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第26話「来て良かった」*樹

「いこ、樹」  笑顔の蓮に言われて、うん、と頷く。  飲み物のコーナーにつくと、もう皆が待っていた。 「うわ、なに、野菜すごいし」 「森田とおんなじ事言うな」  佐藤に突っ込みを入れながら、蓮が笑ってる。  皆の選んできたものをカゴにうつしながら、蓮は、「あと足りなそうな肉とか諸々買ってくる。2、3人残ってくれれば、車戻ってていいけど」と言った。 「そしたら、女子ついてったら?」  山田が言うと、女子達は、いーよー、と言って蓮に並ぶ。 「あ、オレも荷物持ちで残るわ」  森田がそう言って、蓮の横に進むと。 「カゴで車まで運ぶからいーけど?」 「いーよ、オレも肉見たいし」  森田が笑いながら言ってる。 「じゃオレらは車で待ってようぜ~」  山田に、ぽん、と背中を押された。  佐藤と山田と、オレの3人で歩き出しながら、一瞬振り返る。  蓮の隣に、坂井が居るのを見て、少しだけ、胸に何かがひっかかる。 「なあ、山田?」 「ん?」 「なんでさー、車ん時もだけど、3人と加瀬を一緒にすんの?」  佐藤がするどい事を山田に聞いてる。 「……お前にも言っておくか」 「ん、なに?」 「坂井がさ、加瀬の事気になるんだって」 「へえ、そうなんだ」 「だけど、積極的な子じゃないからさ、機会があったら協力してやって」 「ふーん。……まあ、できたらね。オレそういうの得意じゃないかも」 「……うん、そんな気がする」 「あ、ひでーな、山田」  苦笑いの佐藤。  あ、こうやって断ればいいのか……。なんて、佐藤を見て思ったりして。 「じゃ樹も協力してんの?」 「んー……オレも――――……苦手……かな……」  佐藤に乗っかって、そんな風に言ってみたりする。  すると、山田がはー、と息をついた。 「つか、お前ら、少しくらい協力しろよ」 「出来たらなー。 な、樹?」 「うん」  ふふ、と笑って、佐藤に頷く。  蓮の車は鍵がなくて開けられないので、山田も一緒に、佐藤の車に乗りこんだ。 「つか、加瀬ってさ、彼女ほんとにいないの?」 「――――……居ないと思うよ」 「なんで居ないの?絶対モテてるだろうに」 「――――……さあ……」  まあ確かに、たまに呼び出されて消えたりするから、モテてはいるんだろうけど……。 「つか、ほんとに協力してやって。坂井、ほんと良い子だしさ」 「んー……何すればいいの?」 「横澤は、あんまり加瀬の近くに居ないでくれたら良いかなあ」 「何それ」  樹より前に佐藤がつっこんで、笑ってる。 「だって加瀬って、横澤が居ると、横澤しか見てねーじゃん」 「……そんな事ないし」 「そんな事、あるよなあ??」  山田が言うと、佐藤は。 「そこまでじゃないんじゃない? ちゃんとオレの事も見てくれるよ?」  クスクス笑いながら冗談めかして佐藤が言う。 「まあ仲いいから、坂井は寄っていきにくいかもとは思うけど……」 「――――……」 「……でも、樹が離れると加瀬が嫌がりそう」  佐藤がクスクス笑う。  ――――……なんか、ほんとに、皆どういうつもりでこの話してるんだろう。  森田もだし、山田もだし、佐藤まで。  蓮が、オレの事、大好き、みたいな。  ……何で誰も、オレの事、言わないのかな。  絶対オレの方が、蓮の事、好きだと思うんだけど。  蓮は、誰とでも仲良くできるし、何なら、大勢で出かけたりするのも好きだろうし。 オレだけにこだわってるみたいな、そんな風に蓮が言われるの、正直、蓮ぽくない。 「横澤、適度に加瀬から離れてあげて……」  疲れたみたいに山田が言ってる。 「適度って……難しいよなあ?」  佐藤が苦笑い。 「……うん」 「じゃ、そういう時は、オレと遊んでよっか、樹」 「――――……ん」  佐藤に、頷いた瞬間。  こんこん、と助手席の窓が叩かれた。  ――――……蓮だった。  がちゃ、とドアを開けて外に出た。 「お待たせ」  荷物いっぱい持って、蓮が笑う。 「おかえり」 「ん。 佐藤、泊る所まで、オレ先に走るから」  オレ側のドアから佐藤を覗き込んで、蓮が言うと、佐藤が「OK」と笑った。 「あ、オレ、このままこっちに乗る」  山田が言うと、後から来てた森田が眉をひそめた。 「は? オレは樹いじりながら行くんだから、どけよ」 「オレいじんなくていいし」 「つか、別にオレ乗ってても座れるだろが」  樹のセリフは無視して、なんだかんだと騒ぎながら、後部座席に山田と森田が並んだ。 「何、オレ、男子一人?」  苦笑いの蓮。 「いーじゃん、ハーレム」 「誰か加瀬の隣すわってあげて」  森田と山田が言ってる。  ……まあ、多分、坂井に向けて言ってるんだろうけど。 「まいっか、15分位。 ……樹にあんま絡むなよ」  森田と山田に、ちら、と視線を流しながら、蓮が言う。 「ていうか、いじるとか言ってたの、こいつだけだし、オレ見んな」  山田が、森田を指さして、そんな事を言ってる。  ふー、と息を吐きながら。  蓮は、女子3人と、車に向かって歩いて行った。 「……加瀬って、何であんな過保護??」 「お前、ちょっと大変?」  山田と森田が、面白そうに前に身を乗り出してくる。  蓮と森田が似てるとか思ったけど、 山田と森田も似てる……。 「別に大変じゃないし。……ベルトしろよ」 「あ、横澤に怒られた」 「お前のせいだろ」  ぶつぶついいながら、2人が後ろでシートベルトをしめてる。 「あ、坂井が隣に座ったみたいだね」 「お、やった」  佐藤のセリフに、山田が答える。 「……ああ、やっぱり坂井は加瀬狙いなの?」  森田がそんな風に言うと、山田が「なんで、やっぱり?」と聞き返す。 「今店で残った間に、何となく。 結構分かりやすいよな」 「え、積極的にいってた?」 「逆。坂井、オレとは話すけど、加瀬とは話さないし、でも、加瀬の方見てるし。すっげえ分かりやすい。――――……加瀬は、全く気にしてなかったけど」  けらけら笑ってる森田に、山田は苦笑い。 「加瀬が気づいてくれれば早いけど、伝えるのもおかしいしなー。つか、森田鋭いな」 「オレそういうのは、すげー鋭いから」  そういうの、だけじゃない気がする。  いろんなこと、見透かされてるみたいで、ちょっと困る位。  森田は鋭い気がする。  ――――……キス、してるのまでは、バレないと思うから。  別に……それ以外は、隠すような事も、ない、んだけど。  山田が入っただけで、めちゃくちゃうるさい後部座席に、佐藤と苦笑いしつつ。なんだかんだとにぎやかで楽しい15分。  キャンプ場に、やっと到着した時には、もう19時前だった。  数時間まで大学で授業を受けていたのに。  車を降りると、茂った木と、何棟も並ぶログハウス。それぞれのログハウスの前で、家族連れやカップルたちがバーベキューをしたりしていて。  なんか、すごく、非日常の世界。 「上の事務所行って、手続きしてくる。待ってて」  森田が言って、一番奥の建物に歩いて行った。  全然、いつもと違う雰囲気。  空も、見上げると、高い建物がないせいか、ものすごく広い。 「樹、どした?」  ぼー、としていたら、いつの間にか隣に来てた蓮にふ、と笑われて。 「空、広くてキレイだなーと思って」 「――――……」  紫色の、綺麗な空。 「――――……来てよかった?」  そう聞かれて、蓮を見上げる。 「うん」  憂鬱だったけど。  ――――……今も、その憂鬱な理由は消えては無いけど。  でも、蓮と居るから、行こうかなと思えたし。  ――――……多分一人だったら、オレ、絶対断ってるし。  蓮と居る事で、こういうの参加できてる気がする。 「来て良かったよ。蓮は?」  聞くと、すぐ頷くと思った蓮は。  少し、唇を結んだ。  ……あれ? 「んー。……今までんとこ、樹と離れてるから、ちょっと納得いかねえけど」 「え」 「まあ――――…… 楽しそうなお前見るのは、嬉しいから」 「――――……」 「来て良かったと思うけど」  ふ、と優しく笑われて。  どき、と胸が震える。  ……何、それ。  ――――……楽しそうなオレ、見るのが嬉しいから、とか。  ……そんなこと言われてしまうと……。  ――――……蓮の事、しか、考えられなくなりそうで。  なんでか、すごく――――…… 胸の真ん中が。  きゅ、と握られたみたいに。  ……少しだけ、苦しくなって。  けどそれ以上に、なんだか、心の中が、あったかくて。  戻ってきた森田から、集合がかかるまて。  ただ、蓮を見つめて、何も、返せなかった。

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