493 / 719

第493話

そんなこんなの道中の末、俺たちを乗せた車は、目的地らしい別荘とやらにたどり着いた。 スッ、スッ、と並んで止まった車から、それぞれみんなが降りてくる。 「うわ。でけぇ…」 「これは…さすがだね」 目の前にドーンと佇む、大きな一戸建てに、豊峰の口がポカンと開き、紫藤の目が微かに見開かれていた。 「うわぁ、高級リゾートって感じ」 「ククッ、敷地内にプールもテニスコートもあるぞ」 好きに楽しめ、と笑う火宮は、本当、さすがの火宮様だ。 「あぁぁ、能貴、数時間ぶりー」 「………」 向こうでは、早速夏原が真鍋に絡みに行って、華麗に躱されているし。 「ふふ、なんだか楽しくなりそうです」 「そうだな」 にこりと笑って、ポンポンと火宮が頭を撫でてくれたら、なんだか遠くの方から「ひっ!」と短く息を飲む声が聞こえてきた。 「………?」 「ククッ、ほら翼。中に入るぞ」 スッとエスコートされ、別荘内に足を踏み入れる。 「う、っわぁ!」 すごい。 完全に高級リゾートだ。 テレビとかで見る、芸能人の別宅、みたいな。 「クッ、ほら、俺たちの部屋は向こうだ」 来てみろ、と誘われて、思わずふらりとついていくけれど…。 「ん?俺たち?」 「当たり前だろう?なんだ、おまえは、まさかみんなで雑魚寝などと思っていたわけではあるまい」 「え、や?」 ちょっと思っていたとか、この顔をした火宮には言えない。 ニヤリ、と口角を上げて、ここぞとばかりに攻める気満々に見つめられたら、嘘でも出任せでも、ひたすらに否定するしかない。 「クッ、みんなそれぞれ、真鍋が適当に部屋を割り当てている」 「そ、そうですよねっ。当たり前ですよね」 じゃぁ夜集まってゲーム大会とか、枕投げとかは、さすがにナシかぁ。 「ちなみに他のお部屋は?」 「豊峰は紫藤とツインルーム。真鍋は単独だろう。まぁ夏原も単独だが、どうせ転がり込もうとして、真鍋に簀巻きにでもされて、廊下に放り出されるんじゃないか?」 うわー、本当になりそうで怖いな、それ。 あまりに想像がつきすぎて、苦笑も浮かぶ。 「護衛たちは適当に2、3部屋に分かれて泊まるだろう」 「へぇ。……って、え!」 ちょっと待って。何気なく聞いていたけど、この別荘には、一体いくつの部屋があるというのか。 「メインの寝室、サブの寝室、ゲストルーム、後はバストイレがない部屋がいくつかあったか?」 「いやもうそれ、ホテルですよね…」 それが個人の持ち物って、どんだけだ。 「ククッ、まぁ気になるのなら、後で見て回れ」 「はい」 「今はとりあえず、部屋に行くぞ」 「はい…。あ、そう言えば荷物…」 うっかり火宮に連れられて、手ぶらでここまで来ちゃったけれど。 「そんなもの、部下たちがちゃんと運び込む」 「あー」 もうそれ、完全にホテルだ。 「ん?」 「いえ…」 ここで意見したところで、どうせ無駄だ。 相変わらず、どこのセレブだ、と思うような、ヤクザのトップ様には、慣れるしかない。 半ば諦めと共に、火宮に連れられて、俺たちが泊まるというメインの寝室に向かった俺は…。 「っ!」 もう驚くまい、と思うのに。目の前に広がる室内の光景は、思わず息を飲むようなもので。 「やばい!オーシャンビュー!何このだだっ広いデッキテラス!」 バタバタと駆け寄った窓からの絶景に、色々なことが頭から吹き飛んだ。

ともだちにシェアしよう!