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第6話◇カラオケ
部活が休みの、日曜日。
カラオケに行こうということになった。 バスケ部も居るし、オレと雅己それぞれのクラスメートも居て。誰かが呼んだ女子も居て。なんだかんだで、十人以上集まった。大部屋に皆で入り、飲み物や食べ物を頼んで、昼食代わりに食べながら、好きに歌い、踊ったり、大騒ぎ。
知らなかった雅己のクラスメートとも仲良くなった。
一度部屋を抜けて、トイレで用を済ませて手を洗っていたら、雅己が入ってきた。
「あ、啓介。お前歌うまいな~?」
そんな事を言いながら、雅己はトイレを済ませに奥に入ってく。
少しして戻ってきて、雅己も手を洗いながら、鏡越しに、オレを見てくる。
「雅己も、うまいやん」
「んー? オレは普通。――――……お前はなんか、卑怯」
「……卑怯?」
歌の評価としてはおかしなコメントやな。
思った瞬間。くる、と振り返って、雅己が笑う。
「うますぎ。美和がうっとりしてた」
「美和?」
「あー、今日オレの右隣にいた子。分かる?」
「あぁ、分かる」
ずっと隣で、楽しそうだと、思っていた。
「雅己、あの子が好きなん?」
「え?あー……ううん」
「違うん?」
「まあ一緒にいるの楽しいけど……好きまでは、ないかなぁ」
「そーなん?」
「他にも可愛いなって思う子は居るけど、誰かが特別ってとこまではまだ……」
「付き合いたいとか、ないん?」
「んーー……大好きな彼女、とかは欲しいけど……」
「けど?」
「……オレもまだ分かんないし、相手もあることじゃん。そう簡単にいかないし……って、お前は良いよな、簡単にいきそうで」
「そぉか?」
「お前迫れば、うまくいきそう。いいよな」
ふ、と笑って、雅己が言ってくる。
「……そうでもないと思うんやけど」
「そう??」
「……ほんまに好きな奴とは、なかなかうまくいかないもんやし」
「……居んの?」
「ん?」
じ、と雅己が見つめてくる。
「ほんまに好きな奴。てのが、居るみたいな言い方」
「――――……」
「何? 彼氏がいる奴とかだったりするの?」
首を傾げながら、雅己がオレを見上げる。
「お前でもうまくいかないこと、あんの?」
「――――……そら、あるやろ」
「へー。そうなんだ……」
くす、と笑って。雅己は、ぱしぱしと背中を叩いてきた。
「頑張れよなー」
………頑張る、ねぇ……。
トイレから、出て、部屋に戻ろうとする雅己。
その腕を、咄嗟に掴んだ。
「……ん?」
振り返って、見上げてくる雅己。
「……ちょお、音に酔うた」
「え、何それ」
可笑しそうに笑って。
「じゃあ、そこの非常階段で風、浴びる?」
頷くと、雅己は笑いながら、ちょっと待ってて、と言って、部屋のドアを開けて。
「啓介とオレ、しばらく抜けるー」
返事も聞いてないんじゃないかという感じで、言うだけ言って、ドアを閉めて、戻ってきた。
「いこ」
腕を掴まれて、引かれる。
重い扉を開けて、非常階段に出ると、風が吹き抜けていった。
「ここ、気持ちいいな」
2人で並んで座る。
「……なに、音に酔ったって。うるさいの嫌い?」
「……いや。すこし、疲れただけなんかも」
「ふーん。まあいいけど。 よくなるまで、ここで話してよ」
「……ありがとな」
でもって……ごめんな。ほんまは音になんか酔うてない。
――――……なんや、お前と2人んなって話したかったから。
「うん。いーよ」
にっこり笑う雅己。
……ほんま――――………なんでオレ、こんなお前と居たいかなあ。
こいつの事が、めっちゃ、好きなんやけど。
……何でやろか。
この気持ちが何なのかはよく分からないけれど。
どんどん好きになる気がする。
隣で楽しそうに笑ってる雅己に返事をしながら。
そんな風に思っていた。
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