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第589話※

うわー。 うん、そりゃ、これだけで済むとは思っていなかったけどね。 その手に持たれた、その道具。 嫌でも用途を知っているそれに、俺はげっそりと嫌な視線を向けた。 「ククッ、分かっていたような顔だな」 「う、まぁ…」 拘束されて足を開かれて、前を縛められたら後は何かって考えたら、もうそれしかなくない? ニヤリとした意地悪な笑顔のまま、キュポンとローションのキャップを開けた火宮の片手には、いわゆるアナルプラグと呼ばれる代物が。 「ふっ、空イキ3回で許してやるか」 「っーー!」 この鬼!どS!バカ火宮っ。 サラリと言われるその言葉の、残酷っぷりがもうなんていうか火宮だ。 「ほら、力を抜いていろ」 「んっ、う、つぅ…」 クチュッと蕾に差し込まれた指は、多少の違和感だけで痛みはない。 ぬるりと滑るローションが、丁寧に塗りこめられていく。 「んんっ、はっ、あっ…」 「こら、ちゃんと息をしろ」 「ん、あ、あぁっ」 そんなこと言ったって、早々に2本に増やされた指に、詰めてしまう息は無意識だ。 「ククッ、ここだったな」 「あぁっ!いやぁっ」 ビリッ、と痺れるような快感が突き抜ける一か所を、迷いなく突つかれる。 「あぁっ、んぁ、やぁ…」 そこ、駄目、ヤバイ。 ガチガチに固くなった前に、ギリギリとリングが食い込んでいく。 「ふっ、飛ぶなよ?」 グリグリと、イイところを散々刺激して、ズルリと火宮の指が抜けていった。 「ふぁっ…んぁ?」 ホッ、と脱力したのもつかの間。 しっかりと解された蕾の入り口に、ピタリと当てられる無機物の冷たさを感じた。 「っ…」 思わずギクリと身を強張らせてしまったところに、ククッと笑う火宮の愉悦に揺れた声が1つ。 「翼」 「っあ…」 ズルイ。 そんな愛おしむような優しい声。 ストンと身体から力が抜けてしまう。 「あぁぁっ!」 あぁもう本当、鬼なんだから。 弛緩した身体の隙をぬって迷わずに、ずぶりと突き入れられる玩具が蕾の中に収められていく。 「っ、く、あぁっ」 ピタリ、と前立腺を狙って押し当てられる玩具に、ぶるりと身体が震える。 「クックックッ、動かすぞ」 ニヤリ、と笑った火宮が、蕾の外に突き出た部分のスイッチを、躊躇わずにオンにした。 「ひっ、あぁぁぁぁっ!」 途端にパァッと脳内を真っ白く染め上げるような快感が、全身を突き抜ける。 ギシギシと軋む拘束の音が、プラグの振動音に紛れて聞こえてきた。 両手両足を拘束された不自由な身体は、ただただ与えられる快感に無防備に晒される。 身を捩って逃れることも、手足を振り回して耐えることもできない。 「あっ、あっ、あぁぁっ、いやぁぁっ、くるっ…」 早くも上り詰めた絶頂が、目前に迫っている。 「イく、イく、火宮さんっ、刃っ」 助けて、と震える唇は、空気を求めて喘ぐ金魚みたいにハクハクしている。 「ククッ、いいぞ?我慢しないでイって」 「あっ、あっ、やだ、やだっ、火宮さっ、イッ、くぅ…」 じわり、と目の前の火宮の姿が、涙の膜で滲んだのが見えた。 ヒクンッと全身が突っ張る。 出せないとわかっている絶頂を迎えるのが、どれだけ恐ろしく辛いことなのか、この人は分かっているのだろうか。 ニヤリと愉しげに俺を見つめるその目には、どれだけ淫らな俺の姿が映っている? 「ククッ、愛しい愛しい翼。おまえのすべては、俺のものだ」 ぐっ、とアナルプラグをさらにナカへ押し込まれ、グリッと擦られた前立腺に、目の前が白く霞む。 「ひ、あ、あぁぁぁぁっ!」 パァッと目の前に眩い光が差し、チカチカと脳内に点滅が走る。 「あっ、あっ、あぁぁぁぁっ!」 ビクン、ビクンと身体が勝手に痙攣し、ギシギシと拘束を軋ませて、俺は射精の伴わない絶頂を迎えていた。 「はっ、あぁぁっ、まだっ、まだぁっ…」 ドクドクと鼓動が早鐘を打ち、長く続くオーガズムに、ビクビクと全身が震え続ける。 イッてもイッても終わらない感覚に、恐怖さえ持ち始めた頃、ようやくそっとナカのプラグの位置がずらされた。 「ククッ、1回目。上手にドライでイけたな」 ニヤリ、と笑う火宮が、意地悪なカウントを加えてくる。 「いっ、かいって…」 1度で3回も4回もイッた感覚になるこれを、そう数えるか。 憎しみすら感じながら、ジロリと睨んだ目は、多分なんの威力もないんだろうことは、俺が一番よくわかっていた。 「ククッ、そんな熱い目を向けられてもな」 もうこの人の脳内を、誰かどうにかして。 「はぁぁっ、バカぁ…」 こっちは強烈なドライオーガズムで、すでに息も絶え絶えだというのに。 「クックックッ、まだまだ折れない、その意志の強い光を宿す瞳」 「っ…バカ」 愛している、なんて囁かれて、チュッと慈しむように口づけを落とされたら、ふらりと力が抜けてしまう。 「ククッ、さぁ、2回目だ」 「っ?!」 ヤバイ、そうだ、油断した。 うっかり脱力したその隙を、火宮が逃すわけがない。 グリッと再びイイ場所に、迷わずピタリと当てられたプラグの先に、俺の身体は再びビクビクと跳ね上がらされる羽目になった。

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