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第28話「好きだけど」*樹

「うわ、火、手、燃えるわ!」 「おお、ついたー!」  炭火おこしをしてる山田と森田が大騒ぎをしているのを横目に、肉のパックをテーブルに置く。 「佐藤ー、お肉おいておくね」 「ああ、ありがとー」  炭火おこしは山田と森田、テーブルまわりの準備は佐藤と松本。  下準備は、蓮と酒井と南と、オレになった。  肉を外のテーブルに置いて、ログハウスのキッチンに戻ると、3人がまな板広げて切り始めていた。 「加瀬、切り方指導して」  南は、蓮のことを呼び捨てにする女の子。  サバサバしてて、美人だけど、女子っぽい雰囲気は皆無……な気がする。 「指導って……南、料理は?」 「できると思う?」 「……出来ると思いたいけど」  蓮が可笑しそうに、クスクス笑ってる。 「私無理だけど、優菜は出来るよ」 「それはよかった」  蓮の苦笑いに、南は「やること言って」と言いながら、ふとオレを振り返った。 「横澤くんは? できるの?」 「オレできないから、いつも蓮にお任せ」 「じゃあ、一緒に指示待とっか」 「うん、そーだね」  なんとなく、蓮と仲が良いのが分かる。  これは話しやすいかも。 「加瀬くん、トウモロコシ、切る?」  坂井は、南と正反対。見た目も話し方も、女の子っぽい。 「切るけど固いから、オレが切るよ。 坂井は、南とパプリカ切って」 「うん、ありがと」  トウモロコシを蓮に渡し、坂井はなんだか嬉しそう。  ……可愛いな。  山田に聞いてなくても、これは、オレでも分かるかも。 「樹、肉渡してきた?」 「うん。 山田たち、火つけるのに大騒ぎしてた」  笑ってしまいながら言うと、蓮は「なんでだよ」と笑う。 「別に木から火起こしからやるんでもねーのに……」 「手が燃えるとか大騒ぎしてたよ」  とオレが言うと、「危ねーな……」と、蓮がクスクス笑う。 「……ま、いいや。任せとこ。 樹、こっち来て」  言われて、蓮の隣に並ぶ。 「エリンギ切るんだろ?」 「うん。……縦?だよね?」 「そ。置いて。縦に薄く。適当でいいよ?」 「うん」  優しい蓮の声。  ――――……頑張って、薄切りにしながら、蓮に見せる。 「こんな?」 「ん、完璧」 「ほんとかー?」 「……まあ、大丈夫」  ふ、と笑う蓮。 「こっち全部任せる」  クスクス笑いながら、エリンギをぽいぽい置いてく。  ――――……さっきの事、気にはしてないみたいに、見える。  蓮と同じ部屋が良いか聞かれて、グーパーで別れようと言った事。  なんとなく。森田の言い方が引っかかって。  なんかそこまでも、散々、蓮がオレの事好き、みたいにずっと言うから。  「絶対一緒の部屋が良い」なんて、言わないほうがいいと思ってしまったんだけど。逆に、そんなの気にしてる方が、変なのかな、とも思ったりもしたけど……。  咄嗟に、一緒じゃなくてもいい、と言ってしまった。  そのやりとりの後、蓮は何も言わなかったけど、なんか複雑な顔してたから、後で話そうね、なんて言ってしまったんだけど……。そんな、気にしてないかな……。オレが気にしすぎかも。  オレだって。  ……蓮と一緒がいいに、決まってるんだけど……。 「樹?」 「……ん?」 「玉ねぎ、切る?」 「あ、うん」  エリンギを皿に並べてから、玉ねぎをまな板に並べる。 「上下少し切って。皮むいて。そしたら」 「ん。」 「繊維を断ち切る感じ……」 「……繊維?」 「ん、繊維」 「……繊維……?」  繰り返してもさっぱり分からず、蓮を見上げると。  蓮は、ふ、と瞳を優しくして、笑った。 「――――……だから、こう、な」 「あ、そういう意味……」 「そうそう。 あ、ごめん、切る前につま楊枝さして」 「切る前に??」 「切ってからだとばらけるから」 「なるほど……」 「そうそ、上手。じゃオレトウモロコシ切ってるから、樹は玉ねぎ頑張れ」 「うん」  せっせと言われるままに玉ねぎを切ってると、南が笑った。 「なんか2人、ほんとに仲いいんだね」 「そうか?別にたまねぎ切ってただけだけど」  蓮が首を傾げながら答えてる。  オレは、玉ねぎと闘うフリで、返事はしないでやり過ごす。 「加瀬、横澤くんには優しいよね」 「はー? オレ、皆に優しいでしょ」 「そうかなあ、私に対する態度と違くない?」 「……まあ、南はな……」 「かちーん……。むかつくなー……」 「嘘だよ、つか、オレ、皆に優しいつもりだけど?」 「山田には優しくないよね」 「ああ、山田はな……」 「って、私と山田の扱い、一緒にしないで」  南と蓮の、掛け合い漫才みたいな会話を聞きながら、玉ねぎとの格闘を終えて、顔を上げる。 「坂井、今、手あいてる?」  蓮が坂井に話しかけると、坂井が、ぱ、と蓮を見上げる。 「うん、パプリカ切り終わったよ」 「そしたら、トウモロコシ下茹でしたいから、そこの小鍋にお湯沸かしてくれる?」 「うん、分かった」  ……ほんと、嬉しそう。  ――――……蓮、気づかないのかなあ、坂井の好意。  森田なんか、10分位で分かったって言ってたけど。    「……樹、泣いてる?」 「え? あ、玉ねぎ、ちょっと目に染みて」 「弱いなー、みじん切りした訳でもないのに」  クスクス笑いながら、のぞき込まれる。 「ちょっとツンてしただけだし」  浮かんだ涙をぬぐおうと手を動かした瞬間。  蓮が、ぱ、とオレの手を掴んだ。 「だめだよ、樹、玉ねぎ触ってた手で目擦ンな」 「あ、うん…… ごめん」 「ん、手、先洗って」  ふ、と笑って、手を離す蓮。 「――――……なーんか、ほんと良い雰囲気だよね」 「は? ……バカなの? 南」 「はー? ……まあ、二人が仲良しで同居してんのは、よく分かったわ」  そんな会話を後ろで聞きつつ。  手を洗う。  ――――……なんか。  蓮が、手を掴んだ時。  すごい、どき、と胸が動いた。  絶対――――……。  オレの方が、蓮のこと、  好きだと思うんだけど、な。  手を洗い終えて、振り返ると、蓮と酒井がコンロの前に並んでいた。 「横澤くん、野菜外に運ぼー」  南に呼ばれる。 「ん」  まあ多分。  ……少なくとも女子は、坂井の味方なんだろうな。    蓮と坂井を一緒にしたいんだろうなーと思って。  また少し、心に何かモヤモヤしたものが、あるけれど。  邪魔する訳にもいかないし。  ……うん。運ぼう。 「そっち持つよ」  南の持ってた大きな皿を受け取り、ログハウスの外へと運びだした。  

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