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第529話
「ッ、だぁぁぁっ!クソッ。またファウルかよーっ」
スカーンと見事にどの玉にも手球が当たらず、ノーヒットをかました豊峰が、キューを放り出して頭を抱えた。
「ククッ、ファウルポイントをいただきだ」
「あぁぁぁ」
ファウルするとペナルティとして最低4点、ファウルの種類によっては、5点、6点、7点と、相手チームに加算されてしまう、というのは、始めにルール説明で聞いた。
だけどいざゲームを始めてみると、これがなかなか手痛い。
「ど、ドンマイ!」
ヘラッと笑って豊峰をフォローする俺も、実はさっき、大人チームに点数を貢いでしまったばかりだ。
「あららら。藍はノーヒット…火宮くんはインオフしてくれたしね…」
先程、物の見事に手球をポケットに入れてしまった俺を、ぶり返して責めてくれる紫藤は、1人チームの得点を上げてくれているだけに、文句も言えない。
「ククッ、真鍋。次で決めろ」
「かしこまりました」
大人チームにショット権が移り、スッとキューを構えた真鍋が、それはそれは鮮やかに、狙いの球をポケットに沈めた。
「っ、しかもブレイク…」
2打目、3打目と、次々にミスなく真鍋が狙いの球をポットしていく。
そうして4打目。カツン、と地味な音を立てたショットがようやく外れ、なんとかショット権がこっちのチームにやってきた。
けれど。
「紫藤くん?」
何故かキューを持ったまま、紫藤が黙り込んで動かない。
「どうしたの?紫藤くんの番だよ」
ジッと台の上を見つめたまま止まってしまった紫藤に首を傾げたら、何故か横からクックッと笑う火宮の声が割り込んだ。
「さて、どうだ?」
「はぁっ。残念ですが」
ふっとキューを下げた紫藤が、チラリと俺に視線を向けてきた。
「え?」
「コンシード」
お手上げ、と両手を開いて上げた紫藤に、ギクリと身体が強張る。
「なんでっ…」
そんな降参するみたいなポーズ。それに、その言葉の意味はわからないけど、それって多分、「降参」って意味なんだよね?
まだ球は残ってる!と台の上に視線を向けた俺に、紫藤は薄く目を細めて、ゆっくりと左右に首を振った。
「残念ながら、このフレームは僕たちの負け」
「な、んで…」
問いながらも、俺は、台の上に残っている球と、互いのチームの現時点での得点を見比べて、その答えには思い至っていた。
「うん。今から僕がたとえノーミスで全ての球をポットしたとしても、あっちのチームの得点には及ばない」
つまりはこの時点で、ゲームを続けなくても、俺たちのチームの負けが確定したというわけだ。
「っ、真鍋さん、わざと…」
さっきわざわざここでこちらのチームにショット権を移したのは、無駄にその先真鍋がショットし続けなくても、こちらの投降でゲームを終われるからか。
「ふっ、まだ1フレーム目ですからね。高校生の体力に比べたら…。こちらは温存しても損はありません」
年ですから、と微笑む真鍋は、まっすぐ意地悪く夏原を見つめている。
「ちょっ、能貴?それ、俺に向かって言ってる?」
「いえ?誰もあなたが最年長だから、とは…」
「言ってるよな?言ってるよ、能貴」
あぁブレない、そこがいい、とほざいている夏原に、真鍋の冷酷な視線が向く。
「ふっ、何はともあれ、1フレームいただきました」
にこりと微笑みながら、夏原から逸れた視線がこちらに向く。
「え、スルー?冷たいそこもたまらない。ねぇ、能貴…」
「さて、2フレーム目を始めましょうか?」
邪魔です、とキューの後ろでタンッと夏原の肩を叩いた真鍋が、さっさと散らばった球を始めの状態に並べ直していく。
「クックックッ、翼?どうだ?」
ぎゃぁぎゃぁと、いつもの言い合いを始めながらも、楽しそうに球を配置し始めた2人の横で、火宮が呆然と固まってしまった俺に笑いかける。
「っ…ま、まだ1フレーム目です。次は勝ちますからっ」
勝負はまだ分からない!
ギッと火宮を睨みつけて、俺は今のフレームの敗北から気分を切り替える。
「ククッ、まぁ、せいぜい足掻くといい。真鍋は温存などと言ったが、どうせあと2フレームで勝負はつく」
「っ!ストレート勝ち宣言…?ふんっだ、絶対に、その通りになんか、なるものですかっ!」
負けるものか、と闘志をますます燃やした俺を、火宮がクックッと可笑しそうに見てきていた。
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