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「平和」*樹

 陶芸教室の駐車場につくと、皆で車から降りて辺りを見回した。  雰囲気のいい、樹々に囲まれた古民家みたいな建物。入口に、陶芸教室の名前が書かれた木製の看板。皆でわくわくしながら、中に入ると、その中は、天井が高くて、とっても広く感じた。 「こんにちはー」  声をかけると、中から受付の人が、「こんにちは」と笑顔で現れた。 「代表の方、こちらにどうぞ。受付お願いします」  山田と森田が、はいはいと歩いて行った。  その間、入り口付近に飾られている、色んな陶器を、皆それぞれ眺めてる。蓮がとなりにやってきて、「樹」と指差した。 「うん?」 「ここらへんの丼。どう?」  指さすのは、こじんまりした可愛いどんぶり。まるい感じで、綺麗な横線が入っていた。 「可愛い! ……けど、蓮、これで足りるの?」 「ん?」 「あんまりご飯、入らなそうだけど」 「――足りないか」 「とりあえず、この形のまま、おっきく作ればいいのかも?? あれなのかな、一人分の土の量とか決まってるのかな??」 「どうなんだろ?」 「もしそうなら、蓮は、二人分の土で、おっきいの作ったら?」 「でも樹とお揃いにしたいのに、オレだけバカでかいのも……やっぱり適度なので同じ位にしよ」  蓮とオレが笑いながら、そうだねえ、と考えていると、隣の佐藤がクスクス笑う。 「二人の会話って、ほとん夫婦みたいだな」 「さっきも言われた」  夫婦って。カップルとか恋人をすっとばして、夫婦。もう、内心は、ちょっとドキドキ。  まあ恋人とか言われても、うろたえるけど。 「だって、普通、陶芸するのに、友達同士でお揃いとかしないし」 「まあでも、んなこと言っても、オレらは一緒に暮らしてるからな」 「うん。そだね」  蓮が普通にそう答えてくれたので、オレもうんうん、と頷いた。 「二人で一緒に暮らすって、どんな感じなの」 「ん?」 「家事とか分けてるんだっけ? 加瀬だけが料理?」 「うん。オレらの同居の理由だからな。料理がオレ。掃除とか洗濯が樹。お互い得意っていうか好きなことがメインだよな」 「うん。でも掃除とか、蓮も、結局一緒にやってくれるから」 「樹も料理手伝えるようになってきてるしな」  二人で言い合ってると、佐藤は、ぷ、と吹き出した。 「平和そう。お前らの同居」 「ん。まあ……平和だよな?」  蓮がオレを見て、にっこり笑って聞いてくるので、オレも、うんうん頷く。 「そういえば、喧嘩とかしないって言ってたもんな、樹。一回も無いの?」 「うん、多分。 ……喧嘩、はないよね?」  言いながら蓮を見ると。 「無い。……ていうか、同居してから家で険悪になったことは無いよな」 「うん。無いね」  頷いてると、佐藤が、ほんとに気が合うんだろうな、と笑う。 「まあ。そうだよな」  ふ、と蓮に見つめられて微笑まれて――どきっとしながらも。  なんとか、平静を装って、「うん、まあ、そだね」と、オレも笑い返す。  どうなんだろう? 蓮じゃ無かったら、喧嘩とか、してるのかなあ? 普通どうなのか、分かんない。  仲良すぎって思われるんだろうか。と、ちょっぴり、へんなことが気になったりする。

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