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第57話「好きすぎる」*樹

 しばらくクスクス笑いながら。 「気持ちいいねー。汗、すごい出てく感じ……」  そう言うと、蓮がちょっとため息。 「今、汗とか言わないで」 「――――……もー、なんで……恥ずかしいからやめてー」  意識しちゃうし。  思いながら、隣の蓮を見つめると。蓮はオレをちらっと見た。 「……汗も他の奴には見せたくない」 「だから……」  恥ずかしいんだってば。もう……。  汗なんて言葉。 ごくごく普通の。何でもない言葉なのに。  …………なんか今は、良くない。 「……まあそれは冗談にしても……でも、大げさに言うと、それくらいってこと。……樹の乳首とか、見せんのは絶対、嫌」 「――――……っっ」  飛び出してきた単語に、一気にかあっと赤くなる、オレ。 「……っっ蓮ってば! いきなり恥ずかしい事言わないでよっ」 「……だって見せたくないだろ、ちく」 「わー、その単語恥ずかしいからやめて」 「……だって、体の名称じゃんか。他に何て言えば良いんだよ?」 「何て言えばって……なんて…………」 「胸??」  って言われても、もはや今となっては、何言われても全部恥ずかしい。 「もうそれ以上、何も言わないで」 「――――……可愛すぎるから、そんな真っ赤になるなよ」 「……誰のせい……っ」  顔に手を置いて、ただでさえサウナで熱いのに、もう、熱すぎて、ほんとに困るんだけど。と思っていたら。 「あーもう……樹」 「……っ」  蓮は、オレから視線は外したままで。  もう、これ以上何を言うのかと身構えていたら。 「こっから出たら、お風呂つかってね。 ちゃんと肩までつかれよ? で、終わったら、シャワー浴びて出て、速攻着替える事。分かった?」 「…………っっ」 「他の奴に、色々見せちゃダメだからな?」 「――――……っっ」  もう、蓮てば。 「蓮、ラッシュガード、7割くらい、本気……?」  恥ずかしいなあ、と思いながら、ジト目で蓮を見ると。  蓮は、ちら、とオレを見て。 「……だから本気だって」 「もー……蓮……」    苦笑いを浮かべた瞬間。  サウナの出入り口の扉が開いて、皆が入ってきた。   「うっわ、あつ。二人ともよくこんなとこ長居できるな」  山田がそんな風に言いながらオレの隣に座ると。 「もう限界だったから出るとこだったんだよ。いこ、樹」  蓮がそう言った。  本気なのか冗談なのか分からなかったけれど。見せたくない、と言っていた蓮の言葉を思い出して、皆に、じゃあねーと伝えながら、蓮に続いてサウナの外に出る。  蓮の後を歩きながら。ふと、考える。  よく考えたら、オレも蓮もさ。高校ん時は付き合ってて。そういうこと、全然初めてじゃないんだし。  なんかこんな言葉位で真っ赤になってる方が、ほんとはおかしいと思いはするんだけど。  そもそも、胸とか。乳首とか。別に。体の部分の名前だしさ。  別に。……恥ずかしがってるという事の方が、逆に恥ずかしいのかもしれないよね。 って、何でこんなに、恥ずかしいんだろう。ほんと困る。  蓮は、くる、と振り返って。オレの顔をじっと見て。 「蓮?」 「――――……外の露天、人居なそう。行く?」  言われて露天の方を見ると、確かに、ガラスの向こう、人は居ない。 「ん、いいよ」    外に出ると、ちょうど誰も居ない。  バーベキューが長くてお風呂が遅くなったせいか、今日空いてるみたい。 「いいね。すごい、星、見える……」  「――――……ん」  サウナ出たばかりで、お湯に入る気がしなくて、足だけ入れて縁に座る。  並んで上を見上げると。ほんとに空が綺麗で。 「……樹?」 「ん」 「……なんか――――……さっき言ってた事、さ」 「うん」 「……エロい事ばっか気にしてる中学生みたいだなと思って」 「――――……」 「……何言ってんだろ。ほんと」  苦笑いの蓮に、笑ってしまう。 「オレも……恥ずかしがり過ぎだなって、思ってた」  見つめ合って数秒。  「……好きすぎなんだよなー、オレ……」 「……オレもだと思う」  ぼそと呟いた蓮に、静かに呟き返すと。  同じタイミングで、ふ、と笑い合ってしまった。  

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