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第463話

視界は閉ざされ、口は塞がれ、身体の自由を奪われた状態で、俺は、残された聴覚をフル動員させていた。 身体に伝わる振動から、車はどこかへ向かって走っているのが分かる。 研ぎ澄ませ。覚えろ。考えろ。 もしもこの先、火宮と連絡が取れる手段やチャンスがやって来て、その時に俺が出来ることといえば。 ほんのわずかでも、居場所の特定になる手掛かりを伝えることだ。 研ぎ澄ませ。 車が走り出してから、何分経った? いくつの角を曲がった。 信号には何度止まったか。 覚えろ、考えろ。 必ず火宮は動いてくれるから。 俺を助けに来てくれるから。 後ろ手に拘束されたままの手を、ぎゅぅ、と握り締めて、俺は必死で、気を緩めれば叫び暴れてしまいそうな恐怖に堪えていた。 「クスクス。さすがは火宮会長の本命?よく取り乱さずに我慢してるね。しかも、必死で情報収集に勤しんでいるって気配。伊達にあの人のパートナーをしているわけじゃない、か」 っ…。 不意に掛かった楽しげな声と、サラリ、と髪を撫でられた感触に、ゾワッと身体が震えた。 「んんっ…」 触ら、ないで…。 本当は今にもみっともなく恐怖で叫んでしまいそうなんだから。 火宮の名を連呼して、助けを求めたくてたまらないんだから。 小刻みに震えてしまった身体を、隣に座っている人の気配に笑われた。 「でも、甘い。きみは所詮、元カタギの子供。クスクス、火宮会長は、何を好き好んでこんな子供を手元に置いているんだろうね」 あぁ可笑しい、と笑う隣の人は、同業者? 火宮を『会長』と呼び、俺を元カタギと言う。呼び捨てないところを見ると、同等か格下の相手…。 「ふふ、でも馬鹿ではないみたいね。視覚と手の自由を奪ったくらいじゃぬるいかな。仕方がない。少しの間、眠ってもらおう。おやすみだよ、火宮翼くん」 ねっとりと絡みつくような吐息が耳に触れた。 同時にチクリと腕に小さな痛みが走る。 「んーっ…」 あ、やばい。 頭がグラグラする。眠い…。 ジーンと痺れるようになった思考回路と、ふにゃりと力が抜けていく全身を感じたところで、俺の意識は完全に闇に沈んだ。 * 次に目が覚めたときには、車の振動が消え、フカフカとしたマットレスの感触が身体の下にあった。 「っ…」 ごそり、と身動いだ俺は、ゆるゆると瞼を持ち上げて…。 「クスクス、ようやくお目覚めかい?」 にこりと爽やかに笑う、華やかななイケメンに顔を覗き込まれていた。 「っ、目…」 見える、ってことは、アイマスクが外されているということで。 「口も…」 ガムテープが取られて発言が許されている。 「ッ、あなたは誰ですか?ここはどこ。どうして俺を攫ったんですか?これからどうす…」 矢継ぎ早にまくし立てた俺に、イケメンが、クスクスと楽しそうに笑った。 「まぁ落ち着いて。とりあえず、きみに危害を加えるつもりも、無体な真似をするつもりもないから」 「これのどこがっ…」 そもそもあれほどド派手な拉致の仕方をしておいて。 しかも手はさすがに後ろ手から前に変わってはいるものの、しっかり拘束してくれたままで。 さらには足首にまで金属の輪っかが増えていて、そこから鎖がジャラジャラと伸びている。 その先はきっと、ベッドの脚に繋がれているんだろう。 ズルズルと引いてみれば、一定の長さを引き寄せたところでビンッと抵抗を感じた。 「しかもっ、服…」 スースーする下半身に、なにも纏っていないことが分かる。俺は全裸に制服のシャツ1枚を羽織らされただけの状態で、ベッドの上に置かれていた。 「あぁ、下を脱がしちゃったのは、ごめんね?でも別に、セクシャルな意味じゃない。ただの逃走防止」 「っ…そんなの、信じられ…」 「うん、まぁ、きみがおれの意向に逆らっちゃったり、反抗的なことをしちゃったりすると、もしかしたらお仕置きしちゃうかもね?」 っ…。 スルリとシャツの裾に手を入れられ、お尻をサワサワと撫でられる。 「やめっ…触、るな」 ゾワッと立ってしまった鳥肌に、イケメンが楽しそうに瞳を緩めた。

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