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第491話
結局、あれこれと食料や飲み物を抱えて帰ってきた車内には、夏原が元通りに収まっていた。
「夏原さん、却下されちゃったんですか?」
「うん。能貴の冷たーい一言でね」
あっぱれ、と笑っている夏原は、本当、真鍋にどんなに冷たくされても相変わらずめげないようで。
「そうですか」
「まぁ、分からなくもないけれどね。会長と能貴が1台に固まっているとよくないことくらい、俺でもわかるからね」
「へっ?」
そうなの?
きょとんと隣の火宮を見たら、苦笑しながらポンと頭を撫でてきた。
「万が一、うちの壊滅を狙って、襲撃したいと思う輩がいた場合、分散しているより狙いがつけやすくなる」
「あー…」
「最高幹部とナンバー2、同時に潰せる状態なのはよろしくないね」
「そっか…」
なるほど。
だから火宮と真鍋の車は別々で、しかも間に1台、荷物と護衛が乗った車を挟んでいるのか。
「まぁこんなところを襲う馬鹿もいるまいが」
「あー、組対さん?見張っていますもんね」
「夏原か」
言ったな?と、助手席を睨む火宮に、夏原が苦笑していた。
「まぁそのうちやつらも飽きる」
「えぇ。本当にただのバカンスだと分かれば諦めるでしょうしね」
ほっとけ、放っておこう、と2人が笑う。
「それより、会長。紫藤和泉」
「やつらが気づいていたか?」
「え?いえ。あぁ、そういえば警察のお偉いさんのご子息でしたっけ」
「そっちの話じゃないのか」
そういえば紫藤は、警察側である家の人を誤魔化してこの旅行に参加してきたんだっけ。
蒼羽会をつけ狙う組対の人たちから話が伝わっちゃったらまずいんじゃないだろうか。
ぼんやりと考えた俺の横で、火宮と夏原はニヤニヤしながら全然違う話を始めた。
「違いますよ。くすくす、彼は使えるな、と」
「ふっ、あれは、こちら側、だろう?」
にこり、ニヤリと笑い合う夏原と火宮の含み笑いが黒い。
「彼にはあの子…豊峰藍を充てがうおつもりですね?」
「ククッ、あのサツの息子は、もとよりそのつもりで参加して来ているだろう」
え?え…?
火宮と夏原の会話。それって。
それって…。
思わず隣と助手席を交互に見てしまう。
「ククッ、あれが豊峰の小僧狙いだということなんて、一目でわかる」
「っ!」
あぁ、やっぱり。俺も常々、ことあるごとに紫藤から感じ取っていたけれど、火宮たちが見てもそうなのか。
「俺と能貴のためにも、そこはさっさとくっついちゃって欲しいものです」
邪魔なんだよねー、と前方の車を睨む夏原に、火宮がクックッと喉を鳴らした。
けれど…。
「え?それってどういう…」
「クッ、夏原が感じたなら、やはりそうか」
「火宮さん?」
「そうですよ。どう見たって豊峰藍くん、能貴のお気に入りでしょう?」
「えーっ!」
ちょっと待って。それはさすがに初耳なんだけど。
「ククッ、あの真鍋が、いくら俺の意向だとはいえ、豊峰の家庭教師を引き受け、しかもやる気のない時点でも見捨てることなく、説教までして付き合い、父親との対面にまでついていったんだからな」
「そういえば」
「しかもうちで引き取ると言ったとき、あいつは文句の1つも言わなかった。真鍋にしたら随分と目を掛け、気に掛けていると思うぞ、俺は」
「あー、言われてみれば」
確かに。
あの真鍋さんなら、自分の未来は勝手にに自分で切り開きなさいとかなんとか言って、わざわざ興味のない人間に手を貸してやろうとなんてしないよなぁ。
だけど。
「まぁ、恋愛感情かと言ったら答えはノーだが」
「それにしたって、まったく厄介な子供を能貴の前にぶら下げて下さって…。うっかり能貴が豊峰藍くんに落ちちゃったらどうするんですか」
「ククッ、豊峰の方に、その気はないだろう」
「分かりませんよ?だって能貴の好み、ドンピシャでしょう?あの子…」
苦痛に泣いて、それでも真鍋を慕ってついていき、いずれそれを快感に染め変えられていく…って。
怖ッ。
「ククッ、ならばせいぜい豊峰に持っていかれないように、サツの息子でも上手く使って、おまえは真鍋をじっくりと攻略すればいいだろう?」
ニヤリと楽しげな火宮は、本当、人が悪い。
「他人事だと思って。そうですよね。会長は、火宮翼くんと2人きりになれさえすれば、それで…」
「夏原」
ピシリと夏原の言葉を遮った火宮に、助手席の夏原の肩がピクリと震えた。
「っと、失礼しました」
「っえ!え?まさかそれって…」
俺だって馬鹿じゃないよ。
「ハァッ。夏原、覚えておけよ」
「う…」
「火宮さんっ!まさか、せっかくみんなで来たのに、何か企んで、結局みんなを排除しちゃうつもりじゃ…」
豊峰と紫藤をくっつけて、真鍋には夏原。護衛の人たちはもともといても居ないようなものだし…。
「夏原」
ズシンとドスの効いた声で夏原を呼んだ火宮の態度が、答えのようなものだった。
「っ!やですからね!俺はみんなとワイワイ海水浴をして、バーベキューもして、花火だってトランプ大会だってするんですからっ」
「………」
「藍くんにバラして、俺はぜーったいに藍くんから離れませんから」
多分、豊峰は味方だ。
「チッ」
「申し訳ありません、会長。この責任は必ず」
ふんだっ。取らせてたまるか。
俺は、んべー、と盛大にあかんべーをして、火宮と夏原を順番に睨みつけた。
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