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第659話

そうと決まってからの俺は、それまでの乗り気のなさが嘘だったかのように、文化祭の準備に率先して勤しんだ。 もとよりノリ気だったリカと2人、クラスメイトを大いに巻き込んで暴走し尽くす。 次から次へと新たな提案や物事の手配を済ませ、うちのクラスは誰が見てももう優勝間違いなしという、完璧な執事メイド喫茶を完成させた。 「ふぅー。長かったぁ」 ここまで来るのに、どれだけの時間と労力を使ったか。 それでも、いよいよ明日から始まる文化祭。完璧に仕上がった模擬店内を見回して、満足に頬が緩んでしまう。 「セッティング、完璧。衣装合わせ、オッケー。レシピの考案も間違いなし、材料の手配もばっちり」 うん、漏れなく完璧、と笑うリカに、隣でチェックシートを見下ろしながら、俺もウンウンと頷いた。 「後は明日から2日間、完璧な接客とメニューの提供で、優勝を目指すのみ!」 「おう」 ぐったりと、そこかしこに座り込むクラスメイト達の屍は見ないことにしながら、リカとコツンと拳と拳をぶつけ合う。 「おまえら、元気だな…」 ヘトヘトになって床に座り込んでいた豊峰が、げっそりとした目を俺たちに向けていた。 そこに。 「ただいま。ごめんね、生徒会の方の仕事でこっち全然手伝えなくて…って、これは」 ふと、教室後方の入り口から、紫藤がひょっこり顔を出し、驚いたように目を瞠った。 「えへっ、どう?完璧でしょ」 えっへんと胸を張るリカに、紫藤の頭がゆるりと上下する。 「うん。だけど、僕が驚いたのは内装もなんだけど…この死屍累々と倒れているみんなの姿は…」 「あー、これはね…」 俺とリカの大暴走の結果、クラスメイト達を振り回した挙句こうなったわけで。 思わずあらぬ方をフラリと見つめてしまった俺に、紫藤は分かったようにクスリと笑った。 「ま、去年のリカの所業を思い出せばね…」 分かるというもの、か。 「で、それが火宮くんまで一緒になって、2倍になれば、そりゃ…」 こうなるわけだ、って? こき使われて駆けずり回されるはずの補佐の1人が、振り回す方にまわったんだからたまらない、と笑う紫藤に、改めて周囲を見回した俺は、ちょっとだけ。本当にちょっとだけ、己の所業を反省した。 「でも、お陰でこれだけのクオリティ!もう、絶対優勝間違いなしなんだから!」 結果で報いると胸を張るリカは、やっぱりどこまでもリカ様で、けれどちょっとだけ格好良かった。

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