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第442話

「おはよー」 「はよ、翼。2日ぶり」 ウケケ、と悪戯っぽく笑いながら迎えてくれた豊峰に、俺はげっそりとした目を向けた。 「聞いたの?」 「おーぅ。浜崎さんがな。んで?昨日欠席するほどボロボロになって、欲しい結果は手に入ったのか?」 ぷぷっ、と目を細めた豊峰は、そういえば浜崎たちと暮らしているんだった。 昨日部屋まで届け物に来た浜崎は、俺が前夜に火宮に抱き潰され、ダラダラとソファに突っ伏して、燻り続けていたのを見ている。 「だからって、そういうプライベートな情報を漏らすのってどうかと思うよね」 「俺が聞いたんだよ。一昨日は元気だったのに、なんで欠席したのか気になって」 「そう…。ま、おかげさまで。夏休み、みんなでバカンスだから!」 いぇーい、とVサインを向けて見せたら、豊峰が「だろうな」と呟きながらへにゃりと笑った。 「で?いつ、どこへ行くんだ?」 「えっとね、詳しいことはまた真鍋さんが教えてくれるみたいだけど、とりあえず、海辺の別荘に連れて行ってくれるみたい」 「別荘…」 「バーベキューも海水浴も花火もぜーんぶできるんだって!」 ウキウキと弾んだ声を上げた俺を、豊峰は苦笑しながら見ていた。 『本当、あの会長サン、翼に甘過ぎ』 「ん?」 「いや…よかったな」 「うん。楽しみだねー」 ホクホクと幸せな気分になりながら、俺は鞄を自分の机に置いて、ストンと椅子に座った。 「あぁ、楽しみにしとく。でもその前に」 「決めた、の…?」 「おぅ、まぁな。今度の土曜日。ウチに…豊峰の家に行こうと思う」 スッ、とポケットから、1枚の紙を取り出した豊峰から、俺はそっとそれを受け取った。 「わぁ、24位!本当に目標達成だね」 「おぅ。昨日、おまえが休んでるときに配られてさ」 「そっか」 「まだたった1回のことで、これがどこまで武器になるかは分かんねぇけど…切り札の1つくらいにはなんだろ」 俺の手から成績個票を取り返した豊峰が、大事そうにそれを見下ろした。 「うん」 「だから、とにかく、ぶつかってきてみる。今度は…今度は負けねぇよ。俺は俺の気持ちを、ちゃんと親父に伝えて来ようと思う」 「うん。分かった」 ぎゅっと引き結ばれた豊峰の唇は、強気に緩く弧を描いていた。 「俺も行く」 「えっ?」 「行っていいかな?あっ、別に何も邪魔しないし、口出しとかもしないから。後ろでそっと見てるだけ。ただ見守りたいだけだから…」 迷惑かなぁ?と首を傾げた俺に、豊峰がハッと笑い声を上げた。 「会長サンがいいって言やぁいいんじゃね?」 「そっか。うん」 多分火宮は駄目とは言わない。 土曜日は、決戦。と、心の中で呟いたところに、ちょうどチャイムの音が鳴り響いた。

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