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第44話「あまいもの」*樹

 全員が出てくるまで、結局2時間弱かかって。  最後に女子3人がそろって出てきた時には、謎の拍手が起こった。  皆疲れてて、駐車場の脇に何軒も並んでいる店で、ソフトクリームを食べようという事になった。  バニラ、チョコ、いちご、抹茶、から始まり、レアチーズ、ぶどう、紫いも、わさび、ラムネ、など色んな味がある。  超迷う。どうしようかなと、密かに超考えてたら、 「樹、どれにするの?」  隣に居た蓮が、ぷ、と笑った。 「超迷ってるだろ」 「うん、チョコが良いんだけど、他のも気になって」 「つか、どれが気になんの、この中で。オレあんま気になんないんだけど」  蓮の言葉に、らしくてクスクス笑ってしまう。 「気になるのはレアチーズとか紫いもかなー。でも抹茶も捨てがたいし。うーん……」 「……あ、そ」  クスクス笑いながら、蓮もメニューを見てる。 「……でも、やっぱりチョコとバニラのmixにしようかな……」 「そういや、夜用にアイス買おうって言ってたな」 「……このソフトクリームと、夜のアイスは別がいいなー」 「あ、夜のも食べんのな。まーいいけど」  蓮は、可笑しそうに笑った。 「蓮はソフトクリーム食べないの?」 「樹の一口頂戴。それでいいや」 「うん。買ってくる」 「ん」  悩んでたら最後になってしまった。誰も並んでないのですぐ買い終えて、皆の所に戻ると。 「樹ー、はじっこ入って」  蓮がスマホを向けてたので、急いで列に入ると、ソフトクリームを持った皆の写真を撮ってくれた。「蓮も入る?」と聞いたら、大丈夫、と笑いながら、撮った写真を皆宛に送信してくれる。  色とりどりのソフトクリームを持った皆の写真。 「はは。楽しそ」  笑ってる蓮に、佐藤が「後で加瀬も一緒に撮ろ」と言ってる。 「ん、蓮、はい」  スプーンにチョコアイスをのせて、蓮に向けると。  ぱく、と蓮が食べる。 「美味しい?」 「……ん。 ……甘い」 「蓮、あまいもの食べる時の最初の感想、いつも美味しいじゃなくて、甘い、だよね……?」  クスクス笑うと、蓮もまた笑う。 「一番に出てくんのが、甘い、なんだよな」 「おいしいとは思ってるの?」 「んー、まあ…… まずい訳じゃないけど…… 甘いな」 「そうなんだ。でもいつも一口食べる気がするけど…… 何でわざわざ?」 「何で?…… んー……」 「うん?」  蓮が少し考えて。  待ってるオレを見て、くす、と笑う。  すぐ近くに誰もいないのを確認してから、蓮は、笑いながら、囁いた。 「……樹がどんなのを美味しいと思うか知りたいから、かも?」 「え」  マジマジ、見つめてしまう。 「そうなの???」 「……あんまり考えてなかったけど、何でって聞かれたら、そうだと思う」 「――――……」 「だってオレ、他の奴の食べてる甘いもん、食った事ないよ」 「――――……」  じっと見つめてた蓮から、ふ、と視線を外す。  何それ。それでいつも、一口だけ食べてるんだ。  ……蓮って。  …………なんかほんとに……。  ……………言ってくれる事、はずかしいな。    んー、と、返答に困りすぎて何も返せないまま、もう、照れ隠しでぱくぱく食べてると。横で蓮が、クスクス笑ってる。  少し離れた所から、森田がやってきて、オレを見下ろしてくる。 「……? なに、森田??」 「――――……なんか、離れて見てっと、お前らって、イチャついてるようにしか見えねーな」 「……え。なんで?」 「当然みたいに、あーん、もぐもぐ、みたいな?」 「……いつも蓮が一口だけ食べるから……」  しかも理由が超恥ずかしかったけど……。 「だからいつもそんな感じなんだろ? 食べた後も、なんかイチャついてるし」  クスクス笑われ、オレが黙ると。 「つーか、妬くなよ」  蓮がちら、と森田に視線を流して、笑う。 「……お前、なんか、ほんとに、開き直ったろ」 「さあ。何の事かよく分かんねえな……」  良く分からない会話をしてる2人を見上げていると。  蓮はなんか澄ました顔してて、森田はニヤニヤ笑ってる。 「なあ、そもそもなんでお前ら、中で会えた訳? オレら誰とも会えなかったぞ。女子は最終的にやぐらで集合したって言ってたけど」 「たまたまだよ。オレが樹を見つけた。な?」  蓮に問われて頷くと、森田は「お前って、樹見つける探知機でもついてんの?」と言いながら、やだやだ、と笑う。 「なーなー、皆」  アイスを食べ終わって、景色を眺めたり写真撮ったり、好きにしていた皆に、森田が声をかける。皆が丸く集まってきた。 「こっから昼飯いくけど、何がいい? 夜はまたバーベキューで肉だから…… 寿司とか行く?」 「お寿司いいね」 「お寿司賛成ー」  皆、即決だったみたいで。 「さっき来るとき通ったよな、寿司屋」 「通ったね」 「そこで良いか」  あっという間に行先が決まった。  駐車場に歩いてる間に、蓮に、「樹、隣乗る?」と聞かれた。 「あ、うん……と、ちょっと待って?」 「ん」 「佐藤ー、オレ、こっち乗っていい?」 「え゛っ! 樹そっち乗っちゃうの?」  佐藤が慌ててる。どうしようかなと思った瞬間。 「寿司屋まで近いから大丈夫だろ。オレの車について来いよ」  蓮が笑いながら突っ込んでいる。そのやり取りを見ていた森田が蓮の運転する車に近付いてきて。後部座席のドアに手をかけた。 「オレ、加瀬の車に乗るわ。女子と山田、佐藤の車乗ってやって」  有無を言わさない感じで森田が言って、後ろに乗り込む。  3人乗ってドアを閉めて、蓮がエンジンをかける。 「何でお前、こっち?」 「加瀬の運転がうまいのか確認しようと思って」 「何だよそれ」  蓮が苦笑いしながら、後ろの森田をちら、と見て。  それから、佐藤の準備ができたのを見計らって、車を発進させた。

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