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第383話

「浜崎さん」 「え?は?つ、翼さんっ、な、な、な…」 声をかければ、浜崎は、ワタワタと慌てて、周りをキョロキョロ見回す。 「お久しぶりです。この前はごめんなさい。謹慎、解けたんですね」 「いやっ、あれは、おれが悪いんでっ。その、はい、なんとか」 ひぇぇ、という声が聞こえてきそうなほど、浜崎がテンパっているのに笑ってしまいそうだ。 「そんなきょどらないで下さい。でもよかった。じゃぁまた護衛も…」 「あー、それは、まだ当分…」 「え。外されたままなんですか?」 俺としては、やっぱり慣れた浜崎がいいのに。 「はい。当分は緊張状態っすから。失態をおかしたおれが、付かせてもらうわけにはいかないっす」 すみません、と頭を下げる浜崎の周りに、ふと数人の男たちが歩いてきた。 「おぅおぅ、浜崎。いいのかー?こんなところで翼さんを独り占めして」 「え?」 「会長がさっきから、見てないようで、ずっとこっちを見てるぞ」 ツンツンと、浜崎を肘でつつくこの人たちは、蒼羽会の構成員さんか。 「う。それは…」 「まぁでもおまえは翼さん付きだったからいいのかー」 会長も見てるだけだし、と揶揄うように言う男たちが、チラッと俺を見た。 「え?」 「なぁ浜崎、俺らも紹介してくれよ」 こそっと浜崎に耳打ちする声は、俺にもしっかり聞こえていた。 「この機会に、俺らも翼さんに覚えてもらいたいっていうか。ぜひお見知りおきいただきたいなーって」 ニッと笑う男の名前を、俺は確かに知らない。 「えっと…」 「松原です。よろしくお願いします」 「あ、はい、よろしくお願いします」 「あっ、松原さんっ、抜け駆けズルイですよ!」 松原と名乗った男に続いて、俺も、俺も、と、男たちが我先にと名乗ってくる。 「なんか、いきなり人気者になったみたいです」 アイドルみたい、と笑ってしまいながら浜崎に呟いたら、浜崎が困ったように苦笑した。 「なんかすみません」 「えっ?なんで浜崎さんが謝るんです」 「あ、いや、代表してっていうか。みんな、翼さんに取り入りたくて必死っすから」 「え?」 なんだそれ。 コテンと首が傾く。 「翼さんに覚えてもらって、気に入ってもらえたら、会長に口利きしてもらえるチャンスがあるかな?とか、やっぱり期待するんすよ。みんな、会長に取り立ててもらいたくて必死っすから」 「っ、下心…?」 浜崎の説明に、じく、と胸の奥が疼いた。 「あーっ、浜崎。だからおまえはまたそうやって」 俺を独り占めしている、と小突かれている浜崎に、複雑な気分になる。 「俺には火宮さんの人事に関して、なんの権限もないんだけどなぁ」 確かに浜崎は1度、お願いして側においてもらった経緯はあるけれど。 毎回そのお願いが通るとは限らないし、最終的に決定するのは火宮の独断だ。 しかもその『お願い』には、かなり大きな見返りの支払いがある。 「俺に媚びても、本当、何の得もないですよ」 あはは、と笑う俺にも、構成員さんたちは、必死で自己アピールしていた。

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