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第550話

それから、リカやタクトたちとも合流して、みんなでワイワイ、ボーリングやらカラオケやらと楽しんだ。 1日中はしゃぎ、そろそろ帰ろうかと店を出たのは、もう夕刻だった。 「ひゃぁー、遊んだ、遊んだ」 にこっと満足そうに笑ったリカが、うーんと大きな伸びをしている。 「もう夕方じゃん。遊んだなー」 「ねー。はぁ、お腹空いた。ねぇ、もうついでだからさ、このままみんなで夕食も食べてかない?」 リカの誘いに、「さんせーい」と、女子たちもタクトたちも手を上げている。 「つーちゃんとそっちの2人は?」 手を上げなかった俺と豊峰、そして紫藤をチラリと見てきたリカに、返事を考えながらスマホを取り出した俺は…。 「っのわっ?!」 画面を見下ろした瞬間、図ったように鳴り響いた着信音に驚いて、思わずスマホを取り落とすところだった。 「ダンナ?」 「っ、ちが…っわないけど、言い方!」 くすくすと、悪戯っぽく目を細めるリカの、揶揄う声にムッとなる。 「出ればー?」 ニヤニヤと、楽しげにこちらを見てくるその他大勢の視線を気にしながらも、俺はコソコソとその視線から逃れるように横を向いて、通話ボタンをスライドした。 「もしもし」 『俺だ。今どこだ』 「え?あ、えーと、××駅の近くのカラオケの前です」 『分かった。真鍋を行かせる。おまえの車は帰せ』 深みのある低い声が通話口から響いてくる。 「え?あの?」 『5分で着く』 プツン、と、それだけ言って切れた電話を、まじまじと見つめてしまう。 「翼、会長、なんだって?」 唖然となってしまった俺に、横から豊峰の声が飛んできた。 「え?あー、なんか、真鍋さんを寄越すって…」 「呼び出しか」 「だよね。迎えってことだよね…」 まったく、親切じゃなさすぎる言動にがっくりしてしまう。 「つーちゃん?」 「ごめん、呼ばれた」 「カレシさん?相変わらずラブラブだなぁ、もう」 「あはは。ごめん、俺、ここまでで」 みんなとファミレスも行ってみたかったけど、まぁ仕方ない。 「了解っ、と。そっちのお2人は?」 「俺は…」 「藍くんは、真鍋さんが来るみたいだから、大丈夫だと思うよ?」 護衛は多分、タッチ交代だ。 残って大丈夫、と告げた俺に、食いついたのは何故かリカだった。 「真鍋って…まさかまさか、あの美形様っ?来るの?今?ここにっ?」 キャァァァッ、と途端に目を輝かせたリカに、思わず顔が引きつる。 「あの…」 「よし。つーちゃんのお迎えが来るまで、ここで待ってよう。そんでつーちゃんのお見送りをみんなでしよう」 うん、と気合を入れたリカの目的が、俺の見送りなんかじゃないことは明らかで、その場の全員が派手に苦笑を浮かべた。 それから数分後、本当に真鍋が迎えにやってきて、リカの悲鳴に近い大歓声の中、俺は路上に止められた車に連れていかれた。 予想通り、豊峰と浜崎はお役御免となり、豊峰はみんなとファミレスへ、浜崎は俺付きの車と一緒にマンションに帰るらしい。 「はぁぁっ、あのサルはなんですか?」 「え?サル?」 「黄色い悲鳴がうるさい。街中で、目立ちたくないものを」 バンッ、とドアの閉じられた車内で、早速ヒュォッと真鍋の低気圧が吹き荒れる。 「あー、まぁ、なんか、すみません」 あなたの美貌にやられたファンですけどねー。 「まぁあなたを責めても仕方ありませんけれどね。どこにでも馬鹿はいます」 「うわー」 いくら望まない好意だとはいえ、あまりに辛辣だ。 「さすが火宮さんの片腕」 どSっぷりが今日も冴えている。 「その暴言は誉め言葉として受け取っておきます」 「えっ?えっ?」 暴言?どの辺りが…って、あ。 「言ってませんからねっ?火宮さんがどSで、真鍋さんはそれ以上だななんて!」 「……」 「え…?あ」 ヒヤリ、と車内の温度を下げて無言になった真鍋に、俺はうっかり滑った口に気が付いた。 「こ、これは…」 「きっちりとご報告申し上げます」 にっこりと、多分口元だけが笑っているんだろう真鍋の、冷たく無表情の目だけが、バックミラーに映っていた。

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