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第511話
朝食を済ませた後は、少し食休みをして、さっそく海へ行くことに決めた。
豊峰は、「ダルい、寝る」と言って、部屋に戻ってしまったし、紫藤は「じゃぁ僕も」と、豊峰についていってしまった。
真鍋はどこまでも真面目くさって仕事だと言い、「能貴が泳がないんなら俺も行かなーい」と、夏原までもが戦線離脱してしまった。
おかげでこの火宮の所有地だというプライベートビーチを独り占めだ。
「贅沢ー」
サラサラの砂浜にパタパタと走り出し、キラキラと眩しい海面に目を細める。
火宮ははじめから泳ぐ気がないらしく、普段よりはラフだとはいえ、かっちりとシャツとチノパンを纏った姿で、パラソルの下にいた。
「ククッ、思う存分遊べ」
ゆったりとチェアの上で足を組み、サングラスを軽くずらして火宮が笑う。
胸元のボタンも2つ3つ開いていて、そのあまりにイケメンな姿にドキリとする。
「格好いい…。もう、ずるいっ」
浜辺で洋服なんて、浮いてもいいはずなのに。
妙にはまるんだもんな。
しかも傍らでは、部下さんたちがパタパタと団扇で火宮を煽っていたり、トロピカルなカクテルを運んでいたりしている。
「セレブ感ハンパない…」
まぁそれは俺の勝手なイメージだけど。
「クッ、なんだ。欲しいのか?」
「へっ?」
「おい。翼にトロピカルジュース」
「はっ、ただいま」
ニヤリと笑う火宮に頷いて、部下さんの1人がパッと踵を返して駆けていった。
「えっ?や、俺は別に…」
飲み物を欲しそうに見ていたつもりはないんだけどね。
「ククッ、まずはとりあえず飲み物でも飲んでから、ゆっくりと遊べばいい。時間はたっぷりある」
「はい、でも」
「ん?どうした。あぁ、泳ぐのに浮き輪が欲しいか?それともボディーボードでもやるのか」
なんでも用意させるぞ、と言う火宮だけど。
「本当に、みんなは来ないんですかね」
「なんだ。俺と2人では不満か」
ふっ、と鼻を鳴らして面白くなさそうに火宮が笑う。
「いえ。不満ってわけじゃ…。ただ、みんなとワイワイ、ビーチバレーとか。スイカ割りとか!そういうのもしたかったな、って」
「ふぅん」
「あ、や、でもほらっ、こーんな広い海と砂浜を独占できるのも、それはそれで嬉しいですけど」
パッと顔を上げてワタワタと言った俺に、火宮が少しだけ何かを考えるような仕草をした後、フイッと周りに顎をしゃくった。
「ビーチバレーがやりたければ、こいつらとやればいい」
「え…」
火宮に示された護衛兼小間使いの部下さんたちが、ギョッとした後、恭しく頭を下げる。
「スイカ割りなら…俺が付き合うか」
「え!」
まさかの火宮様がスイカ割り?
衝撃発言に驚いたのは、決して俺だけではなかったらしく、傍らで部下さんたちが、さらに目を見開いてギョッと固まっている。
「真鍋に言って、スイカを持って来い」
「はっ。は、え?あの…」
「クッ、真鍋のことだ。翼が言い出しそうなことは、ちゃんと予測して、用意があるに決まっている。聞いて来い」
スイカ割り道具一式が揃っているはずだ、となんの疑いもなく言う火宮に、部下が転がる勢いで別荘の方に駆けて行った。
「真鍋さんって、どこまですごいの…」
「ククッ、出来る男だろう?」
「んっ…」
それが『右腕』で『部下』なあなたは、もっともっとデキる男ということになる。
「ククッ」
惚れ直したか、と悪戯っぽく語るその目に、俺は、悔しいけれど、しっかりとその格好良さを再確認していた。
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