「ふぅ、買った、買った」 夕食の食材から、おやつ用のスナック菓子、残り少なくなっていた調味料などを買い込み、俺は満足して駐車場に向かっていた。 「浜崎さん、重くないですか？」 ずしりと重量感のある買い物袋が申し訳ない。 「いえ？大丈夫っすよ？それより、翼さん」 「なんですか？」 「この、いかにも酒のつまみっぽい高級チーズにナッツ…。もしかして」 ワクワクと、目を輝かせた浜崎が、俺が買い込んだ食料を覗き込んで期待している。 「あー？はい。火宮さんがときどき食べているんですけどね。多分、火宮さんが好きなんだろうなって思うおつまみです」 「カァッ、やっぱりそうっすか！ひやぁ、会長はこういうつまみが好みなんすね」 メモメモ、と全力で脳内メモに火宮御用達のつまみの銘柄が書き込まれているみたいだ。 急激にテンションが上がった浜崎は、相変わらず火宮を盲信中らしい。 「こんな情報も嬉しいんですか？」 「当たり前っす！あぁぁ、このつまみを、一体どんな酒に合わせるんすか？きっと高級そうなグラスが似合って、服装は？やぱり風呂上がりにバスローブ姿っすか？自宅で晩酌する会長…やばい、想像だけで、グハッ…」 だ、大丈夫だろうか、この人…。 「あの、浜崎さん？」 「絶対格好いいっすよね！」 ビシリ、と断言して期待に目を輝かせる浜崎に、ここで否定などはとてもできない。 「ま、まぁ、格好いいかな？なんなら今度、写メでも撮りましょうか？」 「写…ッ、いやいやいや、そりゃ、欲しいっすけど。さすがに無理っす。駄目っす」 ブンブンと恐ろしそうに首を振る浜崎が謎だ。 「え？どうしてです」 「いや、仮にも暴力団の幹部っすよ？写真とか、容姿バレするようなものは、やっぱりマズいっすよー」 ましてやプライベートな写真なんて、と顔を引きつらせる浜崎だけど、そういうものなのか。 「うっかり流通しようものなら…指を詰めるだけじゃ済まないっすよ…」 「指って…」 何怖いこと言うの。 「あ、や、すんませんっ。今のは聞かなかったことに…っ」 「あ、うん、はい…」 「おれは、ほらっ、正式には、構成員じゃないっすから、制裁とか言っても指は…じゃなくって、あぁぁ、その、あの」 「お、落ち着いてください？」 別にこれは、俺が浜崎が口を滑らせたことを言わなければ、火宮には伝わらない話だから。 「そ、そうっすよね。えっと、あの、あ、そうだ、翼さんって、英語ペラペラだったんすねー」 「うぁはい？」 いきなり、急カーブどころか、直角真上くらいな激しい方向転換が来たな…。 びっくりして出してしまった変な声が恥ずかしい。 「やっぱさすがは会長がお選びになったイロっすよねー」 「まぁ、真鍋さんに嫌ってほどしごかれていますけどね」 「うわぁ、真鍋幹部っすか。厳しいお人っすよね…」 ははは、と乾いた笑いを漏らす浜崎には、実感がこもっている。 「それにしてもさっきの人。綺麗な男だったっすよね。初め、日本人かと思ってたんすけど、中国人だったんですか？」 「そうみたいです。中国から来たって言ってましたよ」 「ほっぇ、本当に聞き取れるんすね、あんなの」 「まぁ、そんなに難しい英語でもなかったですし」 「観光かなんかっすかね？」 「んー？そこまでは俺も」 でもスーツの男の人と合流していたっぽいし、ビジネスかもしれない。 「ま、もう会うこともないでしょうし」 「そうっすね」 ニカッと笑った浜崎が、ガサッと買い物袋を持ち直したところで、ちょうど駐車場で待っていてくれた車の元にたどり着いた。