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黒兎と飴色獅子(2/5)
結局、それは彼の手中に収まった。
「へぇ〜? ずいぶん使い込まれてんじゃねぇの? もしかしてこれ、結婚決まる前から作ってあったとか?」
張り型を興味深げに眺め回している彼の前で、私はどんな顔をすれば良いのか分からず、俯いていた。
もしかして、アリエッタ様も気付いていたのだろうか。
いや、たとえここまで気付いていなかったのだとしても、私と彼がこう親密にしていては、遅かれ早かれ聡明な彼女はそれに気付いてしまうのではないだろうか。
ノクスは居た堪れぬほどの羞恥に震える。
ああ、せめて、今はここに無いと告げて、その間に新しいものを用意すれば良かったのでは……?
しかし彼はなぜか、それがこの部屋にあると、確信を持っていたようだった。
思わずチラと様子を覗くと、ぱち。と目が合って、彼は片眉を上げた。
「お前、俺の嗅覚舐めてんじゃねぇの??」
言われてハッと息を呑む。
彼は兎よりもずっと鋭いその鼻で、この部屋にあるこの……。
「今は確かに姫さんの匂いもまざってるが、お前の匂いのがよっぽど強いぜ?」
そう言うと彼はクツクツと喉の奥で笑い出す。
私は呆然とするしかなかった。
彼は全て分かっていて、私が赤くなったり青くなったりしてるのを、楽しんでいたということなのか。
言葉を失い視線を彷徨わせる私の肩を、彼がぐいと抱き寄せる。
もう片方の手で、彼は張り型で私の身体をなぞるように、ゆっくり下から上へと動かして見せる。
「そうだよなぁ? あれだけ毎晩俺のを飲み込んでたお前は、同族のじゃもう、満足できねぇよなぁ?」
胃の辺りまで進められたそれは、お前の中に、ここまで入るのだと言われているようで。
耳元で囁かれる言葉に、私はそれを否定する術がない。
ククッと小さく彼が笑う。
「俺にも見せて見ろよ。お前がそれを突っ込むとこ」
「…………は?」
思いもよらない言葉に、私は思わずズレた眼鏡を押さえて聞き返す。
彼に、それを入れられてしまうかもしれないとは思っていた。
けれどまさか、自分で入れろと言われるなんて……。とそこまで思ってから、いや、彼なら十分あり得たか。と自分の考えの甘さを呪う。
彼はそんな私の声を聞いてもいない様子で、それを掲げて悪戯っぽく目を細めた。
「けど姫さんも残念だったな。俺よりアイツの方が、ちょい長いからな」
続いて聞こえた言葉も、また思いもよらないものだった。
「……そんな事まで、ご存知なんですか?」
自分の声は、驚くほど冷たかった。
「あ? 寝起きにたまたま目にしただけだぜ? お前らよりずーっと健全だろ? 俺はあいつとそんな練習したことねぇしな」
ケラケラと笑ってみせるその横顔に、数日前のシャヴィール様の言葉を思い出す。
「……彼はあなたに襲われたことがあるようでしたが?」
「ちょっとからかってやっただけだよ。掘られたとは言わなかったろ?」
それに近い事を口にしかけていたような気がしたが、確かに、未遂だったような話し振りではあった。
む。と知らず眉が寄る。
そんな私の額を、彼がそっと舐めた。
「何だ、妬いてんのか?」
「妬いてなど――……」
言いかけて、口をつぐむ。
そうなのだろう。このモヤモヤした気持ちが、きっとそうなのだ。
私がずっと、その名を知らずにいただけで、私はずっと、彼の行動の全てを妬んでいたのだ。
「……はい……」
私が小さく頷くと、隣で小さく息を呑む音がした。
当然からかいの声が返ってくるのだと思い込んでいた隣が、あまりに静かで、チラリと彼の表情を窺う。
彼は、薄暗い部屋で瞳孔の開いた黒目がちな瞳で、目をまん丸くして、真っ赤な顔で私を見ていた。
いつも余裕たっぷりな彼でも、時にはこんな顔をする事があるだと、私までもが驚きを浮かべかけて、そして気付く。
そんなに、私を愛してくれているのだと。
胸に溢れる感情に、私の手は自然と彼へと伸びた。
両腕で彼の大きな頭を抱え込み、彼の唇へと唇を重ねる。
「っ……」
彼が一瞬息を詰め、それから力強く抱き返してくる。
続けて舌先が私の唇を割り入ってくるのを、口を開いて受け入れた。
彼の幅広い舌は、すぐに私の口内をいっぱいに満たしてしまう。
「ん……ぅ……」
唾液が飲み込めず、溢れて顎へと伝う。
彼が舌を私の内でぬるりと動かすと、鍵の部分が、時折唇を鋭く掻いた。
「……っ」
痛みにびくりと肩を揺らした私に、彼は名残惜しげに唇を離して、睨むようにしながら言った。
「……俺が、怪我してて良かったな。そうじゃなきゃ、お前は今夜俺に抱き潰されてたぜ?」
言われて、私はじわりと目を伏せる。
そんな風に言われたところで、彼の痛ましいその肩を喜ぶ気にはなれなかった。
「なんだ? 残念だったのか??」
言って笑う彼を、じっと見上げる。
からかうような言葉とは裏腹に、金色に似た瞳を細めて私を見ている彼は、どこか優しい顔をしていた。
今までも、そうだったのだろうか。
もしかして、私がよく見ていなかっただけで、素直じゃない彼の言葉に騙されていただけで、彼はあの頃も、こんな瞳を向けてくれていたのだろうか。
しゅんと耳を垂らしたままに、小さく頷くと、彼は大きく動揺した。
「なっ……お前……っっ――」
彼の顔がまた赤くなるのをじっと見つめていると、何故か彼は顔を背けてしまった。
グルルと彼の喉が鳴る。
その音に、彼が私に欲情しているのだと分かった。
途端、後頭部に手を回されて、グイと彼の股間へ顔を押し付けられる。
下着すらも身につけていない彼のそれは、既に反り返るほどに立ち上がっていた。
相変わらず乱暴だ。して欲しいのなら、口で言えば良いのに。と思いつつも、彼はきっと、それが照れ臭いのだ。と理解する。
「お前、責任持って――」
彼が、照れ隠しにまた面倒なことを口にしようとしているのを察して、私は彼の物を両手で包むと、舌を伸ばした。
「……っ」
心の準備がまだだったのか、彼がビクリと小さく腰を浮かす。
それが何だかおかしくて、苦笑をこらえつつ、私はそれを大切に両手で撫で回した。
丁寧に、そこへ浮き上がる筋や血管、くびれの全てへ舌を這わせる。
彼の息が徐々に上がる様が、私の耳をくすぐった。
これを、全て包みたいと思う。
けれど、大きなこれは、果たして私の口内に収まるだろうか。
あまり無理をしてしまうと、鋭利な前歯が彼を傷付けてしまうかも知れない。
躊躇う私の肩を、彼がグイと押した。
「っ、もういい」
何か不愉快にさせただろうか、と彼の顔を見上げれば、そこには随分と余裕のない表情をした彼が居た。
「お前、乗れよ」
ぶっきらぼうな言葉が、けれど私を求めている。
彼はゴロリとベッドに仰向けた。
……そこは私のベッドなのだけれど……。
と、思いはしたが、仕方ない。
寝る前にもう一度ベッドメイキングをする覚悟をして、私は下衣をおろすと、彼へと跨った。
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