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第429話

「ふふ、そうと決まったら、ほら、お昼にしよう?」 伸びちゃう、と笑う紫藤が、ペリペリとカップ麺の蓋を開ける。 「あ、うん。そうだね」 今日も今日とて、朝、送りの際に渡されたなんちゃらという、有名人気店の仕出し弁当を広げ始めながら、俺はやっぱり隣の豊峰の浜崎弁当が羨ましくて眺めてしまう。 「物欲しそうに見てもやんねぇぞ」 「う。別に取るつもりじゃないけど」 「おんなじの、どっかで浜崎さんも食ってんじゃねぇ?」 そんなに欲しけりゃ、そっちから奪い取れ、って…。 「あっ、そうか。用務員」 それで、弁当持参で、ついでに豊峰の分も作ったというわけなのか。 「っ!なら、後1個増えるくらいいいのにー!」 くそぉ、火宮さんめ。 どうしようもない嫉妬発動で、またこんな無駄遣いするんだもんな。 「ぷふ、相変わらず溺愛されてることで」 「んもう、すぐそうやってからかって。本当に真鍋さんに言いつけるぞー」 「げ。それは勘弁」 激しく顔を歪める豊峰は、本当によっぽど昨日の家庭教師が懲り懲りらしい。 「藍たち、今日も家庭教師?」 「うん。俺、休んでいた分、全然補充が足りてないからね」 授業内容は分かったけれど、期末テスト対策を考えるとまだ足りない。 「翼がやるなら必然的に俺も連れて行かれる…」 「そっか」 ズーッと麺を啜りながら、紫藤がチラリと俺を見た。 「な、なに」 「ううん。ただ、医学部じゃぁ、上位を狙うわけだよな、と思ってね」 「まぁね…。期末こそは、1位、もらうから」 また真鍋たちに文句をつけられるのはごめんだし。 「ふふ、テストに関してはライバルだね」 「そうだねー」 すごく手強いライバルだ。 「くそぉ、俺もおまえらのその会話に、いつか参戦してやるからな」 「クスクス、とりあえず、今回の目標は?」 「今回?そうだなぁ、全教科、平均点は取る…とか?」 「ぬるいなー」 クスクスと笑う紫藤の目が、スゥッと意地悪く細められる。 「ッ。万年圏外の俺にしちゃ、頑張る方…」 「甘い。学年30位以内。これでどう?」 にこりと笑う紫藤のその感じ。なんだか笑顔なのにやたらと威圧感があるな。 「はぁっ?30位?冗談。学年50位にも入ったことがない俺が」 「でもそれくらいしなきゃ、あのお父さんを説得なんてできやしないよ?」 「う…。それはそうだけど」 紫藤の言葉にタジタジになりながら、豊峰が美味しそうな卵焼きに箸を突き刺している。 「ふふ、大丈夫だよ。真鍋さんについていけば、きっと目標まで学力引き上げてくれるよ」 「やり手なんだね」 「その分、死ぬほどスパルタだけどな」 げっそりとしながら、卵焼きをパクンと口にした豊峰の顔が輝く。 「んまっ」 「いいなー」 「じゃぁさ、ついでに、賭けない?」 クスッと笑って、紫藤が1人、突然の提案をしてきた。 「賭け?」 「うん。そう。目標を達成できなかったらペナルティ」 「なんだよそれ」 にこりと笑う紫藤が黒い。 けれども豊峰は弁当に夢中で、その妖しい表情に気づいていないみたいだ。 「藍は学年30位以内。出来なかったらオシオキ」 「はぁ?何言って…」 「僕と火宮くんは1位?」 「え、ちょっと待って、それじゃぁ必ずどちらか1人はペナルティを受けることになっちゃうじゃない」 同点1位の確率はすごく低いだろう。 「ま、お互い満点なら問題ないけど」 「はぁっ?取る気?」 この腹黒優等生、豊峰じゃないけれど、本当、何を考えているのかわからないな。 「へぇ?おまえら1位争い?いいね。それなら俺もやってもいいぜ」 ニヤッ、なんて、ノッてきた豊峰も何を考えているのか。 「翼。1位取って、和泉負かせ」 ニヤニヤと楽しげな視線を紫藤に向ける豊峰は、とんでもない賭けの内容に気づいているのだろうか。 「ふふ、いいんだね?藍」 「30位だろ?取ってやろうじゃねぇの」 なんなのこの2人。 互いにやけに挑戦的で、互いにやたら勝つ気満々なんだけど。 「ちょっ、俺は…」 「1人だけ逃げようったって、そうはいかねぇからな、翼」 「ふふ、勝てる自信がないの?」 っ…。なんなの、この2人。 「ふん、やればいいんでしょ、やれば」 あぁ、負けず嫌いの俺の性格。 ちゃちな挑発で、なんでこんな賭けに頷いた。 口にしてから、しまった、と思っても、もう後の祭り。 にこり、にやり、と笑った2人が「健闘を」なんて祈り合っている中に、俺まで参戦する羽目になっていた。

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