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第477話※

差し出した両手に、カチャン、と金属の輪っかが嵌められ、俺は深い諦めのもと、静かに目を閉じた。 あぁ、きっと霧生がしたことをそのままそっくりなぞられる。 両手を拘束されての、バイブに鞭に…と覚悟を決めたところに、ククッと火宮の笑う気配がした。 「っ…」 「これから何をされるか、分かってます、という態度だな」 潔いことで、と笑った火宮が、スルリとお尻を撫でてきた。 「っ!だ、って…」 塗り替える、って言われたし。それは上書きするって意味なんでしょ? 独占欲も嫉妬心も、並みじゃない火宮のことをよく知っている。 「ククッ、それは、苦痛にも耐える覚悟があるということか」 「そ、れは…」 嫌だけど、火宮がお仕置きって言うんだったら仕方がない。 「ふっ、確かに、俺以外の男に好きだなどと、たまには仕置きに痛みを与えてやるのもいいかもしれないが…」 「っ…」 「おまえにはやはり、こっちだろう?」 ぱさり、とお尻に触れたのは、鞭…? だと思うのに、なんだかいつも火宮が扱う1本のそれとは違う感触で。 「こんな、苦痛なだけの打ち方をされて…。こんな鞭跡など、綺麗さっぱり塗り替えて消してやる」 「っあ!」 パシッ、と振るわれた鞭が、お尻の上で弾けた。 「ククッ、いい音が鳴る」 「っあんっ!ひゃっ!」 パチン、と上がった派手な音に、ビクリと身体が揺れた、けど。 あれ…? 「んあぁっ。ふぁっ?」 派手な音の割に、苦痛をそこまで感じない。 それどころか、じわりとむず痒く湧いた、この感じは…。 「な、に、これ…」 気持ち良さに近い感覚にギクリとして、俺は恐る恐る後ろを振り返った。 「っ?!」 「ククッ、バラ鞭だ。打ち方1つで、いくらでも快感を引き出せる」 「っな…」 柄の部分は1つで、そこに数本の革紐が束ねられているような、先がばらばらといくつにも分かれた鞭を振って、火宮が口角を上げる。 「テクさえあればな」と言外に聞こえたその言葉に、クラクラと目眩がした。 「な、んのテクニックですかっ…」 このどS。鞭を好きなように操れる技術とか。バカなの? 「ククッ、気持ちがいいようにだけ打ってやる」 「っな…」 薬も使わずに、そんな真似…。 「ふっ、せいぜい快楽に身悶えて啼くがいい」 パチン、とまた1つ、鞭が肌に当てられた。 「っあん…」 じわりと湧いた気持ちよさを、俺は首を振って振り払い、必死で、感じるものかと歯を食いしばった。

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