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第45話「崇拝?」*樹
「寿司屋まで20分くらいだっけ」
森田が後ろから聞いてくる。
「うん、それくらいだった気がする、よね?」
「ん、そんなもん」
後ろを振り返りながら森田に応えて、蓮に視線を向けると頷いてくれた。
――――……蓮の運転する姿、絵になるなあ。
カッコいい。
「寿司の後、昨日のスーパー行って、買い出ししようぜ」
森田の言葉に、蓮が前を見たまま。
「ああ。行こうと思ってた」
と、答えてる。
「申し込みの時、適当に頼んじゃったけどさ、2日続けてバーベキューって、オレ、やった事ねーんだよなー。全く同じものだと飽きるかな?」
「買う肉とか、変えようぜ。あと、焼きそばはもうやらない。内容変えれば2日位いけるだろ」
「焼きそばじゃなくて 何すんの?」
「樹が お好み焼きがいいって言うから、それにしようかと思ってるけど。いい?」
「へえ。楽しみ」
「他に食べたいものあったら、考えといて」
「おう。……あとで、後ろの皆にも軽く聞くか」
なんて言いながら、森田が後ろの車を振り返ってる。
「……なあなあ、樹、佐藤見てみて」
「ん?」
言われて、後ろの車の運転席の佐藤に目を向ける。
「さっきまでより、緊張してるよな。樹が横じゃないと、超緊張すんのかな。 山田じゃだめみたいだな」
クスクス笑う森田に、苦笑い。
「こんな一般道なのにな。おもしれえ」
「オレ免許持ってないから分かんないけど……でも緊張するんじゃない?」
「あんなにはしないけど」
「森田は動じなそうだもんね。教習車でも偉そうに運転してそう」
クスクス笑ってそう言うと、「偉そうって……」と、森田が繰り返してて。蓮が隣で、はは、と笑ってる。
「……森田って、彼女と居る時もそんな感じ?」
「そんな感じって?」
きょとんとして聞かれて、オレは、んー、と考えて。
「……からかうの大好きで、いじめっ子みたいな……?」
「おいおい。 ……だからさー、オレ、超優しいっての」
「んーー??」
そうでしょうか?
じ、と見つめると、森田は苦笑い。
「いつか彼女に会わせるから、直接聞いて」
「え。会わせてくれるの?」
「大学連れてく」
「へえ。何で森田なのか聞いてみよーと。ちょっと楽しみ。ね、蓮」
「……ああ」
蓮がクスクス笑ってる。
「お前なあ……オレを何だと思ってんの」
「……うーん……なんだろう……」
「……いいよ、お前はもう、加瀬だけを崇拝してろ」
そんな森田の言葉に、一瞬否定しようとして。
「崇拝なんて、して――――……? してるかな?」
否定、しようとしたけれど。
途中で、止まって、言い換えたオレに、森田はがくっと崩れて見せる。
「倒れそうだわ、オレ。……つか、否定しねえ?普通」
「だって…… 蓮のご飯、ほんとにすっごい美味しいし。それだけでも崇拝できるかなと思って。まあ崇拝って言い方は少しあれだけど…… それに、いいとこ、ごはんだけじゃないし」
思うまま素直に答えてると、森田はしばしオレを眺め。
それから、はあ、とため息をつきながら。
前に乗り出して、蓮の近くに顔を出す。オレを指差しながら。
「……加瀬、これ、どう思う?」
「は? これとか言うな」
「突っ込むとこそっちかよ。もういいわ」
勢いつけて、後ろの座席に、どさっと戻っていく森田。
とりあえず、ほっとく事にして。
……崇拝って言ったらおかしいけど。
――――…… でも、あながち、大外れでもな位。。
蓮の事は好き。
「なー、樹―」
「ん?」
倒れてた森田が急に復活してきて、今度はオレの方に乗り出してくる。
「樹の元カノ、見てみたい。写真ないの?」
「……写真……?」
「スマホにないの?」
「あるかなあ…… あんまり写真撮らなかったんだよ。向こうは撮ってたけど……」
なんとなく、蓮の横で元カノの写真、探すのもなあ……。
と思って、何となく、スマホにすら触れずにいると。
「加瀬はその子の事、知ってんの?」
「ああ。知ってる。3年の時、オレ、同じクラスだった」
「樹と似合う?」
なんで蓮に、そんな質問するんだ。
そう思ってると。
少し考えて、蓮が。
「……んーー……ぱっと見派手な子で、なんか樹とはイメージが合わないから、聞いた時は意外だったけど……樹は可愛かったって言ってたよ」
そう言った。
「加瀬は、いつ聞いたの?」
「最近聞いた。その子と付き合ってたって」
「へえ。そーなんだ」
「森田、ちょっと待って、写真探してみるから」
蓮にあれこれ聞かれるよりはと、スマホを探し始めて、何とか1枚発見。
学園祭の時の写真だった。
「この子」
「へえ。綺麗な子。目立つ感じ」
「ん。そうだね」
「どれくらい付き合ってたんだっけ」
「1年半位……かなあ。 てもう、オレの事は良いよ。 もうずいぶん前の、彼女だし」
「ん。スマホありがと」
森田からスマホが返されて、受け取る。
「加瀬の彼女は? どんな子?」
「……んー何人か居たけど、あんま長く続かなかったし、写真とか撮ってない」
「ああ、そうなんだ?」
「うん」
「……なんか、加瀬はイメージ通りだわ。 すげーモテそうだもんな」
1人納得したようで、森田はそう言って頷いて。
そして、不意に。
「……そんで――――…… 今は、加瀬は樹の事が好きなの?」
「――――……」
蓮もオレも一瞬無言。
聞かれたのは蓮なので、オレは、答えられず。
というか、オレが聞かれていても、何も言葉が出なかったかもしれない。
……どういう意味の質問なのかな。
蓮は、何て、答えるんだろう。
そう思っていたら。
「――――……オレが樹を好きなんて、皆知ってるだろ」
信号で止まると同時に、蓮が森田を振り返って、そう言って。
ニヤ、と意味深に笑った。
その答えを受けて、森田は一瞬、呆気にとられ。
「……否定もしねーし、ぼろも出さねーし。……ほんと、つまんねぇな、お前」
森田は、ぷ、と笑い出して、しばらく笑ってた。
蓮はすぐ前を向いて、黙って運転を再開してしまうし。
オレは、何となく何も話せないままで。
ちょうどよく、寿司屋に着いてくれて良かったと思ってしまった。
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