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第423話※

「ふっ、うぅっ、んっ…」 サァーッとシンクの水道で、目立つ汚れだけを水で流しながら、俺はモジモジと足を擦り合わせていた。 調理台に縋っていなければ、今にも膝から崩れ落ちてしまいそうだ。 「ククッ、それでは服がびしょ濡れだぞ」 「っ、ンッ…そう、思うならっ、後ろの、止めて…」 「クッ、エプロンをすればいいだろう?」 買ってやったはずだ、と笑う火宮の目が意地悪だ。 「あぁ、それとも久々に裸エプロンをさせるのもいいな」 「なっ、嫌ですよっ!」 あぁもうこの人は…。 浜崎さんとか池田さんたちに聞かせてやりたい。この変態発言。 あなたたちが信奉するボス様は、頭おかしいですよ、って。 「クックックッ、そんな俺を好きなおまえも、十分お仲間だ」 「っ、え?俺言って…」 「ブツブツ口に出ているぞ」 「っ…」 やば。 快感を堪えるあまり、他のことが完全に疎かだ。 「ほら、その変態な俺が、痺れを切らす前に、さっさと食洗機をセットした方が身のためだぞ」 ククッと笑って、くにゃんと折り曲げた鞭をチラリと舐める。 「っーー!っ、でも、そこは否定しないんですね」 自ら変態とか。てっきりまた言い掛かりをつけてお仕置きネタにされると思ったのに。 「ふっ、おまえ限定だ」 「っ…」 「俺の頭がおかしくなるのはおまえにだけだし、そのおまえにはどんな俺を見られても構わない」 「なっ…」 「そう信用を置かせてくれるほどに、俺はおまえの愛を信じているぞ」 っーー! なにこの人。 突然そういうの、ずるい。 『だって愛しているから』 裏を返せばそう聞こえる、史上最強の殺し文句だ。 「あっ、はっ、んっ、ンッ…」 やばい、やばい、やばい。 ズクンと腰にキて、きゅんと胸とナカが震えて、後ろのローターをしっかり締め付けてしまった。 「っ、や…」 だめだ、もう立っていられない。 かろうじて、持っていた鍋を落として割る前にそっと手放したのが精一杯で。 ゴトンとシンクに転がった鍋を確認する間もなく、ズルズルと崩れ落ちていく膝が、キッチンの床につく。 「なんだ、もうギブアップか?」 火照る身体を悶えさせ、完勃ちした前をぎゅぅ、と押さえた俺に、火宮のすでに意地悪な色になってしまった声が落ちた。 「っ、だって…。もっ、無理。許して…」 「ククッ、そのままイけばいい」 イくなとは言っていないぞ?と愉しげに揺れる火宮の声が憎らしい。 「っ、やだ。嫌ですっ…」 確かに微弱な刺激とはいえ、前立腺にばっちり当てられている上に、気分が高まっちゃったんだから、もうイこうと思えばイけるけど。 「ひ、とりで…こんなので、イくのは、嫌…」 我慢しすぎてガクガクと震えてきた身体を抱きしめながら、俺はチラリと火宮を見上げて泣き言を吐いた。 「ククッ、ならばおねだりすればいい」 「っ…」 あぁ、そうか。それをしなかったためにこんな目に遭っているんだっけ。 結局こうなる。結局そこに持っていくとか、どれだけ計算高いんだ。 あぁやっぱり火宮には敵わない。 「っ、ひ、みや、さん…」 悔しいなぁ。 それなのにその、愉悦に弧を描いた瞳。 嬉しそうなその顔が、やっぱり好きで、やっぱり格好いいとか思っちゃうんだもんな。 「後ろ、の、取って…。火宮さんので、お尻っ…いっぱい突いて」 恥ずかしい。 そんなのとっくに分かってる。 ノロノロとお尻に手を当て、涙が滲んだ目で必死に火宮を見上げる。 「じんー」 最後は思いの外、甘えて蕩けた舌ったらずの声が漏れた。 「クッ、おまえ」 ギラリ、と火宮の目に、欲情の光が宿ったのが見えて、ぶわっとむせ返るような色香が火宮から吹き付けた。 「っ、刃?」 ぐいっと腕を取られて、引きずり立たされ、何故か上半身を調理台に預けさせられる。 「えっ…」 まさか、ここで? 途端に感じた嫌な予感に、ぶるりと身体が震えた。 「嘘っ。ちょっ、火宮さっ…」 ワタワタと暴れ始めた身体を、軽々と押さえつけられ、ズボンをずるりと下ろされたら、一瞬感じた恐ろしい予感は、もう確信で。 「ククッ、しっかり手をついていろよ」 「っーー!」 わざわざ耳元で囁いて、蕾からローターを引きずり出した火宮に、俺は声なき悲鳴を上げて仰け反った。

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