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第669話※

「っ…」 きゅっ、と噛み締めた唇は、痛みと屈辱を堪えてのもの。 サワサワと尻を撫でる火宮の手は、いつでも振り上げることが出来るのだぞと語っている。 この状態で反撃に出るほど、俺は無謀でも無能でもなくて。 身を強張らせて、スカートの裾を捲り上げたまま、ジッと火宮の次の行動を待っていた。 「ククッ、寒いか?」 鳥肌が立っている、と太腿に手を滑らせる火宮が意地悪だ。 また叩かれるかもしれない恐怖から粟立った肌は、決して寒さに凍えてのものではないことくらい、火宮にも分かっているはずだから。 「っ…」 フルフルと首を左右に振れば、クックッと鳴らされる、火宮の独特の笑い声が聞こえた。 「痛みは嫌いだったな」 「っ、ぁ…」 スルリとお尻に戻ってくる、火宮の手にびくりと震える。 その手がいつまた振り上がるかと思うと気が気じゃない。 きゅぅ、と下腹部が切なく震え、心臓がバクバクと音を立てる中、俺のお尻には、知らずのうちにきゅっと力が入っていた。 「ククッ、こんなに緊張して」 サディスティックな愉悦を含めて笑う火宮が、するするとお尻の丸みに沿って手を這わす。 「っ…!」 その悪戯な手の指先が、不意にするりと割れ目の間に忍び込んできた。 「ほら、力を抜け」 「あっ、やっ、でも…」 「素直にしないと、どうなるんだったか?」 「あっ、い、じわる…っ」 そんな脅し。 先程それの罰と、両尻をぶたれたことは記憶に新し過ぎる。 「ククッ、痛みの方が好きか」 「やっ、違う!抜くから。抜くから叩かないで」 はくっ、と焦りに変な息を吐き、俺は慌てて尻の力を抜こうと努力した。 へにゃりと両尻が柔らかくなる。 すかさずその隙を逃さず火宮の指先がつんと蕾に触れた。 「っ、あぁ…」 「ククッ、スカートはもう離していいから、今度は両手で尻たぶを両側に広げてみせろ」 ニヤリ、と意地悪な笑みを浮かべただろう火宮のことが、振り向かなくてもはっきりと分かった。 「そんな…」 「出来ないか?」 ペチ、と片方の尻たぶを軽くぶたれたのは、完全な脅しだった。 いつでも力強く打てるんだぞ、って? ぞく、と背筋が震えたのは、恐怖からだったのか。 お尻をぶたれて泣きながら屈する自分を想像したら、ジーンと頭の奥が痺れた。 「っ、このどSっ」 違う、違う、違う。 背中の粟立ちは、決して快楽からではない。 頭に浮かんだ光景を振り払いながら、俺は必死でブンブンと頭を振った。 「ククッ、この状況でその暴言か」 無謀なんだかどMなんだか、と笑う火宮の声にカッとなる。 「俺はMじゃないですっ…」 「ククッ、そうか?」 意味深に、ピシャリとお尻を軽くぶたれて、ビクッと身体が強張った。 そうだ。 だって素直に自分からお尻を開くなんて恥ずかしすぎて難しい。 だったら無理矢理痛みでもなんでも、それから逃れるために仕方なくと理由がついた方がまだどうにかなる。 そうだ。そういうことなんだ。 誰にするわけでもない言い訳を頭の中でくるくると浮かべながら、俺はそろりと後ろの火宮を窺った。 「なんだ。泣いてから従うか?」 ならぶつが、と離れていく平手に、ギクッと身が竦む。 決してぶたれたいわけではないし、痛いことは大嫌いだ。 だけどそれで屈服させられる自分は、どこか倒錯的な快感の中にあるような気もして。 「っ、ぅ、バカ火宮」 「ほぉ?」 「ふぇっ、くっ…火宮さんのせいだ」 いつもいつもそうやって、俺のことを染め上げてしまったから。 じわりと滲んだ視界で、俺は目にいっぱいの涙の膜が張っていることに気がついた。 「何がだ」 「火宮さんがっ、意地悪だからっ。俺、なんだかあなたに思い通りにされるのに慣れちゃって…っ」 ひくっ、と上がった鳴咽に、火宮の空気がぶわっと熱を増した。 「好きにして、って…」 「翼?」 「好きにしてって、思っちゃってるじゃないですかっ!」 あなたのせいだ。 うわぁん、と上げてしまった泣き声に、火宮の余裕をなくした掠れ声が重なった。 「翼。これはおまえが悪い」 「はぁっ?」 だから悪いのは火宮さ…。 思考は最後までさせてもらえることはなく、火宮の身体がガバリとのし掛かってくる。 「っ…」 「俺にその身も心も全てを明け渡すと言っているような発言を」 「っ、やっ…」 「俺色に染まり切るのが快感だと?俺色に、染まり切ってやっただと?」 ハッ、ハッ、と上がる火宮の息に、ゾクゾクと身体の中心が痺れた。 「あっ…」 「どこで覚えた。最高の殺し文句だなっ…」 「ひ、ぁぁっ!」 ドロッと後ろに垂らされたのは、感触からしてローションか。 なんで文化祭に遊びに来ただけでそんな用意があるのかとか、いつどこから持ち出したとか、尽きない疑問はあるけれど。 「そそられた」 上等な煽り文句だ許してやる、と、笑った火宮の指がズップリと後孔に埋められていく。 「ひぁっ、あぁっ!」 「ククッ、辛ければ、そのまま机に体重を預けておけ」 グチュグチュと、早急に蕾を解しながら、ジーッとズボンのジッパーが下される音が響く。 「っ、あっ、あぁっ、火宮さっ…」 ずるりと抜け出した指の感触がしたかどうか。 ピタリと後孔に充てがわれた熱があつく震えた。

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