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第25話「一緒だとあったかい」*樹

 高速を降りて、しばらく走ったあと、山田から電話がかかってきた。 「もしもし?」 「次の信号左折したとこにあるスーパーに入るから、佐藤にそう言って」 「分かった」  電話を切ってから、佐藤に視線を向ける。 「その信号左折したとこのスーパーだって。蓮の車についてけばいいと思う」 「ん、わかった」 「……高速無事終わって良かった」 「ん?」 「佐藤がすっごいドキドキしてるから、オレも実はちょっとドキドキしてたんだ~」  苦笑いでそう言うと、「ええっそうなの?」と佐藤がオレを見る。 「全然平気な顔してくれてるから、安心してたんだけど」 「だってオレまでドキドキしてたら、佐藤もっとパニくりそうだから」 「樹がドキドキしてんのは、オレも分かんなかった」  森田が後ろから、クスクス笑う。 「でも最後の方はもう、大丈夫そうだなって、思ってたよ。帰り、大丈夫でしょ?」 「うん、まあ。多分、少しは大丈夫そう」 「よかった」  佐藤に笑いかけてると、森田が後ろでクスクス笑いだした。 「……なに笑ってんの?」 「帰りは、加瀬の車に乗んねーと、あいつ、拗ねるだろ」 「……拗ねないよ」  何言ってんだろうと、すぐにそう答える。 「だって蓮、全然運転大丈夫って言ってたし」 「そりゃお前に、無理ーなんて、あいつが言う訳ないじゃん」 「……なにそれ、どういう意味??」 「まあ、実際無理そうじゃないのはわかっけど…… 無理だって、泣き言なんか言わないだろ」 「まあ…… そうだね、 蓮が泣き言いってるのは聞かないけど」 「……特にお前には言わないだろ?」 「オレにはって、どーいう意味??」 「いや、なんとなく。そう思っただけ」 「……自分でも何となくな、謎な事、言うなよ」  オレがじっと見つめながら言うと、森田は、少し黙って。  クスクス笑い出した。 「そうだな、ごめんな」  意外に素直に謝ってくれたので、くる、と森田を振り返って、うん、と頷いた。 「はいはい、着いたよー」  佐藤が車庫入れを終えて、ハンドブレーキを引いた。  皆で車を降りて、先に停まっていた蓮の車の所に歩み寄る。  全員そろった所で、森田が説明を始めた。  「今日と明日の夜、2回バーベキューするっ事になってるから。んで、朝は朝食取れる施設があって、昼は、どっか出かけると思って何も頼んでない。 今日と明日の分は、夜の材料は全部持ち込みなんだけど……どーやって買い物する?」  それを聞いて、蓮が、すぐに森田に視線を向けて、「ここから目的地どん位?」と聞いた。 「15分くらい」 「じゃあ明日の分は明日買おうぜ。オレ車で買い出し来てもいいし」 「OK、じゃあ今日何買う? 皆好きなもの買う?」  皆がうーん、と考えてると。 「じゃ皆どーしても食べたいもの2個ずつ持ってきて。それ見ながら、あとは皆で食べられるもの買おうぜ」  蓮の提案に、さんせーい、と皆が湧く。 「とりあえず皆が選んでる間、野菜とかたれとか、必要そうなもの適当に買っとく。誰か飲み物買っといてくれるか?」  森田と山田が張り切って手をあげてるのを見て、蓮はぷ、と笑い。 「頼んだ」  と言った。 「ノンアルの酒っぽいの買ってこよーぜ」 「せっかくだもんなー」  と、二人は楽しそう。 「りょーかい。女子も飲み物とかデザートとか好きなの適当に持ってきて。樹と佐藤は?」 「オレ、なんでもいいから蓮と野菜選ぶよ」と樹。 「オレも何かノンアルの美味しそうなのもってくる」と佐藤。 「佐藤、オレと樹のも何か選んで」 「いいよ、了解」 「じゃ自分の買い物終わったら、他の奴探して、どっかで合流。見つかんなかったらレジの近くに居て」 「はーーーい」  蓮の言葉に、皆、わらわらとスーパーに散らばっていった。  蓮はこういうの、ほんと得意……。  森田とか山田ですら、すんなり言う事聞くもんなあ。すごい気がする。  思い出すのは、高校の時の体育祭とか文化祭。隣のクラスがめっちゃもりあがってると思ったら、いっつも真ん中に蓮が居たなーなんて。  ……ほんと、カッコいいなあ。  ……なんて、思って、ぼーとしていたら。  すっかり出遅れて、皆が居なくなっていた事に気付く。 「何してんの、樹。いこ」  カートにかごを2つのせてる蓮に、誘われた。 「一緒に野菜選ぼうぜ」  クス、と笑って、蓮がオレを見つめる。 「樹は何か欲しいものある?」 「オレ別になんでも食べれるし」 「だと思った。じゃ野菜――――…… きゃべつと……もやしと……ピーマン……あ、パプリカ安いな。玉ねぎと……どうせ焼きそばたべるよな。人参も買ってこ」  あれやこれやと言いながら、蓮が次々と野菜をかごに入れていく。 「あんまり野菜買うと、あいつらに文句言われそう」  蓮の言葉に、容易に想像できて、笑ってしまう。 「これ位にしとくか。あ、樹、トウモロコシ、焼きたい?」 「うん」  頷くと、蓮はふ、と笑う。 「甘いかなーこれ」 「どうだろ? あ、蓮、エリンギたべたい」 「いーよ、入れて」  2人であれやこれや言いながら、カゴに入れていったら、結局ひとかごが野菜でいっぱいになってしまった。 「うっわ、なにその野菜の量、うそだろ」  森田の声がして、振り返ると、呆れたみたいに笑ってる。 「明日も使うし、いーんだよ」  言い返す蓮に、森田は「料理できねーからお前に任せるけど」と言った。 「――――……? オレが、料理出来ると思ってんの?」  蓮が、ふと、気になったみたいで、森田にそう聞いた。 「樹が料理できなくて、お前が洗濯とか苦手で、2人で暮らし始めたって、さっき樹が言ってたから。 てことは、お前は料理できるって事だろ?」 「ああ。……まあ、普通に食べれる位には」 「お前が料理出来るなんて、不思議なんだけど」  森田がからかうように笑ってる。 「るせ」  と、蓮も笑ってる。 「不思議どころか、蓮のご飯、ほんとに美味しいんだよー? 森田にも食べてみてほしい」  しみじみそう言ってしまう。いつもの蓮のご飯をなんとなく思い出してると、蓮と森田が、くる、と樹を振り返り。 「樹……」    蓮が、ふ、と。 なんとなく、苦笑い。  でもって、森田も、また、苦笑い。 「え。なに?」 「ははっ。……なんかオレ、加瀬が樹をすげー可愛がってるのが、分かる気がしてきた」 「……なにそれ??」  また謎なことを……。 「そんな顔して、毎日加瀬の飯、食ってんだろ」  クスクス笑って。デコピンならぬ、手のひらで額をぽん、と押された。 「なんだよもう、痛いし」 「なんだよじゃねえっつの。お前は食べたいもの選んだの?ずっと加瀬と野菜選んでたのか?」 「オレ何でも良いから。飲み物は選んだの?」 「ああ。すげー重いから山田がかごと一緒に待ってる」 「あ、そうなんだ」 「とりあえずオレ、他の奴ら探してくる。野菜もう、そこそこになー」  そんな風に笑いながら、森田は消えていった。 「……樹、なんかずいぶん仲良くなったな」 「え。そうかな?」 「――――……なんかさ」 「うん」 「あんな風に、しみじみ、美味しいとか言うのはさ」 「うん?」 「――――……二人ん時でいいよ」 「……うん???」  ……なんで?? 「なんか …… 可愛い顔して、笑うなよ」 「――――……っ」  不意に、こそ、と囁かれて。  恥ずかしくなる。 「……そんなにオレの料理好きなんだなーと思うと、すげえ嬉しいけど」  楽しそうな、笑顔で、振り返られる。  蓮って。――――……カッコいいけど。  ほんと、こういうの……可愛いなぁ……。   「……好きに決まってるじゃん。知ってるでしょ?」 「――――ん……知ってる」  ふ、と優しい笑みで、笑って。蓮がまっすぐ見つめてくる。 「今日は何も作んない?」 「下準備位。切ったり串に挿したり」 「手伝うね」 「ん」 「エリンギ切る」 「なんでエリンギ限定……」 「あれなら切れる。縦に切ればいいんでしょ?」 「じゃ玉ねぎも輪切りにして」 「え。輪切り? ……出来るかな」 「輪に切るだけだけど」 「……やってみる」 「ん」  クスクス蓮が笑う。  蓮と居ると、なんか――――……。  いっつも、優しい気分で、話せる気がする。    ――――…… あったかくて、楽しい、なあ……。  

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