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第24話「鼓動」*樹
パーキングに車を停めて、降りて、皆と話していると。
蓮の姿が見えた。
あ。蓮だ。
――――……ふわ、と気持ちが明るくなる。
「蓮、お疲れ」
「……ん」
ふ、と微笑まれて、ますます嬉しくなる。
「蓮は緊張した?」
隣に来てくれた蓮に、そう聞いた。
助手席に座ってと言われてたのに離れてしまったから、少しだけ心配してたから。そしたら、してないよ、と笑まれて、そっか、良かった、と笑い返した。
やっぱり蓮だな……。
……佐藤の緊張は半端なかったから、やっぱり佐藤の車に乗って良かったのかも……なんて思っていると。
蓮が皆に 店に行こうと声をかけて、歩き出す。
オレに視線を向けながら歩き出してくれるので、その隣に並ぶ。
――――……やっぱり、蓮の隣が、安心する。
「カフェオレ飲む?」
「うん」
蓮に頷いたところで、急に肩に腕が回ってきた。
「樹、オレもコーヒー飲みに行く」
なんか、森田って今まで直接あんまり話したことなかったけど。
車の中で話してたら、なんかどんどん親しげになってきて。
なんか、前からの友達みたいなノリで、どんどん距離がつめられる。
別にそれが嫌じゃない。
こういうとこが、きっと、蓮に似てるって、オレが思うとこなんだろうなあ。
なんて、思って、笑ってしまうのだけれど。
「でも重いから腕やめて」
「なんだよいいじゃんか」
「やだ、重い」
肩にかかった手をぺりぺりとはがしていると、やっと外れた。
「そっちの車は盛り上がってたか?」
森田は蓮にそんな風に聞いた。
――――……蓮は……少し、機嫌が悪い、かな。
蓮は、オレに、必要以上に絡む奴が居ると、ちょっとだけ機嫌が悪くなる。
多分、他の人は気づかない程度。
笑顔が少しだけ真顔になる、とか。
少しだけ、言葉が少なくなる、とか。その程度だけど。
何も気づかない森田と、蓮の会話が終わって。
森田が皆に話しかけに行ったので、ふと、蓮を見上げる。
――――……ちょっとやっぱり機嫌悪い。
緊張しなかったとか言ってたけど……。
やっぱり、慣れない運転だし、疲れたのもあって余計かも。
……隣に座るっていう約束も、守れなかったし。
「蓮、疲れてる?」
「ん?」
「運転、ほんとは疲れちゃった?」
じ、と見上げてそう聞いたら、見つめ返してきた蓮が、ふ、と瞳を優しくして笑った。
「疲れてないよ。何か食べる? オレ腹減った」
あ。元どおり。
――――……蓮は、いつもオレのこと過保護で。優しくして、心配して。なんか、守ろうとしてくれてるみたいな気がするけど。
オレから、心配したり、優しくしたり、すると。
いつも、すごく、ふわ、と笑う。
その笑顔が、なんか――――……大好きで。
――――……蓮のことは、知り合う前から、知ってはいた。
目立つから、よく見かけてた。
知らない人の事は、廊下を通っていても全然気にならなくて、目に入ってこないけど、何故か蓮は目に入ってきた。
陸上で何度も表彰されたり、高校の廊下で写真が掲示されてたり、顔を認識する機会が多かったからかもしれない。
でも、なんか、オレとは全然違うタイプ。
多分、一生、合わない。話す機会も生まれないし、話しても合わない。
そう思ってた。
だから――――……。
入試の朝にたまたま会って。
合格発表の日に高校でたまたま会って。
同居しようなんて、なったのは、いまでも、すごく不思議。
だけど――――……。
「蓮、お店あっちだね、いこ」
なんとなく。
2人で、行きたくて。
蓮を少しだけ引いて、歩き始めた。
すぐに、樹の隣に並んでくれて、2人で歩き始める。
合わないだろうと思ってた。
苦手なタイプだと、思ってた。
なのに――――……。
隣の蓮を、見上げる。
誰もが、カッコイイって、言うだろうなあ。
ぱっと見で、目立つ。
家でスエット着ててもカッコいいもんな……。
蓮と居ると、女子の視線が来るのが分かる。
ついつい、見ちゃう気持ちも、なんかすごく分かる。
でも。
オレは、別にカッコいいから、見てたいんじゃない。
正直、男がカッコよくても、そうじゃなくても、オレには、関係ない。
蓮の、この顔が、例えば他の誰かについてても別に好きじゃない気がする。
蓮が、オレと、話してて、ふわっと優しく笑うとことか。たまに少し困ったみたいになるとことか。
キスしてくるときの、少し……いつもと違う顔とか……
蓮が蓮で、その顔に、色んな表情が浮かんで。
優しい言葉とともにくっついてくるから――――……大好きで。
――――……なんか、オレ何考えてるんだろ。
なんか、おかしいな。
「――――……」
……分かった。
蓮が居るのに、蓮と居ない時間なんて、普段ないから。
……オレ、寂しかったのかな。
――――……バカみたいだな、時間にしたらほんの僅かなのに。
久しぶりに会えた気がして、多分、嬉しくなってる、んだな。
「なんか、蓮が久しぶりな気がする……って、大げさか。可笑しいよね」
そう言ったら、なんだかますます自分のことが可笑しくなって、笑ってしまった。
「――――……樹、トイレ行きたい」
「え?」
腕を掴まれて。急にどんどん歩きだす。
皆を振り返ると、特に気にしてないみたいなので、蓮に視線を戻す。
「蓮……?」
トイレについて、人が居ない奥に入った蓮と一緒に、個室に入った。
「樹ごめん、こんなとこで」
「――――……」
「キスしたい」
「――――……」
小声で言われて――――……頷くか頷かないかのうちに、唇が、触れた。
ぎゅ、と抱き締められて、しまう。
「……っ」
すこし、深く、触れる。
「――――……れん……?」
「……樹不足すぎ…… ごめん……」
「……なにそれ」
キスが離れて、ぎゅーと抱き締められて。
思わず、背中に手を回して、ぽんぽん、と叩いて、そのまま抱き付く。
「でも――――……オレも、かも……」
蓮の胸にぽふ、と埋まってると。
――――……なんかもう、何もかも、周りはどうでも良くなって。
蓮が居てくれたら、もうそれで、幸せだなと、思ってしまう。
「蓮……人来ないうちに、出よ……?」
「……ん」
最初に蓮が出て、誰にも見られず無事外に出ると、お互い顔を見合わせて、すこし笑ってしまった。
トイレを出て店の方に向かうと、ちょうど皆が居て、普通に合流。
――――……なんだかすこし早くなってる鼓動が、心地よくて。
皆と話しながら、何となく、蓮を目に映してしまう自分が居た。
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