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第630話※

ゆっくりと浮上した意識で、瞼を押し上げる。 ぼんやりと、見慣れない天井のLEDが、視界に入り込んできた。 背中に柔らかなスプリングを感じながら、俺はパチパチと瞬きを繰り返す。 「んっ…」 「あぁ、目を覚ましたか」 不意に、ひょい、と俺の顔を覗き込んできた火宮の美貌が、眩しい明かりを遮った。 「あー?」 えぇと?あぁそうか。俺は確か、風呂でお仕置きを受けて、それから…。 あのまま気を失ったんだな、というところまで思い出して、俺はゆっくりと身体を起こそうとした。 「ほら」 「あ、ありがとうございます」 スッと俺の背を支え、助け起こしてくれる火宮が優しい。 「とりあえず、飲め」 ぬっと目の前に差し出されたミネラルウォーターのボトルを、俺は素直に受け取った。 コク、コク、と、喉が大きく音を立てる。 思ったよりもずっと、俺は喉が渇いていたらしい。 息継ぎもそこそこに、一気にボトルの半分以上を飲んでしまった俺を、火宮が優しい目をして見つめていた。 「あ、の…えと、ごちそうさまです」 チラリと上目遣いで窺った火宮は、ふわりと微笑んだままだ。 「お粗末様?」 ククッと笑う火宮の顔が、揶揄いを含んで揺れていた。 「あー…」 これは、もしかして。もうお仕置きは終わりなんだろうか。 初めに24時間と宣言されたけど、あれは脅しだったのか? そんなことをする火宮ではないとは思うのだけれど、どうにもこの場の空気が甘く優しく解れているのは気のせいか。 「んっ…」 ごそっと身じろいで、布団を抱え直した俺は、ふと、その中に感じる自分の身体が、まだ一糸纏わぬ裸だということに気がついた。 「え。あれ…?」 やっぱり期待は外れなのか。 ククッと喉を鳴らした火宮が、スルリと頬を撫でてきた手にゾクリとする。 明らかに性的な意味合いを持ったその触れ方に、俺の身体は自然と熱くなった。 「翼」 「ふ、あ、はい…」 するり、するりと、頬を往復した手が、クチッと唇を割って、口内に入り込んでくる。 「んあ…」 グイ、と下の歯を下に押され、自然と口が開いてしまった。 「はっ、ふっ…」 「ククッ、物欲しそうな目をして」 「ふぁ?あ…あ」 ぬるりと舌を指先で挟まれて、タラリと口の端から涎が落ちていく。 「んあぁっ、あ、ふ…」 ぬるり、くちゅりと口内を弄びながら、火宮は俺の唾液を丁寧に指に絡めていった。 「あっ…」 口の周りが唾液でベトベトになった頃、不意に口内の圧迫感が消えた。 テラテラと光る火宮の指が、ゆっくりと下の方へ降りていく。 「っ?!」 挿いるッ…。 グイッと片足首をふいに持ち上げられ、バタンと後ろにひっくり返った身体が、ぼすっとベッドに沈んだ。 ぴたりと後孔に触れた火宮の指先を感じる。 「っ、あ、あぁっ!」 ツプ、と、蕾が割り開かれ、火宮の指がずぶずぶと後ろに埋められた。 生理とは逆の動きをする指は、本来気持ちが悪いはずなのに、そこでの快感を教えられ、慣らされ切った身体は、その指を何の抵抗もなく受け入れる。 それどころか、まるで火宮の行為を手助けするように身体からは自然と力が抜け、蕾はヒクヒクと勝手に開いていった。 「ククッ、素直な身体だ」 満足そうに笑う火宮の声と共に、後ろを穿つ指が増えた。 「んぁっ、あ、なたが、俺の身体をこうしたっ…」 「そうだな。俺が躾けた」 「んっ、はっ、あなたの…」 あなたのものだ。この、俺の身体は。 圧迫感の増えた後孔に、ハクハクと口を喘がせれば、火宮はクックッと可笑しそうに喉を鳴らして、ぐりっと前立腺を擦り上げた。 「あぁっ!」 ビクッと仰け反った身体が、ふるりと震える。 むくりと勃ち上がってしまった性器が、ペチンと腹を打った。 「そうだな」 ぽつり、と呟かれた火宮の声が聞こえた気がした。 「え…?」 不意に、ぬるりと内壁を擦り、火宮の指が抜けていく。 「んあぁっ…」 排泄にも似た感覚に、ゾクリと背筋を震わせていたら、ふらりとそのまま、火宮が俺から離れて行った。 「火宮さん…?」 ポイッとベッドの上に、何かの道具が放り出された。 何やら何やらグネグネと変な形に曲がった棒状の物体に、左右にカーブした取っ手のようなものが伸びている。 バイブやプラグとは違う、けれど似通った形状に、それが挿れるものだとは想像がついた。 ついたけれど、どうやら火宮はそれを使う気がないらしい。 それどころか、俺から離れた火宮の身体は、そのままスルリとベッドも降りていった。 「あの…」 お仕置きを、まだ継続するのではなかったか。 何を考えているのか、静かで凪いだ火宮の目が、ベッドの上に残された俺に向いている。 「火宮さん?」 「クッ、あぁ。今日はもう疲れただろう。このままもう休むといい」 さらりと俺の髪をひと撫でした火宮が、そのまま静かに身を引いた。 「え…?」 これは、その言葉の通り、許されたと思っていいのだろうか。 それとももしかして、この放り捨てられた道具を使って、自分ですることを期待されている? 突然の展開についていけない頭が混乱して、勢いのついていた性器はすっかり項垂れてしまった。 「おやすみ」 混乱を極めた頭が、火宮の意図を掴めない。 そうしている間に、火宮はするりと俺に背を向けて、リビングの方へ消えてしまった。

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