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第627話※
「ひっ、あぁぁぁぁぁっ!」
ビクンッ、と仰け反った身体から、またもピュッと白く濁った液体が吐き出された。
あれから数回、何度も絶頂を繰り返された身体が、グッタリとベッドに沈んだ。
ズップリと後孔を埋めたバイブが、それでも容赦なく前立腺を穿つ。
グリグリと動いてナカをかき混ぜられれば、快感を教え尽くされた貪欲な身体は、またもゆるりと性器を勃ち上がらせた。
「あっ、あっ、も、無理。むりぃっ…」
チカチカと、目の前に星が飛び、イきたいのにイきたくないという、矛盾に満ちた考えが頭の中を駆け巡る。
「あっ、あっ、も、やだ。も、やめ…」
「ククッ、嫌じゃないだろう?身体はほら、喜んでいる」
「あぁっ、違っ…あ、そこ、それや…っ」
「大丈夫。出来るさ。おまえならやれるぞ」
ククッと楽しげに喉を鳴らした火宮が、イッたばかりの敏感な性器をグリグリと手のひらで擦る。
ジュプジュプと後ろを穿つバイブをそのままに、強く亀頭を擦られたからたまらなかった。
「あぁーっ、それ、やぁぁぁっ!」
「ククッ、そろそろクるだろう」
グワン、と頭の中で、火宮の言葉がこだまする。
ぶわっと湧き上がるのはまたも迎えたくて迎えたくない絶頂感…のはずが。
「えっ?あっ、やだっ、やめっ、火宮さっ…!」
火宮の意地悪な顔越しに、見慣れないホテルの天井を見つめる目を、俺は大きく見開いた。
「だめっ、いやっ、火宮さんっ、火宮さっ…これ、っ、だめっ…」
「ククッ、何が駄目だ」
いいの間違いだろう?と囁く火宮に、ブンブンと首を振る。
それにつられて、両手を縛める枷に伸びる鎖がシャラシャラと音を立てた。
「だめっ、いやっ、ほんとにっ、刃ッ」
やばい。出る。
精子じゃない。精液じゃない。これは、これは…。
「刃っ、じんっ、お願っ…出る。でちゃうからぁっ!」
いやいやと全力で首を振り、ガシャガシャと鎖を鳴らし、必死でシーツを蹴り上げた俺は、火宮に希う様に視線を向けた。
「本当にっ、じんっ…」
「ククッ、出せばいいだろう?出していいと言ってある」
なのに火宮はやめてくれるどころか、ますます楽しげに、強く亀頭を擦り上げてきて。
「いやぁぁぁっ!だめっ、だって、漏れっ…」
そうなのだ。俺が今感じているのは、絶頂なんじゃなく、もっと別の何かが込み上げてくる感覚で。
「ク、るっ…出ちゃうっ、漏れちゃ…」
あ、あぁぁ…。
駄目だ。もう駄目だ。
そんなに先っぽばっかりをグリグリされたら。俺は、俺は…。
ぶわっと湧き上がる、大きな波が襲う感覚。
パァッと白く霞んだ脳内が、ドロドロに溶けていくようなこの感じ。
耐えに耐えた欲求に、陥落するその瞬間の、残酷で甘美なそのときが目前に迫った。
「あっ…」
「ククッ、イけ」
「あ、あ、あ、あぁぁぁぁ…」
とどめのように囁かれ、グリッと一際強く先端を刺激されて、プシュッと白濁とは違った透明な液体が、俺の中心から吹き出した。
びしゃびしゃと、粘り気のないサラサラの液体が、腹を、股を、尻からシーツを濡らしていく。
「あぁぁぁ…」
やってしまった。漏らしてしまった。
白濁ではないものが溢れ出ている感触に、俺は絶望的な気分でボロボロと涙をこぼした。
「ククッ、盛大に吹いたな」
「ふ、ぇっ、ひっく…ひみやさんの、せい、でっ…」
こんな、こんな、屈辱的で恥ずかしい真似。
えぐえぐとしゃくりあげる声が、カシャカシャと鎖の揺れる音に重なった。
「ククッ、そうだな。俺がさせた。初めてにしては上出来だ」
「はっ?な、に、言って…」
その嬉しそうに弾んだ声。この人は一体何を考えて…。
「さ、いて、です…。こんな、漏ら、させっ…」
「漏らさせた?」
「っ…」
何を不思議がっている顔をしているんだ。
いくらお仕置きだからって、こんなこと。
「ククッ、なるほど。違うぞ、翼」
「え…?」
「潮だ。おまえがしたのは、潮吹きだ」
「は?い?」
「ほら」
臭わない、と笑いながら、シーツを濡らした液体を示す火宮に、恐る恐る視線を落とす。
「え?だって、でも…」
俺は男だ。女の人と違ってそんなこと…。
「ククッ、知らないのか?男でもやりようによっては潮を吹ける」
実際におまえがやってみせた、と笑う火宮が、満足そうに目を細めて、バイブをずるりと引き抜いた。
「ひぁっ…」
「クッ、相変わらず色気のない声だ」
「んっ、ぁ、だ、って…」
「ククッ、だが、そうか。小便かと思ったのか」
「だって」
知らない。こんなの初めてで、分かるわけがないじゃないか。
確かに見下ろしたシーツに色はついていないけど。独特のアンモニア臭もしないけど。
「ククッ、なら十分仕置きになったな」
「う…」
まぁそれは、そうなるけど。
「ふっ、上手に出来たから、少し休憩を入れてやろう」
気持ちよかっただろう?と笑う火宮が、スッと俺の身体を掬い上げる。
「わっ…あンッ」
「これだけしたんだ。まだ敏感で辛いか」
クックックッ、と喉を鳴らしながら、火宮がゆらりとお姫様抱っこで俺を運んで行く。
「1度風呂だ。シャワーで流してやる」
「っあ…んっ、ふ」
どこに触れてもビクビクと快感を拾ってしまう身体に、火宮の吐息も運ばれる振動も毒だ。
それでも過激な責めは休んでもらえると知れて、ホッと身体から力が抜けていく。
ベトベトのドロドロの身体を清めてもらえるのも有難い。
「ククッ、寝るなよ?」
「ん、ぁ、はひ…」
トロンと落ちてしまった瞼を、すぐに咎められて、ハッと目を開く。
「まだ仕置き中には変わりないぞ」
ククッと笑う火宮の美貌が間近に見えて、ドキリと胸が高鳴った。
「はい…」
ふわりと笑う火宮の顔は、俺を慈しむようにあまりに甘くて。
仕置きだ、悪いやつだと言いながら、どうしてそんなに優しい目をして俺を見下ろしているのか。
きゅぅ、と締め付けられた胸の、甘い痛みの名前はなんなのか。
俺は多分、それをよく知っているような気がする。
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