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第432話

* 「はぁっ…テスト2日前に抱き潰すとか、本当どS」 翌朝、出勤前の火宮が、コーヒー片手にリビングのソファの前を横切ったところで、俺は盛大に愚痴ってやっていた。 「ククッ、途中からおまえだって、もっともっとと強請って足を絡ませて、俺を離さなかったじゃないか」 どっちのせいだ、と笑いながら、火宮が首に引っかけていたネクタイをキュッと締めている。 「っ、だってそれは…」 ペラリと英単語カードをめくりながら、俺はムーッと尖らせた口を火宮に向けた。 「ふっ、まぁうっかり煽られた俺も悪かったか」 「それって遠回しに煽った俺が悪いって言ってますよね?」 「ククッ、賢いじゃないか」 「んもー!意地悪ー」 ま、結果、どっちもどっちってことだろうけどね。 「で?登校はできそうなのか?」 「意地でも行きますよー」 テスト前日に欠席なんて、とんでもない。 「夕方は真鍋の家庭教師か」 「はい。最後の詰めまできっちり見てもらいます」 「そうか。明日からテストだったな」 「はい」 1学期最後の定期テスト。 今回こそは1位を取ってやる。 「ふっ、もし1位を取れたら、褒美に夏休みにどこかへ連れて行ってやる」 「えっ?本当ですか!」 やったー!デートだ。 「だがもしも、1位を逃して、例の賭けで罰ゲームとやらを受けたときは…」 「っ…」 だから、そうやって途中で言葉を途切れさせて、ニヤリと笑うだけなの、ずるい。 その先をあれこれと想像して、勝手に怖くなるんだからっ。 「ククッ、翼?」 「んべぇーだ!絶対に負けませんよ。1位、取ってやりますから。夏休みの予定、空けておいて下さいね」 にっ、と笑って、挑戦的に火宮を見つめたら、「頑張れ」と笑って頭をくしゃりと撫でられた。

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