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第548話
結局、無事に紫藤と連絡の取れたらしい豊峰が言うのには、紫藤がリカたちにも声を掛けてくれるそうで。
俺たちは、待ち合わせ場所の駅に向かって車を走らせてもらった。
わざわざパーキングに入ってもらうのも悪くて、駅前のロータリーで下ろしてもらう。
豊峰と、浜崎も一緒に降りて来た。
「さーてと。おっ、和泉からメッセージ来てるぞ」
「なんて?」
「リカと女子が何人か、それとタクトたちも、みんな来れるって」
「おー、すごい」
急な誘いの割に、みんなフットワーク軽いな。
スマホの画面を見ながら教えてくれた豊峰に、俺は感心しながら軽く拍手する。
「来れるやつからてんでんに向かうってさ」
「了解。じゃぁそれまで待ってるか」
ロータリーの花壇の縁に軽く腰掛けて豊峰を誘う。
「あっ、翼さん、おれちょっと、幹部に報告の連絡を入れて来てもいいですか?」
ふと浜崎が、申し訳なさそうにしながらペコリと頭を下げた。
「あ、はい。そういえば急な行動でしたよね…」
「すんません。ちょっと外しますが、豊峰。その間、翼さんの護衛頼むぞ」
すぐ戻ります、と浜崎が少し離れた場所へ歩いて行く。
「へいへい、しっかりお守りいたしますよー、会長の本命様」
「んもぅ、そうやってふざけて」
揶揄うように目を細めた豊峰を、ムッと睨みつけた、その時。
「あれ…?」
ふと、雑踏の中から、見知った顔を見つけて、俺は花壇の縁からふらりと立ち上がっていた。
「翼?どうした?」
豊峰が、不審そうに俺を見上げてくる。
「う、ん…ちょっと」
キョロキョロと、雑踏の中を、何かを探すように目を彷徨わせながら歩いていた男が、たまたま何気なくこちらを向いた。
『あ…』
『あ、えっと、こんにちは』
この間の…と、驚いたような顔をしている男に、俺はニコリと笑ってみせた。
『こんにちは。またお会いしましたね』
『そうですね』
『その節はどうもありがとうございました。あれから無事に連れとは合流できまして』
ふわりと微笑む男の人は、やっぱりとても綺麗な容姿をしているとつくづく思う。
『そうですか、それは良かったです』
それに引きずられるようにゆるりと微笑んでしまった俺に、ふとその男の人の顔が陰った。
『どうかしましたか?』
お節介にならない程度に、そっと様子を窺えば、その男の人は、困ったように苦笑して、辺りをキョロキョロと見回した。
『いえ。私はどうも、うっかりはぐれやすいようでして』
『まさか今日も迷子ですか?』
『お恥ずかしながら。南改札口を出たところで、と言われたのですけれど、どうやら出口を間違えてしまったらしく…』
ここはどこだと途方に暮れているその男の人が、なんだか可愛く見えた。
『南改札ですか?真反対ですね』
方向音痴にも程があるとは思うが、知らない土地に来て、迷ってしまうのは仕方がないことなのかもしれない。
『真反対…そうですか』
お恥ずかしい、とますます落ち込んでしまった男の人に、俺は反射的に1歩踏み出していた。
『よかったら送りましょうか?』
ここからだと、かなりあちこちを曲がって経由しなくてはならない。
『そんな、お待ち合わせか何かでは?』
『そうですけど、まだまだ来そうにないから大丈夫です』
俺にとっては見知った慣れた街だ。
南改札に行ってこちらに帰ってくるくらい造作もない。
『本当によろしいのでしょうか?』
遠慮がちに、けれども連れて行ってもらえたら非常に助かる、と目の奥が期待している男の人に、俺はにっこり笑って請け合った。
『もちろんです。では行きましょう』
こっちです、と男の人を誘って歩き出す。
「は?おい、翼?」
「あ。藍くん、ごめん。ちょっと俺、この人を南口まで案内してくる」
そういえば忘れていた。
豊峰が一緒にいたんだった。
「はぁっ?ちょっ、翼」
「あー、その間に誰か来たら悪いし、藍くんはここで待っ…」
「んなことできるわけねぇし。俺も行く」
「えっ、でも」
「ごちゃごちゃうるせぇな。おまえを1人でふらつかせられるわけがねぇだろうが」
分かってねぇっ、と喚いている豊峰に、そういえば、と苦笑してしまう。
少し離れた向こうの方では、浜崎が「は?」と言わんばかりに目を見開いて、慌ててワタワタと追いかけてくる姿が見えた。
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