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第588話※

「っ…あぁ」 うん、やっぱりね。 この椅子に導かれたときから、まぁ予想はしていたけれど。 案の定というかなんというか、そこに座らされた俺は、肘掛けについた黒いバンドで、両手首をそれぞれ椅子に括り付けられる形で拘束された。 「っ…」 しかも両足首は、左右に開く形で、それぞれのふくらはぎをすっぽりと包むような足置きにピタリと拘束される。 あぁ、これで自由がなくなった、なんて、半ば諦めと共に考えた俺は、ふと、火宮がなにかのスイッチを弄った姿を目の端に捉えた。 「え?あ、な、なにっ?」 ウィーンと小さな機械音を響かせて、椅子がゆっくりと倒れていく。 同時にゆるゆると開いて行く足置きに、拘束されている足が無理やり開かされていった。 「え、やっ、ちょっ、まっ…やだ」 なにこれ、なにこれ、なにこれ。 椅子に拘束されただけじゃないの? 仰向けに倒れた形で、下半身が軽く持ち上げられ、両足は秘部を曝け出すように大股開きにされていく。 意志とは関係なく、パカッと火宮に向かって股間を差し出すようなその体勢に、俺の頭の中は完全にパニックになっていた。 「やっ、いや、火宮さっ…」 ジタバタと反射的に手足がもがくけれども、ピッタリと拘束された手足はバンドをわずかに軋ませるだけで、なんの抵抗にもならない。 「あっ、あっ、あっ…」 嫌だ、止めて、と思うのに、その言葉は上手く声にはならず、されるがままに開かされていく両足に、無意味な母音だけが漏れた。 「ひ…」 それは悲鳴だったのか、火宮の名を呼び縋りつこうと漏らした声だったのか。 ニヤリ、と意地悪く唇の端を吊り上げた火宮が、カチリとまたなにかのスイッチを触った。 「っ…」 ピタリ、と椅子の動きが止まる。 ジロジロと俺の全身を眺めまわした火宮の口元が、それはそれは愉しそうに、艶やかな弧を描いた。 「ククッ、いい格好だな、翼」 妖しく艶を含んだ火宮の低音に、ゾクリと身が震えた。 その声からは、隠しきれない愉悦と欲情が窺える。 「うぅ、こんなの酷いです」 いくらなんでもこんな恥ずかしい格好をさせられるなんて。 恋人にこんな仕打ちができるこの人の、どSっぷりを舐めていた。 「ククッ、俺の目の前で、俺以外の男の上に跨って、密着している姿など見せるからだ」 「っ…」 あぁ、この独占欲の塊と、嫉妬深い火宮を刺激した俺の失敗か。 「けれども身体は嫌がってはいないようだな?」 「え…?」 「随分とどMになったものだ」 ニヤリ、と笑った火宮の視線を追って、ふらりと目線を落とした俺は、足の間でゆるりと頭をもたげた性器を見つける。 「っーー!」 違う!これは、火宮さんに見られているからであって。 決して恥ずかしいことが好きだとか、この体勢に感じているとか言うわけじゃないんだ! 「あぅ、あぅ、あぅ」 必死で言い訳をしようと動かした口は、ただ無意味にパクパクと、開いたり閉じたりを繰り返しただけだった。 「ククッ、その顔」 「っ…」 一体どんな顔かは自分ではわからないけど、多分焦って真っ赤になって半泣きになっているんじゃないだろうか。 カァッと熱くなった頬と、じわりとぼやけた視界が、そのことを教えてくれる。 「だ、って、違う…」 この反応は、ただ、火宮の視線に感じてるだけで。 俺は決してMになったわけじゃないんだから。 「あ、なたが、嬉しそうに笑うから…。欲情した目で、見る、から…」 あなたのせいだ。 俺のすべてを支配できるのは、あなたの言動すべてだけだから。 「ククッ、嬉しいことを言ってくれる」 ツゥ、と火宮の指先が、俺の顎に掛かって上向かされる。 「それは、計算し尽くした媚を売っているのか?」 「っ…そんなわけっ」 「ならば本心か。まったく、おまえは」 最高だ、と紡がれた言葉は、重なった唇の動きで理解した。 「んっ、ふ…はっ」 ぬるり、と滑り込んでくる舌が、ぞろりと口内のいいところを舐め上げる。 顎裏から歯列の裏を、絡めとられた舌は丁寧に吸い上げられる。 「んんっ、あっ、はっ…」 ジュルッ、クチュッと思う存分に口の中を侵されて、クタリと身体から力が抜けていった。 「ククッ、すっかりいい姿になったな」 「ぷは…んあンッ…」 ぶわっと一気に入り込んできた空気に喘ぎ、ツーッと糸を引いた唾液を舐めとるように、反射的にペロリと舌を出す。 「相変わらず感じやすい」 ニヤリ、と満足げに笑った火宮の手が、スルリと俺の性器を撫で上げてきたかと思ったら、パチリとその根元に何かが嵌められる気配がした。 「っ!」 「ククッ、これで出せなくなったぞ」 「っーー!」 ハッとして股の間を見下ろせば、すっかり勃ちあがった性器の根元に、シリコン製のリングがつけられていた。 「ひ、みや、さ…」 「さぁ、ここから仕置きの本番だぞ」 っ! すでに十分、恥ずかしい目に遭っているというのに。 これがまだ序の口だというわけか。 ニヤリと笑った火宮の、それはそれは妖しいサディスティックな笑みに、慣れているつもりの俺でさえ、ゾクリと寒くなる背中を止められなかった。

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