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第562話

「え?あ、アキさんですか?えっと、最近知り合ったんですけど、中国からお仕事に来ている方です」 「中国から…」 「はい。最初はデパートで、昨日は駅で、たまたま会って、なんか話すようになりまして」 そっか。言っていて思い出したけど、昨日の今日だもんな。駅からの行動範囲にあるこの辺りを、ウロウロしていても不思議じゃないか。 「そうですか、たまたま…」 失礼にならない程度に、ちらりとアキを見た池田が、静かに1つ頷く。 それを不思議そうにコテンと首を傾げて受け止めたアキが、次にはパッと表情を切り替えて、クレープ屋のメニューに目を移した。 『迷いますねぇ。翼はもう何を食べるか決めましたか?』 にこりと笑って問われて、俺もふらりとメニューに視線を戻した。 『うーん、まだなんですけど。あっ、このいちごがたっぷりなのが美味しそうだ。あぁでもこっちのフルーツいっぱいのもいいなぁ』 どれもこれも美味しそうで、迷ってしまう。 『ふふ、目移りしてしまいますよね』 『ですよねー。アキさんは決まりました?』 『私ですか?そうですねぇ…』 うーん、と決めかねている様子のアキは、大人なのに、男の人なのに、なんだかちょっと可愛く見えて。 『あっ、もし候補が2つとかあるようでしたら、互いに1つずつ注文して、シェアするっていうのはどうです?』 そうしたら1度で2度美味しい。 すっかり友達感覚で、そんな提案をしていた俺に、アキがふわりと笑って、そうですね、と頷いた。 『翼はどれが気になっています?』 『俺は、やっぱりこのいちごのやつです』 『あぁ、それは私も目をつけていました』 『アキさんの食べたいのは?』 『私はこのキャラメルバナナですかね』 スッ、と指さされたクレープの写真も、これまた美味しそうで、じわっと唾液が滲み出る。 『いいですねっ、食べてみたいです』 『ではその2つで…』 ふわりと微笑むアキが、店主の前にスッと立って…。 『これと、これを』 容易な英語で、メニューの写真を指差して注文してくれた。 『あっ、お金』 『いいですよ、ごちそうさせてください』 『いやでも…』 そんな、まだ会って3度目の、そこまで親しいとは言い切れない人に奢ってもらうわけにもいかない。 「池田さん」 困って頼れる護衛様を振り返ったら、承知した様子でスッとスマートに池田がアキにお金を差し出した。 『翼さんの分は、こちらでお支払いさせてください』 「え。池田さんも英語話せたんだ…」 スルリと池田の口から飛び出した流暢な英語に、思わず呆気にとられてしまった俺は、ピリッと一瞬張り詰めた池田とアキの空気を、完全に見逃してしまった。

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