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第27話「大事すぎ」*蓮

 高速、空いてる。  ――――……このペースなら20分位で高速は降りれるな。  バックミラーで後ろの佐藤の車を確認。  なんとなく、樹が見える。  さっきの休憩の時――――……。  樹をトイレに連れ込んでしまった。 「キスしたい」  そう言ったら、樹が少し頷いてくれて、同時に、キス、してた。  ――――……抱き締めてしまった。  もう、ただ素直に、樹不足、とか言ってしまった。  そしたら、なんだかあやすみたいに、樹に背中をポンポンされて。  オレもかも、と言って、抱きつかれた。  なんかもう――――……あのまま、樹をずっと抱き締めていたかった。 「なー、加瀬、なんか機嫌良い?」  急に山田にそう言われた。 「なにが?」 「なんか、鼻歌歌ってるし」 「――――……別に。もうすぐ着くなーと思って」    ……マジか。  ――――……オレ、歌ってた?  ……言われてみれば、歌ってたかも。  ――――……さっきの樹が可愛くて。  離したく、なかったんだよな……。  ふー、と息を吐く。  ――――……もうオレは、自分の気持ち、分かってる。    樹が誰よりも大事で、可愛い。今一番一緒に居たいのは、樹。  ……もうこれは、絶対、なんだけど。 「……横澤ってさあ」 「……?」 「――――……高校ん時からあんな感じ?」 「……あんな感じって?」 「――――……顔キレイで。でも静かすぎかなーと思うと、結構話すから、意外と人気あるっつーか……」 「……顔は変わんないだろ。まあ……密かに好かれてる感じ。大勢で騒いだりしないから、目立たねえけど……」 「彼女とか居たの? 知ってる?」 「居たらしいけど。……結構派手めな子」 「へー。意外」  そんな風に言ってる山田を横目にしてから、ふと思う。  そう、なんだよな。  樹の、恋愛対象は、女の子、なんだよな……。  まあ……オレも、そうだったはずなんだけど――――……。  そこが、どうしていいのかよく分からない部分。  ただ好き、というだけでいいなら――――……。  今まで生きてきた中で、一番、樹が好きで、樹と居る自分が、幸せ。  確かにそう思えるのだけれど――――……。  樹は……。  ――――……オレのこと、何だと思ってるのかな。  友達……?  ――――……同居人……?   もともとが優しいし。  オレの事、好きではいてくれてるからか、ほとんど拒絶とかはなくて。  いつもほとんどを受け入れてくれてしまう、けど。   それでいいんだろうか。  まあ――――…… 急がないで、考える、けど。  そんな事を思いながら、運転をして。  皆と買い物を終えて、やっとキャンプ場についた。  広い空を見上げて、嬉しそうに笑う樹を見てたら。  なんだか本当に、好きだなーと思ってしまった瞬間。  この旅行に来て良かった?と聞かれて。   「んー。……今までんとこ、樹と離れてるから、ちょっと納得いかねえけど」 「え」 「まあ――――…… 楽しそうなお前見るのは、嬉しいから」 「――――……」 「来て良かったと思うけど」  思うままに、そう言ったら。  何を思ったのか、樹は完全に固まって。  まっすぐ、ただ見つめてくる。  何も話さずに、ただ、じっと見つめられて。  オレも何も言えず、ただ見つめ返して。  なんか――――……樹が、大事すぎて。  オレのこの気持ちと。 樹の気持ちが、うまく重なって。  いつか、2人でずっと、居れるようになれたら、良いんだけどな……。 「おーい、集合ー。手続きしてきたぞー」  森田の声がして、は、と現実に戻る。 「――――……いこっか、樹」 「あ……うん」  頷いて。樹が、オレの隣に並んだ。 「蓮」 「――――……ん?」 「……ありがと」 「――――……ん?何が?」 「……なんか全部」 「全部?」 「蓮が、横に居てくれる事とか、全部」 「――――……」 「ここも、蓮が居なかったら、来なかったと思うし」  ふ、と樹が笑う。  あー……。  ――――……キス、したい。  自分が大好きな奴が、こんな風に言ってくれて、  ――――…… 我慢できる奴って、居るのか。  でも、少し離れた所で、皆がこっちを向いて待ってるので、まさかキスするわけにもいかず。 「……樹」 「ん?」 「――――……野菜一緒に切ろ」 「……何それ」  ぷ、と笑って、樹がオレを見上げる。 「切るよ、玉ねぎの輪切り教えてもらわなきゃいけないし」  どうしても――――……樹が可愛い。    皆が待ってるからか、少し急いで歩いてく樹の後を歩きながら。  そんな風に思ってしまう。  「すぐそこの7番のログハウスがオレらのだから。車から荷物運び込んだら、バーベキューの準備しよ。 風呂の施設は歩いて10分弱のとこだっつーから、バーベキュー終わったら皆でいこうぜ。 あと、寝る部屋が3部屋あって別れるんだけど、女子は3人でいいよな」  森田の言葉に、女子は頷いてる。 「男は3人と2人に別れるか? まあそれは後でいっか、とりあえず荷物運ぼう」  森田の言葉に、皆がまた車のもとへと歩き出す。 「加瀬は、バーベキューの下準備担当でいい?」  歩きながら、並んだ森田に言われて、頷く。 「オレも、野菜切る約束したからそこでいい?」  樹が森田にそう聞いてる。「いいよ」と森田。 「――――……部屋は、お前ら一緒がいい?」  一瞬の沈黙の後、森田がそう聞いてくる。  なんとなくその沈黙が気になって、森田に視線を向けた瞬間。 「別に絶対一緒じゃなくてもいいよ。 グーパーで別れる?」  不意に、樹がそう言った。 「――――……」  咄嗟に、え、と思って樹を振り返る。 「オレと蓮、いつも一緒だし。むしろ別でいいよね?」  にこ、と樹が、オレを見て笑う。 「……ああ。そうだな」  なんとなく、樹がそれを望んでる気がしたので、頷いた。   「……んじゃ後でグーパーすっか」  森田がそう言って、離れていった。 「――――……」  今のって、何?  そう思うけれど――――…… まあ普通に考えれば……。  いつも一緒だから、今日くらい別の奴と……とか。  オレ達だけ特別に一緒、なんて、最初から言うのも、変か、とか……。  ……まあ、分かるのだけれど。  ――――……なんだかよく分からない、胸の中は。  ……ちょっとショックだったりする。 「……違うから……蓮」 「え?」 「……あとで2人の時話す。オレ、蓮と居たくない訳じゃないからね」 「――――……ん。」  オレが頷くのを確認して。樹も小さく頷いた瞬間。  「樹―、これお前のー?」 「うん」  佐藤に呼ばれて、樹は、車の方に急いで走っていった。  その後ろ姿を見ながら。  ふ、と小さく息をつく自分。  女子と山田が、車のカギを開けてーとばかりにこっちを向いていたけれど、急ぐ気になれず、ひたすらゆっくり歩いてしまった。

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