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第431話

真鍋から受け取ったテストを、そっと見下ろす。 ひたすらに赤丸がついているのが見えるそれの、得点欄。 「よっし!満点」 「はぁっ?まんて…っ、おまえアホか!」 俺の呟きに、ひょいっとテストを覗き込んできた豊峰が、クラリとしたように一歩足を引いた。 「いや、アホって…」 「アホだろ。こんなクソ難しいテストで満点とか」 信じらんねぇ、と頭を振っている豊峰のテストは、それでも丸がついているのがかなり見える。 「そういう藍くんも、そこそこ取れているじゃない」 その『クソ難しい』テストで、半分取れれば、本番は7割、いや8割はいくんじゃないだろうか。 30位以内は夢じゃない。 「そこそこったって、半分近くは間違えてる」 「ラストスパートでそこを強化すればいいんだよ。そのための確認テスト」 ですよね?と真鍋に向けた目に、鬼家庭教師様の顔が、ゆっくりと上下した。 「その通りです。お2人とも、かなり定着はしたと思いますが…豊峰の若は、少し複雑になった言い回しや文章問題、国語も数学もその辺りが弱いな」 「う、そうです」 「翼さんは、上の2枚はいいでしょう。ですが最後の1枚」 国語、数学の満点をどかして、英語のテストを見下ろした手が震える。 「8割…」 「あなたは少し捻った問題になると途端に引っかかりますね」 「げ。あ、これ、ひっかけか…まんまとハマった」 「直前の文章に気を取られすぎなのです。もっと前の…この部分に注目してから読解なさって…」 さっそく間違えた箇所の解説をしてくれる真鍋に、ふんふんと頷きながら、俺はこの感じなら1位もあり得るかもしれないと、自信が湧き上がってくるのを感じていた。 「では、お疲れ様でした。明日は理社の確認テストをいたしますので」 そのつもりで復習を、と言い残し、真鍋が帰って行った。 今日は疲れた、という豊峰も、今日は真鍋に続いてすぐに、教科書類をまとめて下におりて行った。 「ふぅ。確かに疲れたなー」 1人になったリビングで、俺は大きく伸びをしながら、そのままバタンとソファに倒れた。 LEDの明るい室内灯が眩しくて目を閉じる。 『俺は俺のために、俺の人生を生きるんだ』 力強く紡がれた、豊峰の声が耳に蘇る。 「真理、だよね」 いつか俺も、火宮にそう誓った。 『刃っ!俺は、俺の人生を、精一杯生きさせてもらいます』 幸せになれ、と命じてくれた火宮に対して。俺は俺の将来を決めた。 「藍くん、頑張れ。がんばれ…」 俺は医者に必ずなる。 だから豊峰も、必ず必ず自分の人生を掴んで欲しい。 呪文のように繰り返し呟きながら、俺はいつの間にか、そのままスゥッと眠りに落ちていたらしかった。 次にハッと目が覚めたときには、火宮の美貌が目の前にあって。 「どうした?翼。こんなところで寝ていると、風邪を引くぞ」 「っーー!」 試験前だろう?と笑った唇が、寝起きで無抵抗の俺のそれに重なった。 「ククッ、だから、目くらい閉じろ、ガキ」 あぁなんて懐かしい。 出会ったその日に言われたその台詞。 「火宮さん…」 始まりのあの日。 そこから辿り着いた今。 「火宮さん、もっと…」 軽いキスでは物足りない。 もっと深く、もっと舌も絡めて、俺を貪りつくして欲しい。 自らゆらりと両手を持ち上げ、火宮の首の後ろに回して美貌を引き寄せる。 「ククッ、どうした。真鍋にしごかれて疲れているのではないのか」 「んッ…」 「クッ、今回のテスト、1位を取るつもりだそうだな」 あぁもう聞いているのか。 キスの合間にしゃべる火宮の言葉に、コクンと頷く。 「しかもなにやら、友人と賭けをしているとか?」 「っ!ぷはっ、え?」 ちょっ…豊峰か。 「負けたらペナルティ、だそうだな?一体何をさせられるか知らないが…」 ニヤリ、と弧を描いた口元が、キスの余韻で艶めかしくつやめいているのが色っぽい。 「俺以外の男から、間違っても罰など受けるなよ?」 それがゲームでも、大した内容ではなくても。 「翼に仕置きをするのは、俺だけの特権だ」 「っ、相変わらず、どんだけの独占欲ですか」 「クックックッ、どれだけ、か。教えてやろうか?」 っ! やばい、これ。 スコップどころか、掘削用ドリルも真っ青な勢いで、墓穴を掘り下げたやつだ。 「っーー!失言!知ってますっ。あなたの独占欲の強さは、嫌というほど、よくっ…」 だから今更改めて教えてくれなくていいーっ! ダラダラと冷や汗を流しながら、ブンブンと首を振って後ずさった俺に、火宮の美貌が迫ってくる。 「ふっ、そう遠慮するな。今夜はたっぷりじっくりと、その辺りを教え直してやる」 身体にな、と言外に聞こえた、そのサディスティックな笑み。 「ひぃぃ…」 「ククッ、嬉しいだろう?なにせおまえのここは、今のキスだけでもう…」 期待に頭をもたげている、と囁かれながら、むにむにと揉まれた中心に、カァッと頬っぺたが熱くなった。

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