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第541話
「ふぅ。よかった。欲しかった本が見つかって」
浜崎を連れて、デパートを訪れた俺は、本屋で目当ての参考書を見つけて、ホクホクで次のお店に向かっていた。
すでに雑貨屋で、ノートと赤鉛筆を入手した紙袋を、浜崎が持ってくれている。
「翼さん、そちらのお荷物もお持ちするっす」
貸してください、と差し出される手に、俺は申し訳なく思いながらも、今買ったばかりの参考書が入った袋を手渡す。
「いつもすみません」
「いえ、仕事っすから」
ニカッと笑って快く荷物持ちをしてくれる浜崎には、本当に申し訳ない。
けれど、俺が荷物を持ってもらうのを断ったら、浜崎さんが後で真鍋さんに怒られちゃうんだから仕方がない。
「護衛なんだから、手が空いていたほうがいいと思うのにね?」
「はは、まぁ、滅多に危険などありませんから。翼さんにお荷物を持たせるほうが問題なんす」
「俺の買い物なのに」
「まぁ、護衛兼荷物持ちっすから」
慣れろと笑う浜崎に頷いて、テクテクと歩いていた俺は、ふと尿意を感じて浜崎を振り返った。
「あ、ちょっとごめんなさい。トイレに寄ってもいいですか?」
「了解っす」
ちょうどトイレの案内表示が見えて、クルリと行先を変える。
見えてきたトイレに入ろうとしたら、ふと浜崎に止められた。
「すんません、ちょっとだけお待ちください」
「ん?」
きょとんとなる俺の前に、浜崎が出る。
なんだろう、と思いながら入り口で浜崎を待っていたら、スタスタと中に入っていった浜崎が、すぐに出てきた。
「誰もいなかったっす。どうぞ。おれはここで待っていますんで」
「え?あぁ、はい」
あぁ、待ち伏せとか、潜んでいる賊さんとかのチェックか、と納得する。
けれど、不意に行先を決めたトイレの中に、どうやったって先回りできるはずがないんだけど、とも思う。
「ま、仕事なんだよね」
それでうっかり俺がなにかのトラブルに巻き込まれたら、それこそ大変な目に遭うのは浜崎だ。
気を張ってばかりで大変だな…。
俺の外出一つで色々な苦労をさせてしまうことを申し訳なく思いながらも、俺は浜崎が護衛に立ってくれているトイレの中に素早く入り、なるべく早く用を足した。
「お待たせしました…って、え?どうしました?」
急いで用を済ませて出てきた俺は、入り口に立っていた浜崎の側に、もう1人、男の人がいるのを見つけた。
「あぁ、翼さんー」
へにゃりと情けない顔をして、眉毛を下げた浜崎に、首を傾げる。
「あの?」
「いや、ね?ここで翼さんが出てくるのを待ってたら、その、この人が…」
この人、と言って浜崎が示したのは、側に立っていたもう1人の男の人で。
黒髪、黒目で、火宮を見慣れている俺から見ても、顔立ちがとてもとても綺麗な人で、パッと見は日本人なのだけれど。
「何言ってるかわかんなくて困ってるんす」
助けてくださいー、と泣き言を漏らす浜崎に話しかけている男の人の口からは、とても流暢な英語が流れていた。
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