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第545話※
*
「っ、ごめんなさいっ…俺が悪かったですっ…だからもっ、こんなのっ…」
パシャッ。カシャッ。
「ひぃっ、あうぅ、許して。もう、許してくださっ…」
嬌声交じりの懇願が漏れてしまう中、カシャカシャと、スマホのシャッターが切られる音が響いていた。
「あっ、あっ、こんなのっ…」
ふわっと太ももをくすぐる尻尾が嫌だ。
ナカを圧迫する、フサフサの尻尾付きのバイブが苦しい。
全裸で四つん這い、そんなものを咥えこんだ姿を撮影されていると思うだけで、もうたまらなかった。
「ククッ、可愛い翼のキツネ姿だぞ?」
見てみるか?とスマホの画面を向けられても、そんなものを見たいわけがない。
「こちらの角度からも撮っておくか」
ニヤリ、と愉し気に目を細めて笑う火宮に、クラクラと眩暈がした。
「あっ、あっ、あっ…」
せっかく腕を揮った鶏肉料理だったのに、俺にはその味なんてさっぱりわからなくて。
美味かったぞ、なんてせっかく褒めてくれた火宮の嬉しい言葉も、耳を素通りさせた。
その後すぐに寝室に連れ込まれ、全裸に剥かれて今はこの状態。
ちょっとした失言がこんなことになるなんて、俺は聞いてない。
うっかり呟いてしまった自分の言葉を、俺はひたすら呪う羽目になっていた。
「ほら、もっと可愛い姿を見せてみろ」
「あぁっ、いやぁ…」
ぐりっとナカのいいところに当てられた玩具が、キュゥッと蕾の収縮を呼び覚ます。
「うぁぁっ、はぁんっ…」
パタパタと滴った先走りの雫が、シーツの上をはしたなく汚した。
「ククッ、よし。いい写真が撮れた。これはもう十分だな。ではせっかくだから、後6種類、一週間、毎日日替わりに設定できるように撮ってやろう」
「はぁっ?な…やだっ」
バカ火宮。
次はどんな可愛い翼の写真にしようか?と企み顔で笑っている火宮に、頭痛までしてくる。
「そう遠慮するな」
「してなっ…」
だから、バカなの?
この人は…。
こうなった火宮を止める術が、何度こういう目に遭っても、俺にはさっぱりわからない。
「ほら、翼。今度はこれなんかどうだ」
ニヤリと笑う火宮が持ち出したのは、シュルリと長い黒い尾で。先に尖ったスペード型の小さな飾りがついている代物。
同時に出された背中に背負うタイプのコウモリ羽に、尖った2つの角のようなそれはカチューシャか。
「いやだぁっ。やだっ」
獣の次は小悪魔コスプレだって?
そもそもなんでそんなものの用意があるんだ。いつどこで買った。
なんのために!
現実逃避に近い疑問がグルグルと頭の中を回り、そんな姿のどこが可愛いんだと火宮の思考回路を疑う。
「ククッ、まずはこれを外してやろう」
「んあぁぁっ!やっ…」
今まで散々ナカを苛めてくれていた、キツネの尻尾付きバイブをズルッと引き抜かれ、俺は思わずその刺激に背を仰け反らせた。
「うぁぁん、もうやだ。お願いです、火宮さん…」
許して、と情けない懇願が口から零れ続ける。
「俺が悪かったから。あなたとのツーショット写真を侮辱してごめんなさい」
「クッ、なんだもう降参か?」
「っん!」
微かに取りつく島が見えて、俺はコクコクと全力で頷いた。
「お、俺だって、待ち受けじゃなきゃ、2人の写真は、本当は欲しいんです」
「ほぉ?」
「一緒に海に行ったとき、もっと写真を撮ればよかったって…2人で過ごした時間の思い出を、画像に残せばよかったって…」
「翼?」
「あなたと2人の写真っ…が、欲しい。2人の思い出と、その姿を、いっぱい撮りたい」
他のみんなは。体育祭の時にやたらと撮られた写真とか、火宮のそういうショットを持っているのに。
「俺の火宮さんなのに」
ポロッと零れた言葉を理解する前に、ブワッと妖艶な色香が、火宮の方から吹き付けた。
「翼」
っえ…?
急にふわりと抱き締められて、目を白黒させてしまう。
「誰が、なんだって?」
「え…?」
あ…。
俺…。
「ククッ、翼」
「っ…」
自分の漏らした言葉の意味に気が付いて、今更ながらにぼわっと頬っぺたが熱くなった。
「俺は、おまえのものだ、翼」
「っ、火宮さん…」
「おまえが望むのなら、いくらでも」
撮りたいだけ、写真を撮らせてやる…そう続いた言葉に、なんだか胸がきゅぅっとなって、へにゃりと笑ってしまったら、前からパシャリとスマホのフラッシュに照らされた。
「っつ…」
「いい顔だ」
「っ、でも俺、裸…っ」
きゅっと火宮に抱き締められ、半分くらいは隠れているとは言っても、身に何も纏っていないのは丸分かりだ。
「誰に見せるでもなし、構うものか」
「そ、うですけど…」
ククッと笑った火宮がまた1つ、パシャリとフラッシュを光らせる。
「なっ、火宮さん?」
「クッ、むくれたおまえの顔も可愛い」
「はぁっ?ちょっ…」
「ほら、笑うおまえ。不貞腐れるおまえ。俺を睨むおまえ…」
ぎゅっと俺を後ろから抱き締めたまま、手を伸ばしてスマホを構えた火宮が、次々と2人の写真を撮っていく。
「っーー!ずるい」
「ッ、おい?翼」
「貸してくださいっ」
サッと火宮の腕から抜け出して、パッとスマホを奪い取る。
「翼?」
「ふふ、愛おしい、恋人を見る、火宮さん」
パシャリ。
自分で言っていて、滅茶苦茶恥ずかしい台詞だけど。
スマホのカメラを向けた俺に、火宮がとても緩く、優しく微笑んで。
「やばいです、これ。待ち受け決定」
愛おしいあなたのワンショット。
俺に向かって微笑みかける、俺だけの、火宮の笑顔。
「ククッ、翼。売るなよ?」
悪戯っぽく目を細めた火宮のそれが、俺にはなんだか小さな照れ隠しに見えた。
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