲームなんだから、ちゃんとやれよな?」 「そーだよ、1回だけはゲーム参加するって言ったんだからさ」 「いやだからって拒否ってたら、ゲーム、つまんねえじゃん!」  逆に猛抗議を受けて、ぐっと言葉に詰まる。  ていうか、こんな命令、出す奴がいけないんだ!  言おうとした瞬間、隣で黙ってた蓮が、ため息を付いた。 「……樹、しよっか。こいつら変えないだろうし」  今までずっと黙っていた蓮。  苦笑いとともに、オレに呼びかける。  その言葉に、目が点になった。 「お前、オレに、そんなこと出来るの?」  うそでしょ?  蓮をガン見していると、蓮はまたため息。 「――――……出来るよ、別に。 こいつら相手でも出来るし」  嫌そうに、橋本と佐藤を親指で指す蓮に、言葉が出ない。 「……なあ、おーさま。 樹、こんな嫌がってるし、相手変えちゃだめか?」  蓮がそんなことを言う。  オレは、隣の蓮をマジマジと見てしまう。  ……ちょっと待って。  ……相手、変えるって。  ――――……相手かえるって……。  蓮、オレの目の前で、他の奴とキスすんの…?  咄嗟に浮かんだ、その気持ち。  ――――……整理しきれなくて、ただ、蓮を見つめていると。 「オレとキスしたい奴、いるー?」  蓮がそう言った。周りがわっと湧く。  女子はキャーキャー言ってるし、男子は要らん要らんと騒いでる。  盛り上げるの、ほんと、上手……。  ――――……こういうのが、蓮なんだと、思ってた。  直接話すまで、人に囲まれて、中心で騒いで、とにかく楽しそうな。   「女子選ぶのばどーかと思うから、男子選んでいいだろ?」  蓮に吟味され始めた男達は、「いやいやオレらは良いから」「樹にやってくれ」と辞退している。  しばらく、混沌とした大騒ぎが続いていたけれど。  王様の橋本が、首を振った。 「だめだって。そんな我が儘で変えてたら、このゲーム何も面白くないじゃんか」 「でも、ここまで嫌がられると、オレもやりにくいっつーか……」  ちら、と蓮に見られて。  オレは、む、と唇を噛んだ。 「……オレ、2度と、このゲームには参加しないから」  オレがそう言うと、苦笑いの周囲。  けれどその言葉を、渋々ながらも了解と判断した皆は、一気に盛り上がる。  ゲームに参加してなかった奴らまで、見物にきている始末。 「いいの、樹? 相手変えるまでごねてもいーよ?」  蓮が、オレを見つめて、そう言う。 「……もーいいよ」  ……つか、蓮が他の奴とキスすることになっちゃうじゃんか。  ………よく考えたら、普段軽いキスはしてるし。  耐えられなくは、ないんじゃないだろうか。うん。   人前って言うのが、嫌すぎるけど。  ああ、もう、本当に、参加するんじゃなかった……。

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