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第7話◇お泊り

 来週月曜から、中間テスト。  なので、今週から土日まで、部活停止。  部活がないのでもう帰ろうと思っていたら、雅己がオレのクラスにやってきて、もう帰って空いていたオレの前の席に座り込んだ。 「……雅己?どした?」 「……なー啓介、数学と理科得意て言ってたよな?」 「ん? あー……まあ……てか、オレ、苦手なのないけど」  勉強、困ったことないし。  言ったら、きっと、雅己に睨まれた。 「何なのオマエ、頭まで良いって、どーいうことだよ!」  ……結構な誉め言葉のような気がする。  苦笑いをしながら、睨む視線を受け止めると。 「……今日明日、放課後一緒に勉強してくんない?」  そんな風に、言ってくる。 「あー…… 実はな、雅己」 「……?」 「金と土なんやけど、 うちの両親、大阪で法事やねん。日曜に帰ってくんの」 「……ふーん?」 「ほんまはオレも行くとこなんやけど、中間テストの前日やから、オレだけ残る事になったんや」 「……うん、それで?」 「泊り、くる?」  そう聞いたら。  え、という顔をして。それから、いいの?とめちゃくちゃ笑顔になった。 「ええよ」 「おとまり会かー、なんかすげえ楽しそう。 他のやつも呼ぶ?」 「――――……呼ばん。人数増えると遊ぶやろ」  せっかく、お前と2人になれんのに。  よく分からない心の声は、絶対に漏らさない。 「えー、ずっと2人きり?」 「嫌なら来なくてええよ。1人で勉強せーや」  クラスの奴らはもう皆早々に帰って行って、教室には2人きり。  立ち上がって、帰ろうとする動作を見せたら、雅己が、わー!と騒ぎながら、オレの腕を掴んだ。 「嫌なんて言ってないし!」  触れられた手にどき、として。  それを隠しながら、もう一度、席に座る。 「んじゃ、明日明後日は、泊るん?」 「うん。母さんに聞くけど……啓介が頭良いから教えてもらうっていったら、絶対オッケイだと思う」 「ほしたら、聞いてからまた連絡してや」 「分かった」 「じゃ、今日は図書館でも行って、勉強する?」  言うと、ぱあっと笑顔。 「ありがと、けーすけ」  やったー、と喜んでる。  それに笑いながら、移動するかと、オレは立ち上がった。   「でもさー?」  まだ座ってた雅己が、ふ、と笑った。 「2人きりでってさー」 「?」 「2人きりで丸2日って。……オレに何する気だよ?」  下から、じっと見つめてきて――――……。  オレが動揺した瞬間に、その動揺には気づきもしないで、雅己が、あはっと笑い出して。立ち上がって、するりと、オレの横を通り過ぎた。 「図書館いこー」  楽しそうに言いながら、雅己が歩いていく。  ――――……大きく波打った心臓がなかなか戻らなくて。  は、と息を吐いてから、雅己の後に、続いた。 月日が流れて? +++++  腕の中ですやすや眠ってる雅己を見つめながら。  そんなやりとりを、急に、思い出した。  ……そーいや。そんな事もあったな。  ほんま。  昔から、無意識に煽って。  めいっぱい煽るくせに、こっちが煽られてる事に、これっぽっちも気づかずスルーして……。  ……雅己、やっぱアホやな。うん。  せやけどそういうんが、ほんま可愛ぇと思うてたからあ……。    起きたら、「何する気?」とか言うてたの、覚えとるんか、聞いてみよ。  めっちゃ恥ずかしがりそうやなー……。     ……なんて思っていたら。1人で、ふ、と笑ってしまった。

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