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第520話※
「っ、あ…俺が自分でって…」
こんな立ちバックの状態で、どうやってそんなこと。
困惑したまま後ろの火宮を振り返ったら、ニヤリと悪い笑みが返された。
「ククッ、考えてやってみろ」
上に乗れるように体勢を変えてくれるつもりはないらしい。
ということは…。
「嘘だ…。無理っ!」
つまりは火宮のものを支え、後ろにお尻を突き出していくとしか考えつかずに、俺はサァッと血の気を引かせた。
「無理かどうかはやってみないと分からないだろう?」
「分かるっ。無理です。火宮さぁん」
ウルッと目を潤ませて、甘えるように火宮に媚びた。
「ククッ、こんなときばかり甘えてかかって」
「だって…」
「ならば甘えついでに、もっと上手にお強請りしてみろ」
ん?と目を眇める火宮の、サディスティックな表情なこと。
「っ、おねだりって…」
それはそれで同じくらい恥ずかしいんだけど。
「俺はどちらでも構わないぞ」
自ら挿れるか、挿れてと媚び願うか。
どちらもどちらな選択肢に、俺は悩みに悩む。
悩んで、悩んで、結局俺が選んだのは…。
「っ、刃…。お、願い…」
「なんだ」
「っ…い、挿れて、下さ…。俺の、ここに、あなたの…」
クイッと片手で尻たぶを開き、後ろに蕾を見せつけるように突き出して、顔から火が出そうなほど恥ずかしい台詞を述べる。
「刃…」
なのに火宮は、クックッと笑って、更にとんでもないことを言い出した。
「どこに?何を?」
「っーー!」
そんなのっ。分かっているくせに!
こんなに恥ずかしい思いをして、その場所を見せているのに。
「翼?言わなきゃ分からないぞ」
それは、言わなければ動かない、と言っているのと同義語で。
「っ、バカ火宮…」
ついついボソッと苦情が漏れた。
「ん?翼、何か言ったか?」
ゾクリとするような、意地悪な響きを持った火宮の声だった。
その意味は、とぼけているけどバッチリと俺の暴言は聞こえていたということだ。
「っ、ぁ、ごめ、なさっ…」
「ククッ」
パァンッ!
「ひぁっ!」
「これで許してやる」
後ろに突き出した尻を派手に叩かれて、俺は飛び上がって仰け反った。
「っ、ぅぅ…」
「で?」
あぁ、それでも誤魔化されないわけね…。
望みの台詞を聞くまでは、決して引く気はないらしい。そんな火宮に、俺は諦め気分がふらりと湧いてくるのを感じた。
「っ、俺の…」
ぎゅっと壁についた片手の指に力が入る。
「俺の、っ」
呻くように絞り出した声が、情け無く震えた。
「翼?」
「っ、俺、の」
ぎゅぅ、と目を瞑り、俺は覚悟を決めて、スゥッと息を吸い込んだ。
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